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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ
ファントム・ペイン

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第68話 奮闘のスタンドアロン

中層地区から下層地区へと繋がる、巨大な搬送用エレベーター。

重々しい金属音と共に到着を告げるランプが点灯し、分厚い扉がゆっくりと開いた。


薄暗い下層地区の冷たい空気が流れ込んでくる。地上で繰り広げられているであろう銃撃戦の音は、ここまで深く潜れば一切聞こえない。通信も完全に遮断され、完全な孤立状態となっていた。


「……着いたね」


エレベーターから足を踏み出し、ルミナは周囲を警戒しながらデータパッドを開く。

彼女は先ほどまでの泣き顔ではなく、強い意志を持った治安維持部隊員としての顔つきになっていた。


「第52ブロックの最奥まで、走ったら時間がかかりすぎる。まずは移動手段の確保だね」

「あそこに、ちょうどいいのがある」


ビャッコが指差した先。路肩には、数十センチほど宙に浮くホバー機構を備えた、赤い大型の二輪車両『エアバイク』が停まっており、柄の悪そうな男が跨ってタバコを吹かしていた。


「ちょうどいいのって……どうするの?」

「ちょっと待ってて」


ルミナの疑問の声をビャッコは手で制すると、足音を殺して歩き出した。

ビャッコは足音も立てずに男の背後に忍び寄ると、ハンドガン『セラフィム』の銃口をピタリと突きつける。


「本当にごめんなさい。あとでちゃんとお詫びの品もつけて返します」

「あぁ!?」


男が振り返ろうとした瞬間、ビャッコは容赦なくセラフィムの引き金を引いた。

放たれた『神経遮断パルス』が男の首筋に直撃し、男は白目を剥いてぐにゃりと崩れ落ちる。ビャッコは気絶した男の襟首を掴み、路地裏へとズルズル引きずっていった。

そして、何食わぬ顔で手を払いながら戻ってくると、ルミナに鋭く指示をする。


「ルミナ、運転を」

「わ、わかった!」


ルミナが慌てて赤いエアバイクに跨り、コンソールをいじってエンジンのセキュリティを解除する。

その後部座席に、ビャッコがしがみつくように乗った。


「これじゃ、本当に逃亡犯みたいだね……」


他人のバイクを奪って逃走するという状況に、ルミナが苦笑いを浮かべる。

すると、背中にしがみつくビャッコが、いつも通りの淡々とした声で返した。


「今は緊急事態。毒を食らわば皿まで、だよ」

「まさかビャッコちゃんの口からそんなことを言われる日が来るとは。とにかく、飛ばすからしっかり掴まってて!」


ルミナがアクセルを捻ると、赤いエアバイクは甲高い駆動音を響かせ、スラムの暗い路地を弾丸のようなスピードで駆け抜けていった。

目指すは、工場の闇が眠る第52ブロックの最奥、空白地帯だ。



猛スピードで風を切ること数分。

目的地である空白地帯の入り口が見えてきたが、二人の表情が険しくなる。


「……前回来た時より、明らかに警備が増えてる」


ルミナの言う通り、入り口付近には重武装のサイボーグ兵が多数配置され、完全な警戒態勢を敷いていた。しかし、いまさら引き返す選択肢はない。


「このまま突っ込むよ!」


ルミナの叫びと共に、赤いエアバイクが猛然と入り口へ突進する。

接近する強烈なエンジン音に気づいたサイボーグ兵たちが、一斉にアサルトライフルをこちらへ向けた。

だが、彼らが引き金を引くより早く――。


「――っ!」


ビャッコが、疾走するバイクの後部座席から大きく空中へと跳躍した。

空中でセラフィムを構え、モードを切り替える。放たれた『ライトニング・チェイン』の青白い電撃が、入り口に固まっていた数体のサイボーグ兵を連鎖的に打ち据え、一瞬にしてショートさせた。


ビャッコはそのまま前転しながら滑らかに着地し、セラフィムのモードを即座に『インパクト・カノン』へと切り替える。

すると、彼女の視界に、緑色のクリアな文字列が浮かび上がった。


PHOBOS(フォボス):ショックアブソーバー:セット。撃つなり殴るなりお好きにどうぞ】


ビャッコは極端に低い着地の姿勢のまま、右腕一本でセラフィムを突き出し、引き金を引いた。


ドォォォォンッ!!


