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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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17/22

第17話 SFグルメ(前編)

治安維持部隊小隊長の朝は早い。


「おはようございます……。ふぁぁぁ。今何時?」

【現在時刻、05:57です】

「うん、いつもどおりだね。さて、起きるとするか」

【非番でも早起きなのはよいことです。それに今日は目覚めもいいですね】

「今日は楽しいお出かけだからね」


俺はアレスにそう返事すると、布団から勢いよく起きてグッと体を伸ばした。

若い体は寝起きでもシャキッと起きれるからありがたい。

寝ても寝ても疲れが取れなかった30代ボディーとは大違いだ。


あの激闘と、さらに退屈地獄の入院生活を乗り越えた後から数日が経つ。

ネオンとルミナに心配されながらも日常の業務をこなし、やっとこさたどり着いた非番の日。

やりがいがある楽しい仕事と言っても、休日は休日でまた違った喜びがある。


「さて、朝飯にするか」


俺は自室を出ると、いつも通り食堂へ行った。

食事音だけが響く清潔な広間。

最終的には自分でぶっ壊したが、あのガイルの聖域の食堂の温かさに比べると幾分物足りなさを感じてしまう。

そんなことを思いながら配給カウンターでいつもの銀色のトレイを受け取る。

今日のメニューは『ワークサポートミール・バナナ味』とミルクたっぷりコーヒー。

相変わらずのエサっぷりだが、今の俺にはこれが日常だ。


空いている席を探してフロアを見渡すと、窓際(といっても外は見えず、風景映像が流れるディスプレイだが)の席に、見知った顔を見つけた。

背筋をピンと伸ばし、優雅な所作で食事を摂っている女性型ヒューマロット。

ナナミさんだ。


「おはようございます、ナナミさん」

「……おはようございます、ビャッコ」


俺が向かいの席に座ると、彼女は食事の手を止めて丁寧に会釈をした。

そこで俺は、彼女の手元を見て動きを止めた。


彼女のトレイの上にあるのは、いつものSDC標準食ではなく、俺と同じ直方体の固形食料『ワークサポートミール』だ。

色はピンク色だから、おそらくイチゴミルク味だろう。


彼女はそれを、ナイフとフォークを使って一口サイズに切り分け、まるで高級フレンチのステーキでも食べるかのように優雅に口へ運んでいた。


「珍しい。今日は標準食じゃないんだ」


カロリーメイトをナイフで切って食べるようなシュールな光景を眺めながら、俺は思わず尋ねてしまった。

ナナミさんは口元の汚れをナプキンで拭うと、真顔で答えた。


「教育的配慮です」

「教育?」


ナナミさんが美しい相貌をゆっくりと縦に振った。


「……現在、カンパニー付属の保育施設に出向中です。上流階級(アッパー・クラス)の子女に対し、『食事のマナー』と『食への敬意』を教えるプログラムの一環として、自ら実践しデータを収集しています」


