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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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第20話 殲滅領域

黒い機体がこちらに頭部のセンサーカメラを静かに向ける。


『それで、あなた達は私のサインを求めてきた「ファン」? それとも、私に壊されたくてウズウズしている、新しい「ダンスのお相手」かしら?』


スクラップの山頂に鎮座する黒い巨体――機甲兵(カタフラクト)から、スピーカー越しに鈴を転がすような、しかし絶対零度のように冷ややかな少女の声が響く。


俺はその威圧感に気圧されそうになりながらも、努めて冷静に声を張り上げた。


「私たちは第41管区第3詰所所属、つまり君の新しい『同僚』。私はSFTS1005、ビャッコ。一応、小隊長をやっている」

『小隊長? そういえばしばらく前に変わってたかしら?』

「挨拶が遅れてごめん。予定通り、任務遂行のために合流しに来た。一人だと危険」


俺がそう言うと、機体のスピーカーからこちらを小馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らす音。


『私が危険?』


その声にはノイズが混じる。


『あら、それは奇特なことね。でも、戦況把握能力が欠如しているんじゃないかしら?  危険なのは私ではなく――』


ズゥン……。 重低音が、地下の闇の奥底から響き始めた。

最初は遠雷のようだったそれは、次第に数千の虫が這い回るような不快な駆動音へと変わっていく。


「――ビャッコちゃん! 熱源反応多数! 全方位から来るよ!」


ルミナが悲鳴に近い声を上げる。

俺がタクティカルライトを闇に向けると、そこには無数の赤い光点が浮かび上がっていた。

それは旧時代の作業用ロボットや、狂った自律兵器の群れ。

その数、目視だけでも百は下らない。


『あなた達よ』


黒い機体が、優雅な動作でスクラップの山から滑り降りる。

着地の衝撃だけで、周囲のコンクリートが蜘蛛の巣状にひび割れた。

ルミナが銃を構えながら視線を動かさずにこちらに声を張り上げる。


「ビャッコ、どうする? この数、まともに相手にしてたら弾切れになるわよ!」

「一点突破で退路を開く。あの黒い機体をカバーしつつ、エレベーターホールまで下がる!」


俺は即座に指示を出し、セラフィムを構える。 だが、その命令は即座に却下された。

味方であるはずの、その少女によって。


『カバー? ……ふふっ、あははははは!』


高らかな笑い声が、広大な地下空間に反響する。


『私の背中を守るですって? 冗談は顔だけにしてちょうだい。どこの馬の骨とも知れない三流の護衛なんて、私の完璧なダンスの邪魔にしかならないわ』


「えっ……!?」

「何言ってるの! この状況を見て言いなさいよ!」


ネオンが憤慨する横で、黒い機体がスッと右手を上げた。

それは、これから始まる虐殺の指揮棒(タクト)を振るうような動作だった。


『下がっていなさい、凡人(モブ)たち。特等席で指をくわえて見ていればよろしくてよ。――高貴なる者の、ノブレス・オブリージュというものをね』


次の瞬間、世界が爆音に塗りつぶされた。



それは、戦闘と呼ぶにはあまりに一方的で、あまりに優雅な蹂躙だった。


『さあ、パーティーの時間よ! エスコートが遅いわ!』


アイリスの機体が、重量級の見た目に反した恐るべき加速で敵の群れへと突っ込む。

彼女が左腕を突き出すと同時、そこに懸架された六連装の砲身が唸りを上げた。


ガアアアアアアアアアアアアッ!!


20mmガトリングキャノン『魔弾の射手(フライクーゲル)』。

毎分1500発の速度で吐き出される劣化ウラン弾の暴風が、殺到する敵の最前列を文字通り「粉砕」した。

装甲を貫くとか、そういう次元ではない。 着弾した端から、敵のロボットたちが挽肉のように千切れ飛び、原型を留めない鉄屑へと還元されていく。


「ちょ、ちょっと待って!? あの反動制御どうなってるの!? 物理法則無視してない!?」


ルミナが目を白黒させているが、俺も同感だ。

普通、あんなものを片手で撃てば、反動で自身の腕がもげるか、後ろにひっくり返る。

だが、あの黒い機体は、発砲の反動すら推進力に変えるように体を回転させ、ワルツを踊るように次なる標的へ銃口を向けていた。


『ステップが甘い! リズムが合ってないわよ!』


ガトリングで敵陣をこじ開けた彼女は、敵の重装甲モデル――戦車のような改造兵器――の懐へと潜り込む。

敵が巨大なアームを振り下ろすが、彼女はそれを最小限の動きで回避。 そして、がら空きになった胴体に、右腕を突き刺すように叩き込んだ。


『貫け――「串刺し公(ツェペシュ)」!!』


ドゴォォォォォォォンッ!!