圧縮された衝撃波が爆発的に放たれ、後続のサイボーグ兵たちをまとめて吹き飛ばす。

通常なら生身の腕の骨が軋むほどの暴力的な反動だが、ビャッコの体には一切の負担がなかった。

ルミナが組み込んだ液体金属のマイクロ・シリンダーが、凄まじい反動を完全に殺しきっていたのだ。


「次」


煙を切り裂き、右側面からアサルトライフルを構えた別のサイボーグ兵が飛び出してきた。

ビャッコは瞬時にセラフィムを左手に持ち替え、敵との距離をゼロまで詰める。

ダダダダダッ!と至近距離から放たれたフルオートの銃弾を、ビャッコは重厚な白銀の右掌を銃口にかぶせて防いだ。


ガガガガッ!とチタンと軽量セラミックの複合装甲が火花を散らすが、右腕は一ミリたりとも揺らがない。当然、痛みもない。

全弾を涼しい顔で防ぎ切ったビャッコは、そのまま敵のアサルトライフルの銃身を白銀の右手で鷲掴みにした。


バキバキバキッ!!


恐ろしい破壊音と共に、分厚い鋼鉄の銃身が紙くずのようにへし折られる。

サイボーグ兵が驚愕でフリーズした一瞬の隙を突き、ビャッコは再びセラフィムを右手に持ち替え、敵の腹部に銃口を押し当てた。


「終わり」


ドォン!


右手一本で放たれた至近距離からのインパクト・カノンが、敵の重装甲ごと胴体を吹き飛ばした。


静寂を取り戻した入り口で、ビャッコは白銀の右手を顔の高さに上げ、ゆっくりとグー、パー、と開閉させる。


「これはすごい。……パーフェクトだ、ルミナ」


ビャッコが静かに感嘆の声を漏らしていると、バイクを停めたルミナが慌てて駆け寄ってきた。


「装着して1日で、そこまで使いこなすビャッコちゃんが異常なんだよ……! 普通の人はサイバネ化したら、神経を馴染ませるリハビリにすっごい時間がかかるからね!?」


冷や汗を流しながらツッコミを入れるルミナ。

彼女の天才的なエンジニアリングと、ビャッコの異常な戦闘センスが融合した『白銀の右腕』は、まさに無敵の矛であり盾だった。


「行くよ、ルミナ。少し急がないと」

「うん!」


二人は歩みを止めず、工場の深部へと進んでいく。

その後も現れる巡回兵たちを、ビャッコは立ち止まることすらなく、白銀の右腕による完璧な射撃と格闘で文字通り『瞬殺』しながら、かつてデータを途中までしか抜けなかった最深部のメインサーバー室へと容赦なく突き進んでいくのだった。



サイボーグ兵たちの残骸を乗り越え、ビャッコとルミナはついに第52ブロックの最深部――厳重な防壁に守られた『メインサーバー室』へと到達した。


前回、命からがら逃げ出したあの時と同じ、無機質で冷たい空間。

だが今は、ルミナの横に頼もしい白銀の右腕を持つビャッコが立っている。


「クリア。敵影なし」


ビャッコがセラフィムを構えたまま油断なく周囲を警戒する中、ルミナは中央に鎮座する巨大なメインコンソールへと駆け寄り、自身のデータパッドを接続した。


「よし……! ネオンちゃんが組んでくれた『金庫破り』プログラム、展開!」


ルミナの滑らかなタイピングと共に、ホログラムモニターに複雑な暗号解除のプロトコルが次々と走る。

前回はここで分厚い防壁に阻まれ、データが欠損してしまったが、ネオンのサポートツールがあれば話は別だ。


「防壁突破……欠損セクターのマスターデータ、アクセス成功! 抽出開始するよ!」

「時間は?」

「データが重いから……完了まであと10分はかかる!」


モニターに【DATA EXTRACTING... 0%】というプログレスバーが表示される。

これで、ヴァレリオを完全に追い詰める証拠が手に入る。ルミナが安堵の息を吐きかけた、その時だった。


『――パチ、パチ、パチ』


不意に、サーバー室の遥か上部、メンテナンス用のキャットウォークから、乾いた拍手の音が響き渡った。

二人が弾かれたように上を見上げる。


「……っ! ヴァレリオ……!」


ルミナが顔を強張らせ、コンソール越しに上段を睨みつけた。

薄暗い照明の中、キャットウォークの手すりから身を乗り出すようにして下を見下ろしていたのは、生体パーツブローカー、ヴァレリオ本人だった。


前に会った時と同様の、裸に革のベストを着て、地肌と色の違う手で拍手をしている。

そして、その表情はサングラスでわかりずらいものの、驚きも怒りもない冷めた表情であるようだった。


「よう、来たんだな。てっきり今頃、治安維持部隊にすりつぶされていると思ったわ」

「……優秀な部下が、命がけで助けてくれたから」


ビャッコの言葉に、ヴァレリオは興味なさげに「ふーん」と鼻を鳴らす。

その人を小馬鹿にしたような態度に、ルミナがコンソール越しに怒りの声を張り上げた。


「この施設を作ったのも、私たちに治安維持部隊を差し向けたのも……全部、あなたなの!?」


血を吐くようなルミナの問いかけに対し、ヴァレリオは心底呆れたようにため息をついた。


「あのさぁ。この状況でそれ、わざわざ聞く必要ある? ちょっと頭使って考えればわかるでしょ?」

「なっ……!」


あまりにも人を食ったような発言に、ルミナは絶句する。

自分たちの居場所が焼かれ、仲間が命を懸けているというのに、目の前の男にとってはただの「自明の理」でしかなかったのだ。


「まあ、せっかく来たし、そこの可愛いお嬢ちゃんに免じて教えてやるけどよ。うん、俺の施設だよ。それに忍び込んだお前らに治安維持部隊をけしかけたのも俺。これで満足?」