なるほど、彼女は幼稚園の先生をやっていたのか。

確かにヒューマロットは忍耐強いし、子供の相手には向いているのかもしれない。

こんな美人の先生がいたら子供たちの初恋を奪いまくって教育上よろしくないのではないかという余計なお世話をしてしまうところであるが。


そんな益体もないことを考えながら、俺は仲間が増えた喜びを感じつつ尋ねてみた。


「なるほど……。ところでそれ、美味しい?」

「味覚への刺激を確認。イチゴ由来の香料と甘味料が、新鮮な感覚を与えています」

「……そうですか」


肯定も否定もしないその感想に、俺は苦笑いしながら自分のバナナ味にかじりついた。

未来の食育もなかなか大変そうだ。



朝食を終え、部屋に戻った俺は深刻な問題に直面していた。

今日はネオンとルミナとの約束の日。

「美味しいものを食べに行く」という、この世界に来て初めてのプライベートな外出だ。

だがしかし。


「……着ていく服がない」


ベッドの上に並べた手持ちの服を見下ろし、俺は頭を抱えた。

あるのは支給されたグレーのスウェット(部屋着)と、治安維持部隊の制服のみ。

さすがにデート……じゃなくて食事会にパジャマや仕事着で行くわけにはいかない。

自宅と仕事場の往復に甘んじていたツケがここにきて出てしまったわけだ。

服を買いに行く服がないと前世では冗談めかして言っていたが、リアルでそんな状況になるとは思わなかった。


「となると、これしかないか」


クローゼットの奥から引っ張り出したのは、下層区画に潜入していた際に着ていたネオンに買ってもらった服。

だぼっとしたパーカーに、ダメージ加工の入ったデニム。

ストリート風でデザインは悪くない。


「うん、これなら変じゃないな」


俺は袖を通し、鏡の前でポーズをとってみる。 だが、次の瞬間、致命的なことに気づいた。


「……あ」


パーカーの右袖が、赤黒く変色している。鼻血を拭った跡だ。

一応洗濯はしたのだが、元・独身男性の雑な仕事では染み抜きがちゃんとできていなかったようだ。

未来の洗濯機や洗剤といえども、思ったよりも進化はしていなかったらしい。

そしてデニムの太もも部分には、ダメージ加工では説明がつかないレベルの大きな裂け目が走っていた。

こっちはガイルのパワーローダーと戦った時の名誉の負傷痕だ。


「……ま、まあ、古着(ヴィンテージ)ってことで通じないかな? ワイルドな演出ってことで」


前世のおじさん的ポジティブシンキングで無理やり納得し、俺は待ち合わせ場所へと向かった。



待ち合わせ場所は、上層区画へと続くリニア・ステーション前の広場。 そこには既に二人の姿があった。


「あ、ビャッコ! こっちこっち!」


手を振るルミナは、目が覚めるような蛍光イエローのビッグシルエット・パーカーに、ホットパンツというサイバー・ポップな出で立ち。

隣に立つネオンは対照的に、黒を基調としたモード系のジャケットスタイルで、お洒落なサングラスをかけている。

二人とも、仕事中の戦闘服とはガラリと雰囲気が違って、眩しいくらいだ。

俺は二人に駆け寄ると、さっそく感想を述べることにした。


「お待たせ。……二人とも私服、おしゃれ」

「へへーん、でしょ! 今日は気合入れてきたからね!」


ルミナが得意げに胸を張る。

しかし、俺の姿を見た瞬間、二人の表情が凍りついた。


「……ちょっとビャッコ。その服、どうしたの?」


ネオンがサングラスをずらし、俺の右腕を指さす。


「これ? ちょっと前の任務で汚れちゃって……。洗っても落ちなかった」

「汚れっていうかそれ血の跡じゃない!」

「それにそのズボン! ダメージ加工っていうより、これ物理ダメージだよ!? 車にはねられた後みたいになってるじゃん!?」


二人の突っ込みに目をそらす俺。


「他に服はなかったの?」

「…………………………パジャマと制服しかない」

「やっぱりかー」


ルミナが顔に手を当てて天を仰いだ。

通行人たちが「え、血?」「事故?」と怪訝な顔でこちらを見始めた。


「だ、ダメよこれじゃ! 美味しいもの食べる以前の問題だわ!」

「まずは服! 服を買いに行くよ! 強制連行!」


俺は左右から二人に腕を掴まれ、ズルズルと商業施設の中へと引きずり込まれていくのだった。



「はい、次これ着てみて!」

「うーん、ちょっと色が地味かしら。こっちのネオンカラーの方が……」


そこからは着せ替え人形状態だった。

未来の服屋はすごい。

試着室に入ると、ホログラムで次々と服が投影され、実際に着替えなくてもコーディネートが確認できるのだ。


(目が回りそう……)


