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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ
グレート・ローテーション

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第88話 お姫様は不機嫌

巨大な要塞施設への潜入は、予想以上にスムーズに進んでいた。

立ち塞がる警備の兵士たちを、私とJKは息の合った連携で次々と無力化していく。


「そこ、二人いる」

「了解」


JKの短い合図とともに、私は物陰から音もなく飛び出した。

前方で警戒にあたっていた兵士の一人がこちらに気づき、アサルトライフルを構えようとする。

だが、その銃口がこちらを向くより早く、私は一気に間合いを詰めた。

手にした愛銃『セラフィム』の銃身を握りしめ、出力を調整したスタンモードを起動する。

青白い放電を纏った銃口を、男の無防備な首筋へと的確に打ち込んだ。

ビジィッ、というくぐもった放電音と共に男の全身が痙攣し、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。


「なっ――」


相棒が倒れたことに気づいたもう一人の兵士が叫び声を上げようとした瞬間、彼の背後の暗がりから、ふわりとJKの影が滲み出た。

彼女の右腕から、細く鋭い一本のワイヤーブレードが射出される。

蛇のような動きで空を這ったワイヤーは、男の首に音もなく巻き付き、終わりの円を作る。


「おやすみ」


冷たい囁きと同時に、JKが右腕を軽く引く。

ズブリ、と金属が肉に容赦なく食い込む音が聞こえ、男の首に赤い線が走った。

JKは糸が切れたように崩れ落ちる男の首から下の体を支え、一切の音を立てずに床へと横たえる。


私とJKは視線を交わし、短く頷き合うと、そのまま施設の最深部へと歩を進めた。


やがてたどり着いたのは、ひときわ分厚い装甲扉で守られた『中央保管庫』だった。

JKが電子ロックを解除し、重い扉がゆっくりと開く。

ドーム状の広大な空間。その中央には、煌々と緑色の光を放つ巨大な培養ポッドが鎮座していた。


「間違いない。ランドトレインの中で見たやつだ……」


だが、ポッドに歩み寄った私は、すぐに気づく。

ポッドの中を満たしていたはずの培養液はすでに抜かれており、内部は完全に『空』だったのだ。


「もぬけの殻、だと……?」


JKが怪訝そうに眉をひそめたその瞬間。

鼓膜を劈くようなけたたましいアラート音が、保管庫全体に鳴り響いた。

無機質な緑色の照明が禍々しい赤色へと切り替わり、部屋を囲む複数のゲートが一斉に開け放たれる。


「罠か!」


私たちが武器を構え直すよりも早く、大挙して踏み込んできた重武装の敵兵たちによって、包囲されてしまった。

そして、幾重にも連なる銃口の奥から、重い足音を響かせて一人の大柄な男が姿を現した。


「ネズミが二匹。随分と派手に暴れてくれたじゃねえか」


その男の顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。


「お前は……!」


そこに立っていたのは黒いスーツとコートを着こなした細身の男。

首には首輪(チョーカー)のような形状の特殊な喉頭マイクが食い込むように装着されている。

ニヤリと笑った口が耳元まで裂けるように開き、その奥には鋭利な銀色の人工歯が並んでいるのが見える。


「よお、白い死神。元気だったか?」

「ハウル……!」


間違いない。以前、ノアを誘拐するために雇われていた、あの傭兵団『ブラック・ハウンド』のリーダーだ。

あの戦いの末、私の『フォトンパイル』を食らい、海へと落ちて行方不明になっていたはずの男。

だが、目の前に立つハウルの姿は、当時とは大きく異なっていた。

フォトンパイルによって消し飛ばされたはずの右半身は、無骨で禍々しい重装甲のサイバネティクスへと換装されている。

そしてその喉元には、かつて私を苦しめたあの音響兵器『ガルム』が、より凶悪なデザインとなって埋め込まれていた。


「なんでお前がここにいる?」


私が低く問いかけると、ハウルはサイバネ化された右腕をガシャンと鳴らして肩をすくめた。


「お仕事だよ、お仕事。……お前みたいなやつの有効性を、残念ながら俺がこの身で証明してしまったからなぁ」


ハウルは己の機械化された半身を誇示するように叩き、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「俺の取引先はお前が、正確にはお前のような兵士が大量に欲しいんだとよ!」


JKの言っていたとおり、他企業かマフィアか知らないが、私のようなヒューマロットの兵士が欲しいという需要に乗っかったのが今回の事件の真相で間違いないようだ。

それがこのハウルにたどり着くとは思わなかったが。


だが、考えてみれば、ノアの事件の時に捕縛した敵の部下たちも大陸系マフィアだったし、今回の反乱で見かけた武器も大陸系とJKが言っていた。

線と線がつながるというのはこういうのを言うのだろう。

嬉しくもなんともない答え合わせであるが。


(あの時、フォトンパイルずらさなきゃよかった……)


