おにぎり屋ふくふく|雨の日のふくふく
朝から、しとしとと雨が降っていました。
ぽつ、ぽつ。
やがて、しっかりとした音に変わります。
「今日は静かだねぇ」
ふくさんが、窓の外を見ながら言いました。
いつもなら聞こえる足音も、今日は少し少なめです。
ミケが、丸くなりながら言います。
「雨の日って、眠くなるのよね」
まぐろも、のんびり。
「わかる〜」
トラは窓にぴったり。
「でも、ちょっとさみしいね」
シロは、やさしくうなずきました。
「こんな日は、誰かに会いたくなるものよ」
クロは、外をじっと見ています。
雨の向こうを。
そのとき――
からん、と扉の音。
ひとりの女性が、入ってきました。
傘を閉じて、少しぬれた肩。
どこか、元気がない様子です。
「いらっしゃい」
ふくさんが、やわらかく迎えます。
女性は、小さく言いました。
「……あたたかいの、ありますか」
「あるよ」
ふくさんは、にっこり笑っておにぎりを握りはじめました。
今日は、塩むすび。
シンプルで、まっすぐなやつ。
クロは、そっと女性のそばに座ります。
「にゃ」
女性は、少しだけ驚いて、
でも、すぐに力を抜きました。
「……ありがとう」
おにぎりを受け取ります。
まだ、ほかほか。
ひとくち。
「……おいしい」
その声に、少しだけあたたかさが戻ります。
雨の音は、変わらず降り続いています。
でも――
店の中は、どこか静かで、やわらかい空気。
女性は、ゆっくりと食べながら、小さくつぶやきました。
「こういう日も、悪くないかも」
クロは、しっぽをふわりと揺らします。
食べ終わるころには、女性の表情は少しだけやわらいでいました。
「ありがとう」
今度は、ちゃんとした声で。
ふくさんは、うなずきます。
「気をつけてねぇ」
外はまだ、雨。
でも、さっきより少しだけ
やさしい音に聞こえました。
クロは、窓の外を見ます。
しとしとと降る雨の向こう。
どこかでまた、あたたかい気持ちが広がっているような気がしました。
その日も、ふくふくは――
雨の中で、そっと誰かをあたためていました。