着替える手間がないのはいいが、服屋を連れまわされて、衣装を合わせてはああじゃないこうじゃないと言われるのは中々に疲れる。

最初は「俺、かわいいじゃん」とか新鮮な気持ちで見ていたが、1着着る度に感想を聞かれ、そこで何を言っても次々と服を変えられていくのを見ると、まだしもパトロールの方が疲れないなとぼんやり思うことになった。


いつもは仕事のできる部下二人というイメージが強かったが、こうやってみると年相応のところもあるんだなあとなんとなく黄昏れる中身アラサーのおじさんなのであった。


「とりあえず、今日はこの服を着せておきましょうか」

「さんせーい!」


結局、俺が着ることになったのは、防水テック素材のオーバーサイズ・ジャケットに、機能性カーゴパンツという、ちょっと生意気な「サイバー・ストリート・キッズ」風の装いだった。

この前買ってもらったのと同じ系統で動きやすい。


「本当はこっちのワンピース着てほしかったのだけど……」

「ごめん。いきなりそれは覚悟が……」

「まあ買ってはおいたからそのうち着てよね」

「……………………検討しておく」


(絶対に着ない。三十路のおっさんの魂が、フリルとレースだけは拒絶している……!)


俺はいくつもの『女の子らしい』服の入った買い物袋を抱えて、俺たちはようやく街へと繰り出した。


商業区画のメインストリートは、圧倒的な「未来」だった。

空を飛ぶ広告ドローンが極彩色の光を撒き散らし、巨大なARディスプレイではアイドルのライブ映像が流れている。

そして何より、匂いだ。 スラムの饐えた臭いとは違う、スパイスとオイル、そして焦げた醤油のような香ばしい匂いが漂っている。

このあたりはナチュラルの人も多く、どことなく活気があるように感じる。


「うわぁ……」

「すごいでしょ? ここが第41管区で一番のグルメ・ストリートだよ!」


ルミナが指さす先には、屋台やレストランがひしめき合っている。

怪しげな名前の看板が並ぶ中、俺のお腹が「ぐぅ」と正直な音を立てた。


「ふふ、お腹空いたみたいね」


俺は少し気恥ずかしさを感じつつも、ネオンに素直にうなずいておいた。

子供っぽいと思われただろうかと思ったが、今の俺は見た目少女。

興味に任せ、視線をキョロキョロとさまよわせることにした。


そんなビャッコの様子を、ネオンとルミナは微笑ましいものを見る様子で見守るのだった。



「それで、ビャッコは食べたいものとかある?」

「ん…………」


ビャッコは何があるかわからないのか小首をかしげて固まっている。


(そうか。ヒューマロットは飲食店なんかくることないわよね)