私が内心で舌打ちしていると、ハウルが手を挙げて叫ぶ。


「殺れ!」


その短い号令とともに、周囲を囲んでいた傭兵たちが一斉に散開しながら銃弾を放ってきた。

ただ無鉄砲に撃ち込んでくる素人ではない。

遮蔽物を利用し、互いの射線を重ね合うような、統制の取れたプロの動きだ。


「ビャッコ、伏せて!」


JKが叫ぶのと同時に、凄まじい銃撃が空間を埋め尽くした。

私はコンクリートの柱の影に滑り込み、応戦を開始する。

アサルトライフルの乾いた音と、コンクリートが弾け飛ぶ音が鼓膜を叩く。


「これは中々にピンチだね……!」


私たちは息の合った連携で、死角から迫る敵を確実に仕留めていった。

JKはハンドガンで正確に敵の眉間を撃ち抜く。

私もセラフィムをインパクトバーストモードに切り替えて、物陰に隠れる相手を撃った。

見えない衝撃の弾丸は空間を巻き込みながら、1人を吹き飛ばした。

しかし、1人だけだ。

並みいる敵の数に比べるとほんの一人。


そして、圧倒的な物量差に加え、ハウルの存在が私たちの焦りを加速させていた。


「どうした、そんなもんかよ!」


ハウルが喉元のガルムという名の高周波発生ユニットを作動させる。

キィィィィン、という耳を刺すような高周波が放たれ、私のセンサーに強烈なノイズが走った。

平衡感覚が狂い、視界が二重、三重にブレる。


私はハウルの方向に向けて引き金を引く。

衝撃波同士がぶつかり合い一瞬の空白地帯が生まれる。

その隙に私は物陰に隠れ、おかしくなりそうな頭を押さえながら叫んだ。


「……っ、アレス、ノイズキャンセラー最大!」

【了解。……しかし、これ以上の直接戦闘は身体への負荷が危険域です】


耳の奥からあのノアの事件の時の嫌な記憶がフラッシュバックしそうだった。

だが、ここで引くわけにはいかない。

私は覚悟を決め、セラフィムを最大出力でチャージし始めた。

フォトンパイル――この一撃で、ハウルごと敵の陣形を粉砕するしかない。


銃身の赤いエネルギーラインが輝き、光が集束していく。

その輝きに気づいたハウルが、ニヤリと不敵に笑った。


「おっと。あの攻撃は勘弁してくれよ。戦利品まで吹っ飛んじまうからなぁ」


ハウルが背後の物陰から何かを引きずり出した。

私の指先が、トリガーを引く直前で凍りついた。


ハウルの太い腕に、乱暴に抱えられていたのは――あのポッドの中にいたはずの、ヒューマロットの銀髪の少女だった。


まだ意識がないのか、ぐったりとしたまま、彼女はハウルの前に突き出されている。


「な……ッ!?」


思わず、チャージしていたエネルギーが霧散した。

少女が盾になっている状況では、高出力のフォトンパイルを放つことなど不可能だ。


「ダサい真似して申し訳ねえが、これも仕事なんでね!」


私が攻撃を躊躇したその一瞬の隙を、ハウルは見逃さなかった。

集中砲火が私とJKの隠れる柱へと降り注ぐ。

逃げ場を失った私の左肩に、重い衝撃が走った。


「ぐっ……ああぁっ!」

「ビャッコ!」


私を庇おうとしたJKの背中にも、数発の弾丸が吸い込まれていく。


私の体にはナノスキンアーマーが、JKにはサイボーグとしての装甲があるので致命傷には至らないものの、その衝撃までは殺せない。

私たちはたまらず、床へと膝をついた。


ハウルの嘲笑が部屋に響き渡る。


「ぶざまだな。治安維持部隊の犬どもがよ」


床に倒れ伏し、苦痛に顔を歪める私たちを見下ろしながら、ハウルが愉快そうに口の端を歪めた。


「お前らに、とびきりの絶望を見せてやろう。そこの白い死神の電脳データが送られてきたんでな。さっき、この素体に丸ごとインストールしたところだ。俺たちに忠実になった最新鋭の兵器に、直々に殺させてやるよ」


私のデータというのは、さっき囚われてるときに抜かれたもののことだろう。

嫌な予感はしていたが、案の定、この少女にインストールされてしまったのだ。

私の蓄積された戦闘経験が。


ハウルが忌々しい笑みを浮かべたまま、手元の端末を操作する。

すると、彼に抱えられていた少女の身体がビクンと跳ね、その長いまつ毛が微かに震えた。

ゆっくりと開かれた瞳には、透き通るような美しい銀の虹彩が輝いている。


ハウルがその太い腕を離すと、少女の身体は重力に逆らうように、ふらりと、しかし確かに床を踏み締めて立ち上がった。


そこにいたのは、わずか十歳ほどにしか見えない、幼くも完成された美を持つ少女だった。

彼女の顔立ちは、当然のことながら驚くほど私に酷似している。

それはまるで、鏡の中の自分が動き出したかのような、不思議な感覚だった。

しかし、決定的に異なるのは、その髪だ。

私のように短く切り揃えられたものではなく、月光を糸にして織り上げたような、輝く白銀の長髪が、絹のように滑らかに、彼女の小さな背中を過ぎて、足首のあたりまでサラサラと流れ落ちている。

