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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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第6話 インファイト

ネオンの誘導で現場に辿り着いた瞬間、俺は自分の目を疑った。

そこは、まるで爆弾がいくつもあったのかというような、無惨な爆心地と化していた。


アスファルトは抉れ、建物の外壁は無惨に砕け散り、コンクリートの破片が雪崩のように歩道を埋め尽くしている。 その破壊の渦の中心で――


「やめろ……やめてくれぇぇぇぇぇ!!!!」


そんな悲痛な叫び声を上げながら、周囲を破壊し尽くしているのは、身長二メートルを優に超える筋肉の塊だった。

マッチョマンとかいう軽いレベルじゃない。

100%戸愚呂弟か、バイオハザードのタイラントを実写化したような異形。

皮膚の下で、肥大化した筋繊維が生き物のように脈打ち、一歩踏み出すたびに地響きが鳴る。

腕を振り下ろせばコンクリートが弾け飛び、脚を振るだけで街灯が根元から折れる。


顔はそんな肉体にまったく合っていないごく普通の一般男性といった感じだけど、涙と鼻水でぐちゃぐちゃに歪んでおり、言ってることとやってることがちぐはぐな叫び声をあげていた。


逃げ惑うナチュラルの人々。

それを必死に誘導するヒューマロットたち。


「……最悪ね。違法ドラッグの過剰摂取個体よ」


ネオンが苦々しく吐き捨て、端末のホログラムを激しく操作する。

俺はネオンの方をチラリと見た。


「え、ドラッグってあんなになるの?」

「筋肉増強系の遺伝子改造薬物よ」


ルミナが、いつもの軽さを消した声で言う。


「《G-BLOOM》系かな。筋繊維と神経伝達を強制増幅するタイプだけど、完全に適合に失敗してる。脳が負荷に耐えきれず、錯乱状態に陥ってるみたい」

「適合失敗でそんなになるって、普通に出回ってるものなの?」

「バッチリ違法だね。でも、魅力的な効果があるから手を出す奴は後を絶たないんだよね。成功すれば英雄に、失敗すればあのとおり」


怪物――元はただの一般市民だったであろう男は、周囲を見渡して、また叫んだ。


「ちがう……! こんなはずじゃ……!」


そういって振り回した腕がまた建物を破壊した。

じっとしていればいいものを、最早そんな冷静な思考すら及ばないのだろう。


ネオンがこちら真剣な表情で見つめながら言った。


「ビャッコ――小隊長。あくまで安全面を優先した指揮をお願いします。私たちはただの人間。あんなのに正面からぶつかったら、一溜まりもないわ」


ネオンの瞳には、明確な「恐怖」と「懸念」があった。

そりゃそうだ。あんな怪物に「突っ込め」と言われたら、誰だって上司を恨むだろう。


つまりは、ただの人じゃない、――俺の出番という訳だ。


部下を危険な目に合わせるわけにはいかない。

前世でも、理不尽な取引先への謝罪や、炎上案件の火消しは、常に俺の役割だった。

見た目はロリっ子でも、中身は経験豊富な社畜おじさん。

ここでの「最適解」は、一つしかない。


【危険度:B評価。被害拡大中】

【即時制圧を推奨。――A.R.E.S.を戦闘モードへ移行します】


ほら、アレスだってこう言ってる。

理性的な思考が危ないと叫んでいるが、そんな思考とは裏腹に、心はひどく冷静だ。

恐怖が不思議と湧き上がらず、視界にロックオンターゲットが浮かぶ様はゲーム画面にしか見えない。


逃げ遅れたヒューマロットが怪物の腕に吹き飛ばされるのを見た瞬間、俺の身体は、思考よりも先に地面を蹴っていた。


「ルミナ、ネオン。避難誘導を頼む」

「ビャッコ、待っ――!」


ネオンの声が背中に届く前に、俺は地面を蹴った。


(よし。ファーストミッション、スタートだ)


まずは距離を詰める。

怪物が、迫りくる俺に気づき、獣のような咆哮を上げる。


「来るなぁぁぁ!!」


家の一軒も壊せそうな巨大な拳が、俺の脳天を目がけて振り下ろされる。


【回避ルート提示。神経伝達速度を最適化します】


確かA.R.E.S.には運動機能や感覚機能の補助もあったか。

頭の奥で、カチリとスイッチが入る。

次の瞬間、世界の時間が、ハチミツの中に沈んだようにゆっくりと引き延ばされた。

振り下ろされる拳の軌道が、そして俺が通るべき「隙間」が、青い光のラインとなって網膜に焼き付く。


(軽い……! 身体が、羽みたいだ……!)


前世の、腰痛と肩こりに悩まされていた身体が嘘のようだ。

俺は暴風のような拳を紙一重でかわし、ダンスを踊るような足取りで懐へと潜り込む。

不思議と初めてのその動きにも戸惑いは感じない。

それはまるで乗りなれた自転車を漕ぐような無意識で自然な動作。


さて、勢いでなにも考えずに接近したけどこれからどうしよう。

背中でもさすってあげたら落ち着いてくれたりしないかな?