ネオンはそう思うと、「とりあえず適当に流しましょう」と歩き出す。


にぎやかな通りを歩いていると、ビャッコの柳葉型の耳がピクンと跳ね上がり、おいしそうな匂いを漂わせる店へふらふらと引き寄せられるように覗き込む。


「あら? 昆虫食ファインダイニングが気になる? ここのバイオ・サソリのかば焼きは美味しいわよ」

「食欲そそる匂いをさせてるよね~」

「!! (ぶんぶん)」


ビャッコは目を見開くと、何かに憑かれたように首を左右に激しく振った。

本物の肉が貴重品になった現在、虫は普通に食卓に上がる食材の一つだ。

しかし、ビャッコにとってはまだまだハードルの高い食べ物。

ウナギのような匂いに引き寄せられたが、慌てて次の店へ駆け出す。

そんなビャッコの様子を不思議そうに眺めながら、「遠慮しないでいいのに」とルミナが言いながら先へ進むのだった。




「……おいしそうな匂い」


ビャッコが別の店に引き寄せられていく。

その視線の先の店を確認して、ネオンは顔をしかめる。

その店には清潔感のあふれる店頭に「Aグレード配給食レストラン」の文字を掲げており、立て看板には「SDC標準食、ワークサポートミール新味あります」と書かれていた。

ビャッコには悪いが、たまの休日に好き好んでいく店ではない。

ショーウインドーにぴったりと張り付くビャッコにネオンは言った。


「折角おいしいものを食べに来たのにここじゃ普段と変わらないでしょ?」

「ハピネス・ダスト味は寮にない。気になる」

「あれは脳に直接うま味信号を叩きこむから中毒性が高いと評判よ。やめておきましょう」

「アドレナリン・レッド味、ヴィンテージ・シャトーブリアン味、サンセット・オーシャン味、マザーズ・キッチン味、………気になる」

「ほら、いいから行くよ!」


未練がましそうにつぶやくビャッコをルミナがずるずると引きずっていく。

その視線はいつまでも店舗に吸い込まれているのだった。




「あそこ、人気店?」


ビャッコが指さした先には行列のできる店舗があった。

ただ不思議なのは、そこに並ぶ人は一様に薄汚れたような、どちらかというと下層地区にいた人たちに近い雰囲気を放つ人が多い。

どの人も血走った目で並ぶ様子は一種異様な光景を生み出していた。


「あれは強制ドネーション・キッチンね」

「どねーしょん?」

「料理を食べると、店内のドナーリストに『血液』や『臓器』の提供予約が追加されるシステムなの。だから、おなかの空かせた貧民層がああやって並ぶわけ」

「……自分の体を切り売りしてまで、ご飯を食べるの?」

「ま、一種の究極のリサイクルよね」


ネオンが涼しい顔で言う。

ビャッコが無表情で店舗の入り口を眺めていると、店の従業員と思しき人に客の一人が叩き出され、「まだ、まだ俺の歯は登録されてないからそれで食わせてくれ!」「お前の虫歯だらけの歯なんか誰が欲しがると思ってんだ! 出てけ!」「後生だよぉ!」という会話を繰り広げている。

ルミナがビャッコの手を引きながら。


「あれくらいはいつものことだから取り締まらなくていいよ、行こ!」

「う、うん」




それから色々な店を回ったが、なかなか全会一致となる店はなかった。

ルミナが空を仰ぎながらぽつりと呟いた。


「おなかすいたねぇ」

「ええ」

「…………ごめん」


ビャッコがペコリと頭を下げると、ネオンは手を振りながら「別にいいわ」と言う。

しかし、その表情にはちょっとうんざりしている気配が見え隠れした。


(思ったよりも普通の店がないんだよ)


ビャッコはそう思いながら独りごちる。


どうも未来の世界は食糧問題かなにかあっているのか分からないが、“本物の”肉や野菜というものが貴重らしい。

その代わりに合成とかつくものや虫が幅を利かせていて(ビャッコ視点だと)普通の食べ物屋があまりない気がする。

いや、後半はラーメン屋とか普通っぽい店もあった気がするが、ここまで引っ張ると、自分が何が食べたいのか分からなくなって食欲が迷子になっている気がする。


「あまり芸はないけど、私の行きつけの店に行きましょうか」

「あーあの店ね。いいんじゃない?」


ネオンの言葉にルミナが投げやりに同意する。


「行きつけ?」

「ええ、まあ大したところではないかもだけど、味は保証するわ」


その言葉に頷くと、3人は路地の奥の方へと進んでいった。

一体どんな店が出てくるのかと思いきや、そこにあったのは赤ちょうちんがぶら下がっていた懐かしい店構え。

暖簾には下手くそな漢字でこう書かれている。


「『居酒屋』……?」

「ええ。ここの合成マグロはおいしいわよ」


ネオンが慣れた手つきで暖簾をくぐる。

俺は提灯の怪しい明滅を見上げながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。

間違った日本文化の気配がプンプンするが、それでも「居酒屋」という響きだけで、俺の前世の血が騒ぐのを止められなかった。



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