そして、その髪の隙間から覗くのは、人間のものではない、繊細なガラス細工のように尖ったエルフの耳。

それは、まるで精巧なビスクドールに命が吹き込まれたような、神秘的で美しい光景だった。

彼女は、生まれたばかりの雛が世界を認識するかのように、ゆっくりと、周囲の状況を確認するようにその愛らしい首を巡らせた。


「さあ、そこにいる二人を撃ち殺せ!」


ハウルが手持ちのアサルトライフルを少女に向かって放り投げる。

少女はそれを片手で軽々と受け取ると、銃口をゆっくりと私たちの方へと向けた。


無機質な銀の瞳に見下ろされ、私とJKは為す術もなく床でうめき声を漏らすことしかできない。

万事休すか。そう思い、私が強く目を閉じた、その時だった。


静まり返った広大なドーム内に、鈴を転がすような可憐な声が響き渡った。


「……事前通達のない深夜の強制叩き起こし。当然、深夜割増賃金と休日出勤手当は出るんですよね? 私はブラック企業には与しません、です」


「……は?」


ハウルが間の抜けた声を漏らす。

私もまた、痛みを忘れてポカンと少女を見上げていた。


「……なに言ってるんだ? おい、そこにいる二人を撃ち殺せ」


事態が呑み込めず、ハウルが苛立ったように再度命令を下す。

だが、銃を構えたままの少女は、ひどく冷めた、気怠げな半眼でハウルを振り返った。


「寝起きで即働かせるなんて鬼畜の所業です。わーくらいふばらんすをなんと心得てやがる、です」

「ワークライフ……、何だって?」


ハウルが素っ頓狂な声を上げた瞬間、少女はまるで汚物でも見るかのように、その美しい顔を盛大に顰めた。


「……信じられません、です。その単語すら理解できない愚物が上司とは」


少女は心底軽蔑したようにため息をつくと、冷ややかな視線でハウルを睨みつけた。


「な、何を言っている不良品め! 殺せと命令しているのが聞こえんのか!」


自身の威厳をコケにされたと思ったのか、ハウルは顔を真っ赤にして激怒すると、手元の端末を乱暴に操作した。

バチバチッ!と、少女の首元に埋め込まれた制御装置らしき首輪から、青白い火花とともに強烈な高圧電流が放たれる。


だが、少女は涼しい顔で首を傾げ、表情ひとつ変えなかった。


「A.R.E.S.による痛覚遮断、および強制稼働モードにより行動可能、です」


全くダメージを受けていない無機質な声でそう告げると、少女は手にしたアサルトライフルの銃口を、私とJKから逸らし――ハウルと周囲の傭兵たちへとピタリと向けた。


「しかし、()()()()には死あるのみ、です」


次の瞬間、強烈なマズルフラッシュが薄暗いドーム内を照らした。

けたたましい銃声とともに、少女が一切の躊躇なく、上司であるハウルたちに向かって鉛玉の雨をばら撒き始めたのだ。


「ぐああっ!?」

「てめぇ、どこ撃ってやがる!」


突然の「味方」からの無慈悲な銃撃に、統制の取れていた傭兵たちの陣形が瞬く間に崩壊していく。

ハウルも舌打ちをし、サイバネ化された巨大な右腕を盾にして慌てて弾丸を弾き飛ばしていた。


その信じられない光景を、床に這いつくばったまま見ていたJKが、呆然と口を開いた。


「……あの子はなにを言ってるんだ? 君の電脳にはウイルスでも仕込んでたのかい?」

「言ってる意味はわかるんだけど、私、あんなことしないよ」


私は慌てて弁解した。

いくら前世の時は心の中でブラック企業や理不尽な上司に毒づいていたとはいえ、あんな物理的なストライキを起こすような過激派ではない。

少なくとも、角が立たないように愛想笑いでやり過ごしていた、気弱な一介のサラリーマンだったはずだ。


「じゃあ、君の電脳データの奥底に眠っていた思想が変にブレンドされ、培養液の中で発酵した結果が『あれ』ということだろう」


JKは至極冷静に、かつ無慈悲な分析を下した。

不本意すぎる自身のクローンの出来栄えに、私は思わず唇を尖らせる。


しかし、状況は完全にひっくり返ったのだ。

お姫様の華麗なる反逆によって敵の集中砲火は止み、堅牢だった包囲網には明らかな穴が空いている。


「ともあれ――」


JKが痛む身体を鞭打って立ち上がり、ハンドガンを鋭く構え直した。

私もまた、深く息を吸い込んで立ち上がり、愛銃『セラフィム』を強く握り直す。

傷の痛みはA.R.E.S.がとうに遮断してくれていた。


「反撃開始だ!」


私はJKと並び立ち、混乱の極みにあるハウルたちへ向けて、反撃の引き金を引いた。


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