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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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第9話 ヒューマロットの殺意

「連続殺人事件ですか? しかもヒューマロットの」

《肯定です》


目の前のホログラムが発した言葉に、ネオンとルミナが難しい顔をしている。


案外、世の中の大人の大半は難しい話をしている時でも本当は分かっていなかったり、どうでもいいと思いながら、それっぽい顔をしているのではないかと思うことがある。

そして、世の中はそんな「難しい顔をした大人たち」のポーカーフェイスによって回っているのではないか。

そんな益体もないことを考えながら、俺もとりあえず真面目な顔(無表情)を作って頷くのだった。



ビャッコとして着任し、日々の任務にも慣れた頃。

ある日突然、詰所に鳴り響くアラームの音。

いつもの出動命令とは違う重低音の警報に、何事かと集まった3人は『治安統括本部 特務指令』の文字に眉を動かす。


そして告げられたのが、冒頭の殺人事件についてであった。


《今月に入り、第41管区周辺地域にてナチュラルおよびヒューマロットが同一の手口で5人殺害されています。目撃情報および監視カメラの映像解析から、犯人をヒューマロットと断定しました》


そう淡々と説明する、一応は人型の形をとっているが人間味の欠片もないホログラムに、ネオンが鋭く質問する。


「断定? それは統合監査局の公式見解ということですか?」

《肯定です》


それを聞いたネオンは、眉間の皺を深くした。


(統合監査局が結論を出したなら、証拠は固いんでしょうけど……)


ヒューマロットの生産はサクラデバイスが一括管理しており、その行動には厳格な制限がかけられている。

特に人間への加害行動は、基本原則として禁じられているはずだ。


規制が緩かった昔は、今よりも人間に近い状態で出荷されており、その手の事件もあったらしい。

だが、13年前に起きた「ある事件」以降は規制が大幅に強化され、少なくともここ数年は聞いたことがない。


(もちろん、例外はある。『自己保存』の優先順位だ)


ネオンの思考が巡る。

ヒューマロットは高価な資産であるため、自身の破壊を避けるよう教育されている。

極限状況下でその判断が暴走し、結果としてナチュラルを殺傷してしまう事故は、残念ながらたまに発生する。


(でも、今回は『連続殺人』……?)


ネオンの思考が巡る。

突発的な自己保存による事故なら単発で終わるはずだ。

だが、今回は同一犯による連続した犯行。明らかに「計画性」がある。

自己保存の暴走ではないとしたら、何だ? 品質エラー? それとも別の要因?


(この子は、どう思っているのかしら?)


ネオンが視線を向けた先には、真剣な表情でホログラムを睨みつけるビャッコの姿があった。

ビャッコは先日の事件で、ためらいなく人間に銃口を向け、制圧してみせた。

あれは「業務」だから許されたことだが、もしその判断基準が歪んだら?