炸裂音と共に、戦車の巨体が「くの字」に折れ曲がり、数メートル後方へ吹き飛んだ。

右腕に装備されたパイルバンカー。 火薬の爆発力で太さ30センチのタングステン鋼を打ち出す、近接戦闘におけるロマンにして最強の矛。

分厚い複合装甲を豆腐のように貫かれた敵機は、内部から火花を噴き出して沈黙した。


「嘘……あのクラスの重機を、一撃で……?」


ネオンが呆然と呟く。 俺たちが真面目に戦えば、弱点を突いて数分はかかる相手だ。

それを、彼女は「道端の石を蹴る」程度の手間で処理してしまった。


『あらあら、もう終わり? 招待客はもっと沢山いたはずでしょう?』


アイリスの声は、戦場の熱に浮かされているのか、恍惚と残虐さを帯びている。

彼女の背部コンテナが展開した。 現れたのは、蜂の巣のようなミサイル発射口。

黒い機体はスカート状に広がった装甲をまるでつまむような仕草でカーテシーを決めると、可憐に歌い上げる。


『フィナーレには少し早いけれど……花火くらいは上げてあげましょうか』


シュシュシュシュシュッ!!


白煙の尾を引きながら、数十発のマイクロミサイルが一斉に解き放たれた。

放たれた熱源誘導弾は、まるで新体操のリボンのように不規則な軌道を描きながら、逃げ惑う獲物を追い詰めていく。それはあまりに死と呼ぶには美しすぎる光景だった。


それらはまるで意志を持つ蛇のように空中で軌道を変え、物陰に隠れていた敵や、天井に張り付いていた狙撃機へと殺到した。


ズガガガガガガガッ!!


連鎖する爆発。 地下の閉鎖空間が、閃光と爆風で昼間のように明るく照らし出される。

舞い上がる粉塵、降り注ぐ鉄の雨。

その爆心地に立つ黒いドレスのような機体は、傷一つ負うことなく、炎の照り返しを受けて美しく輝いていた。


『……ふぅ。退屈なダンスだったわ』


最後の敵が崩れ落ちる音だけが、静寂を取り戻した空間に響く。

百体はいたはずの敵部隊は、わずか数分で、文字通りのスクラップの山へと変わっていた。


彼女はゆっくりとこちらを振り返る。

センサーカメラの赤い光が、俺たちを値踏みするように見下ろした。


『見ていたかしら? これが「戦い」よ。あなた達がやっていたのは、ただの泥遊び』

「……すごい」


俺は素直に感想を漏らした。 嫌味でも何でもない、純粋な称賛であり、同時に畏怖だった。

前世のアニメや映画で見たヒーローとは違う。

あれは、生存本能に訴えかける「暴力」の結晶だ。


俺の言葉に、彼女はフンと鼻を鳴らす。


『お世辞は結構よ。……で? まさか手ぶらで来たわけじゃないわよね?』


彼女の機体が、ズシンと足音を立てて俺に歩み寄る。 そして、巨大なマニピュレーターを俺の目の前に差し出した。


『喉が渇いたわ。最高級の紅茶……はないでしょうから、せめて冷えた炭酸水くらいは用意してあるんでしょうね?』

「……は?」

「はぁ!? あんた何様なのよ!」


ネオンが我慢の限界を超えて噛みつく。


「助けに来てやった相手に、開口一番それ!? ていうか、降りてきなさいよ! 顔も見せないで失礼じゃない!?」

『断るわ』


即答だった。 彼女はマニピュレーターを引っ込めると、腕組みをするように胸の前で交差させる。


『ここの空気は淀んでいて不快よ。それに、あなた達のような有象無象と同じ空気を吸うなんて、私の肺が拒絶反応を起こすわ』

「なっ……! このっ……!」


殴りかかりそうなネオンを、俺は必死で止める。


(まあ、確かにこの地下の空気はカビと鉄錆臭いけど……ここまで徹底するか?)


そう思いながらも、俺は折角活躍してくれた部下を労うことにした。


「今は持ってないけど、上に戻れば用意できる」

『……チッ。気が利かないわね』


舌打ちの音がスピーカー越しにハッキリと聞こえた。

彼女は「ついてきなさい」と言わんばかりに背を向ける。


『弾も尽きたし、帰ってシャワーを浴びたい気分なの。……ああ、言っておくけれど』


彼女は一度だけ立ち止まり、背中越しに言い放った。


『勘違いしないでちょうだい。私はあなた達と仲良しこよしをする気はないわ。精々、私の足手まといにならないように努力なさい。……以上よ』


言うだけ言って、彼女の機体はブースターを吹かし、猛スピードでエレベーター方向へと去っていった。

後に残されたのは、ボロボロの敵の残骸と、呆気に取られた俺たち三人。


「……ねえビャッコ。私、あの子とやっていける自信ない」


ネオンがこめかみをピキピキさせながら呻く。


「ま、まあまあ……実力は、ある」

「性格は最悪だったけどね! あんなのがチームに入るの? 胃に穴が開くわよ!?」

「あはは……すごい機体だったねぇ。中身どんな子なんだろ?」


ルミナだけは呑気に目を輝かせているが、俺もネオンと同意見だった。

俺のサラリーマンとしての勘が告げている。

あのお嬢様(?)は、これまでのどんな激戦よりも、俺のメンタルを削ってくる強敵になるだろうと。


(……でも、あの強さは本物だ)


俺はアイリスが去っていった暗闇を見つめる。

圧倒的な火力と、敵を一切寄せ付けない完璧な防御。

その黒い背中は、俺たちが気軽に肩を並べることを許さない、孤高の威圧感を放っていた。


「帰ろうか。……早く行かないと置いて行かれる」


俺は重いため息と共に、そう呟いた。

これが、俺たち3人と、最悪で最強の問題児『黒鉄アイリス』との、波乱に満ちた共同生活の幕開けだった。


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