【非効率な提案を却下。即時制圧してください。装備使用可能】

(わかってますよ。冗談だって)


俺は小さく呟いて腰に手を伸ばした。


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


目の前に現れた俺に驚いたように横凪ぎに振るわれる腕。

俺はホルスターから銃を抜きながらしゃがみその腕をかわす。

こういう時、小さい体格は便利だね。


「ごめんね」


そう言いながら俺は銃を怪物の腰のあたりに押し当てる。


《SDC-P9〈セラフィム〉》


俺はその銃を神経遮断パルスモードに合わせると、躊躇なく引き金をひいた。


【照準補正:不要】

【反動制御:100%】


ドウンッ。


小さい拳銃から放たれたとは思えないほどの低い銃声が鳴る。

不可視の衝撃波が、怪物の異常な筋繊維を駆け巡り、信号を無理やり遮断する。

「がっ……!?」 つんのめる巨体。

そこへ、流れるような動作でモードを切り替える。


(次は、足止め)


筋肉硬直モード。丸太のような脚へ、二射。

怪物の下半身が石像のように固まり、ドスン、という地響きとともに膝をついた。

怪物の脚が石像みたいに固まり、前のめりに崩れかける。


「や、やめ……助け……て……」


怪物が、涙と涎を垂らしながら、小さな俺へと縋るように手を伸ばしてくる。

それは、あまりにも人間らしい、悲惨な情動。


【対象反応:錯乱】

【追加制圧を推奨】


「大丈夫」


俺は、淡々と告げる。


「もう終わるから」


俺は、まるで泣き止まない子供をあやすような、穏やかな声で告げた。

セラフィムを電磁スタン最大出力へ。 怪物のこめかみに銃口を添え、最後の引き金を引く。


バリバリッ!


空気を引き裂く青白い火花が散り、怪物の巨体が痙攣して、力なく地面に沈んだ。

舞い上がった粉塵がゆっくりと落ち着き、静寂が戻る。


【生体反応:安定。心拍数、呼吸ともに生存範囲内】

【制圧完了。ミッション・コンプリート】


俺は銃を下ろし、軽く息を吐いた。


「……状況終了。お疲れ様」


振り返ると、ルミナはシールドを構えたまま石像のように固まっていた。

ネオンは端末を握りしめ、顔面を蒼白に染めている。


「……ビャッコ……あなた、今……」

「なに? ああ、大丈夫。ちゃんと業務はできるって言ったでしょ? 被害も最小限だし、非殺傷だからこの人も生きてる。完璧な処理(ワーク)じゃないかな」


俺は「どうだ!」と言わんばかりの満足げな顔をして見せた。

だが、ネオンは俺と目が合った瞬間、怯えたように視線を逸らした。

ルミナも、引きつった笑いを浮かべたまま、一歩後ずさる。


「……う、うん。そうだね。すごかったよ、ビャッコちゃん」


(……あれ? なんでそんな、見てはいけないものを見たような顔してるの?)


俺は首を傾げた。

被害は最小。犯人も生きた状態で確保。

初任務としては、これ以上ない「100点満点」の結果のはずなのに。


「じゃあ、あとは拘束して引き渡しだね。本部に転送をお願い」


俺は軽やかな足取りで、怪物の拘束準備に向かった。

その後ろ姿を、二人がどんなに震えるような視線で見つめているかも知らずに。



ルミナは、自分の手を見つめて震えていた。


(……私のせいだ。私が、あんな武器を渡したから)


ビャッコに渡した《セラフィム》は、非殺傷としては一級品だ。

だが、有効射程はわずか五メートル。

つまり、あの地獄のような破壊の渦の中に、文字通り「飛び込んでいかなければ」使えない武器。


(私は、あの子を試すつもりだった。軽いパトロールだし、どんな小隊長かわからなかったら、あえて危険度の低い武器を渡したのは事実なんだよね……)


そして、ルミナは胸の奥の罪悪感を薪としてくべるように、熱い決意を燃やすのだった。


(次は《SDC-P9〈セラフィム〉》をもっと使えるように改造して、あのちっちゃな小隊長があんまり危険な目に遭わせないようにしないと……)




一方、ネオンは、ビャッコの「声」を思い出して震えていた。


「ごめんね」「大丈夫」


あれは、嘘偽りのない優しさだった。

だが、その優しさの裏には、「相手を制圧すること」への葛藤が一片も存在しなかった。


(あの子は、自分が何を奪ったのかさえ、理解していない……)


ビャッコは、優秀すぎる。

企業の理想。完璧な兵器。

「命を救った」という正義の皮肉を盾に、効率的に、残酷に、対象を処理していく。


その姿は、あまりにも完成された「地獄」の形をしていた。


「いい仕事だったよね、二人とも!」


無垢な表情で振り返るビャッコ。

ネオンは、もう彼女と目を合わせることができなかった。


「……ええ。……そうね」


そう答えるのが精一杯だった。

その小さな、あまりにも小さな背中に、どれほどの「企業の呪い」が刻まれているのか。

そう思うと、ネオンは叫び出したいような絶望に襲われるのだった。


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