ビャッコを疑いはしないが、この子のようなヒューマロットがいるのだから例外が他にいないとは限らないだろう。


ビャッコはずっと眉を寄せて、微動だにせず話を聞いている。

身内も同然のヒューマロットが事件を起こしたというのに、動揺する様子は見せない。 いや、時折見せる悲痛な表情には、確かな感情が宿っているように見える。

それは、道を踏み外した同胞への怒りか、それとも祈りか。


《犯行現場はいずれも生活区画下層地帯。監視カメラの死角を利用し、夜間帯に実行されています》


ホログラムに次々と映し出されるのは、凄惨な現場写真だった。

コンクリートの床に広がる赤黒い海。

壁に飛び散った有機的な飛沫。

そして――無残な傷跡をさらす被害者の遺体。


「……『権利を』、ねぇ」


ルミナの声が低く沈む。

彼女の視線は、現場に刻まれた「メッセージ」を追っていた。

いずれの現場にも、被害者の血液を使って、まるでステンシルプレートで印刷したような正確なフォントで、『権利を』という文字が描かれていた。

ある現場では壁に。ある現場では床に。そしてある現場では、被害者の体に直接。


「普通に考えれば、ヒューマロットに人権をーって主張なんだろうけど」

「そうね。……やり方が悪趣味すぎるけど」

「「…………」」


二人ともビャッコの方をちらりと見ると、それ以上会話が続くことなく沈黙がその場を支配する。

それで確認は終わったと判断したのか、ホログラムが続きの言葉を発する。


《被害者はいずれも胸部を中心に致命傷を受けています。ただし即死ではありません》 「即死じゃない?」


ネオンが眉をひそめる。


《はい。致死に至るまで平均して三分から五分の生体反応が確認されています》


その言葉に、室内の空気が一段重くなった。


「……なぶり殺しってこと?」

《結果として、そうなります》


ネオンは一度視線を落とし、歯を噛みしめるように息を吐いた。

突発的な『自己保存』の事故なら、一撃で脅威を排除して逃走するはずだ。

こんなマネはしない。


「メッセージを残すわ、時間をかけるわ、まるで快楽殺人鬼ね。ヒューマロットの仕事はいつだって、腹が立つくらい無駄がないはずなのに」

「逆に、ヒューマロットに見せかけたナチュラルの犯行説は?」


ルミナの問いに、ネオンは即答しなかった。


「統合監査局の調査結果にケチをつけたくはないけど、そうも思いたくなるわね」


その言葉に反応しホログラムが切り替わる。

次は不鮮明な監視カメラ映像が映し出された。

路地裏を歩く人影。フードを目深に被っているが、その歩き方は機械のように規則正しい。

そして、フードの隙間からは綺麗な銀髪が見え隠れしている。


《映像解析の結果、歩行パターンから同一のヒューマロット個体による犯行と推定されます》


「つまり――」 ネオンが言葉を継ぐ。

「今のところは、そのヒューマロットによる単独犯の線が濃厚ってわけね」

《肯定です》


ルミナが頭をかきながら尋ねる。


「で、私たちの役目は? 殺人事件の捜査なんて監査局の仕事でしょ?」

《SFTS1005、およびその小隊には、犯人の所在特定および『処分』命令が下されます。今回の事件に関しては、犯人の生死は問いません》

「所在特定って……私たちに捜査権限なんてないじゃん! しかも『処分』……生死問わずって……!」

《本件に関しては特例措置です。事情により、早急な解決が求められています》

「事情?」

《一部SNS等に、事件の情報が流出しています》


ホログラムに映し出されたのは、個人ニュースサイトの扇情的な見出しだった。


『感情を獲得したヒューマロットによる連続猟奇殺人!』


「……早いわね。リークされた?」

《可能性はあります。現在、広報室が対応中ですが、炎上は避けられません》


つまり、これはもう事件であると同時に、企業のメンツをかけた「火消し案件」なのだ。

ルミナが苦く笑った。


「捕まえても、もう世論はヒューマロット排斥に傾くだろうね」


ネオンは、痛ましげな目でビャッコを見た。

企業の狙いは明白だ。

ヒューマロットの罪を、ヒューマロットに裁かせる。

「自浄作用は機能しています」とアピールするための、生贄の儀式。

例えそれが、同胞を殺せと言われるビャッコの心情を無視したものであったとしても。


(やっぱり企業は、この子を心ある存在として見ていないのね……)


「……ビャッコ」


ネオンが、恐る恐る声をかける。

少女はゆっくりと視線を向けた。

その瞳は、深く沈んでいるように見えた。


「あなた、行ける?」


一瞬の沈黙。 それから、ビャッコは小さく、しかし力強く頷いた。


「……行く。やるよ」


その答えに、ネオンは小さく息を吸った。

なんて強い子なのだろう。

自分の悲しみを押し殺して、職務を全うしようとしている。


「……分かったわ。犯人の足取り、全力で洗う。サポートは任せて」

「了解~。とっとと終わらせて、美味しいものでも食べよっか」

「うん。……みんな、がんばろう」


ホログラムが最後に一行、冷徹に表示した。


《捜索任務、開始してください》


それが、この街の空気をさらに濁らせる、憂鬱な雨の始まりだった。



(……やっべぇ)


真剣な顔で頷きながら、俺は内心で冷や汗をかいていた。


(『統合監査局』とか何とか知らない用語が多すぎて、アレスに検索させてWiki読んでたら、いつの間にか話終わってた!)


俺が見せていた「悲痛な表情」は、単に膨大なテキストを脳内で斜め読みしていた時の「文字ちっちゃくて読みづらいなー」というしかめっ面だったのだ。


【検索終了。概要を要約しますか?】

(頼む! マジで頼む!)


【要約:ヤバい奴がいるので、見つけてボコれという命令です】

(雑すぎない!?)


ともかく、仕事だ。

俺はキリッとした顔を作り直し、胸を張る。

内心で「とりあえず現場行けばなんとかなるだろ」という、ダメなサラリーマンの楽観主義を抱えながら。


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