「お前は生体ブローカーとしての正規のルートがあるのに、なんでこんな施設を……?」

「なんかつまんねえ質問ばっかだな。そりゃあ、もっと良質なパーツが必要だからに決まってんじゃん。上級市民のアンチエイジングや違法改造の需要に、供給がまったく追いついてないんだよね」


ヴァレリオは肩をすくめ、いかにもビジネスマンが愚痴をこぼすような軽いトーンで続ける。


「本当は無菌室で、農場みたいに人間を飼育できれば最高なんだけど、それも手間とコストがかかるだろ? だからこうやって、いなくなっても誰も困らないスラムの人間を、効率よく『価値』に変換してやってんだよ」


その身勝手なヴァレリオの言い分に、ビャッコとルミナの目に怒気が宿る。


「いなくなっても困らない……!? 悲しむ人がいるから、お前はこの間、襲撃されたんじゃないか!」

「おお、あれはめんどくさかったな。でもまあ、この腕の持ち主の兄弟とかいう奴が、無様に這いつくばってたところはちょっと笑えたし、エンタメ代としてはプラマイゼロってことで」


そう言いながら、継ぎ接ぎだらけの不気味な両手で再びパチパチと嫌らしく拍手をして見せる。

そのあまりにも命を軽視したふざけた態度に、ルミナは絶句し、言葉を失った。


だが、ビャッコの心の中では、冷たく重い怒りの炎が燃え上がっていた。


「……なるほどな。お前みたいな奴が、一番タチが悪い」

「あ?」

「他人の人生を、テメェの帳簿の数字合わせに使うなよ、三流ブローカー」


極低温の声音で吐き捨てたビャッコの言葉に、ヴァレリオの口元の笑みがスッと消える。


「まぁいいや。……せっかくここまで来たんだから歓迎してやらねぇとな」


そう言いながら、ヴァレリオはどこからか取り出した棒のようなもので頭をぼりぼりと掻く。

その手に持っているものを見て、ルミナはハッとした表情をする。


「そ、それ……!?」

「あー、これ? お前らが落としていったんだろ? だめだよ、大事なものなんだから気をつけなきゃ。いつの間にか義手付けてるみたいだけど、もういらないのかな?」


その右手には、生々しい切断面を残した「青白い人間の腕」が握られ、まるでただのガラクタのように、ぶらぶらと無造作に揺らされていた。

ビャッコから奪い取った、彼女の『生身の右腕』だ。


「ひっ……!」


そのあまりにも猟奇的で冒涜的な光景に、ルミナが悲鳴を呑み込む。


だが、当のビャッコの表情は一切動かなかった。彼女は瞬き一つせず、手にしたハンドガン『セラフィム』の銃口を、真っ直ぐに上段のヴァレリオの眉間へと向けた。


「おっと。物騒なオモチャを向けるなよ、ネズミ」


ヴァレリオが鼻で笑い、パチンと指を鳴らす。

その瞬間、ガコンッ!という重低音が響き、ルミナたちがくぐってきた入り口のゲートに分厚い隔壁が容赦なく叩き落とされ、退路が完全に封鎖された。


そして、サーバー室の奥の闇に包まれた巨大な搬入用ハッチが開き――。


ズシン……ズシン……。


地響きのような重い足音と共に、ビャッコの射線を遮るように『それ』が立ちはだかった。

全高3メートルを超える異形の無人防衛機。

かつてこの場所で、ビャッコの右腕をいとも容易くちぎり飛ばした悪夢の体現者――『スクラッパー』だ。


だが、前回と決定的に違う部分があった。

前衛的な高周波ブレードを備えていた両腕だけでなく、肩部や胸部に追加のリアクティブアーマーがボルトで乱暴に打ち込まれ、より凶悪で暴力的な「改修型」へと姿を変えていたのだ。


「前回は腕一本で済んだみたいだが……今回は綺麗に全部解体しておいてやるよ。やれ、スクラッパー」


ヴァレリオの命令を受諾し、改修型スクラッパーの単眼カメラが赤くギラリと発光する。

ブゥゥゥンッ!と、両腕の高周波ブレードが空気を切り裂く恐ろしい音を立てた。


抽出完了まで、あと9分あまり。

因縁の腕を見せつける黒幕の嘲笑の下、最悪の化け物とのリベンジマッチが幕を開けた。

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