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SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


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第1話 2155年

初投稿です。どうぞよろしくお願いします。

時は2155年――などという説明を、俺は後から知ることになるが、目を開けるとそこは知らない天井だった。


意識が浮上した瞬間、鼻を突いたのは、ツンとくる消毒液とオゾンの混じった無機質な匂いだった。

目を開けると、そこは知らない天井。

視界の端に、ノイズ混じりの半透明な文字が、鼓動に合わせて明滅している。


《SFTS-1005 システムチェック……ALL GREEN》


VRゴーグルをかけたまま眠ってしまったような光景だが、顔にデバイスの重みはない。

それどころか、身体全体が羽毛のように軽かった。

というより、自分の身体じゃないような、薄い膜を一枚隔てたような違和感がある。


「おはよう。意識はあるか? SFTS1005」


声の聞こえた方に視線を動かすと、白衣の女がいた。

年のころは20代後半から30代くらいだろうか。

白衣の下にはピッタリとしたボディスーツのようなものを来た不思議な格好をしている。

白衣と神経質そうなその顔だけ見れば博士って感じ。

銀縁の眼鏡の奥にある瞳は、驚くほど冷淡だ。

それは病人を労わる医者の目ではなく、精密機械の動作確認を行う技術者のそれだった。


「あ、あの……あれ?」


声を出そうとして、俺は硬直した。

耳に届いたのは、前世の自分の濁った声じゃない。

鈴を転がすような、と言えば聞こえはいいが、あまりに高くて、頼りない、少女の声だった。


「えっと……?」


俺は震える手で、自分の視界に入る「自分のパーツ」を確認した。


細い。白い。

爪の先まで透き通るような、小さな子供の手だ。

ゆっくりと体を起こすと、グレーの手術着に包まれた、肉感の乏しい肢体が目に入る。

恐る恐る胸に触れると、そこには控えめな、けれど確かな弾力があった。


(ぷにぷに……してる……?)


下腹部を服の上から確認してみると、あるはずの「相棒」が消え失せている。


(……マジか。女の子になってんじゃん、俺!?)


脳内では大絶叫だが、顔の筋肉が思うように動かない。

まるで上質なゴムマスクを被らされているように、表情が一定以上に崩れないのだ。


「体に不調は?」


博士らしき女性の問いに、俺は必死に声を絞り出した。


「た、多分、大丈夫……です? ちょっと、色々ついていけてないですけど」


いや、全然大丈夫じゃない。

異常事態すぎて一周回って冷静なだけだ。

ただ、ブラック職場でボロボロだった前世の身体に比べれば、今の身体は驚くほどクリアだった。

慢性的な目の疲れも、キーボードを叩きすぎて痛む手首も、重い腰痛もない。


博士は俺の混乱など歯車の一つも気にしていない様子で、淡々と言葉を続けた。


「成長異常で基準未満だったが、A.R.E.S.の適合率は良好だ。今日から労働可能個体として再登録する」


労働。個体。再登録。

聞き捨てならない単語が並ぶが、今の俺には問い返す権利さえなさそうな空気だ。


「あの、何を言ってるんでしょうか? ア…レス?」

「記憶が混濁しているのか? 首の後ろのそれだ」


言われるままに首筋をなでると、指先にヒヤリとした金属の感触。

そのまま指を滑らせると、背骨に沿って、脊髄をがっちりと保護するような硬質なパーツが皮膚の下に埋め込まれているのがわかった。


(何だこりゃ!?)


そんな俺の疑問に答えるように博士が言葉を繋いだ。


「Adaptive Reflex & Endurance System。通称A.R.E.S.。反射・運動能力の強制的な引き上げと、感情のノイズカットを行う脊椎型サイバネだ」


サイバネってあれだよね。

SF映画で見た、人体と機械の融合。

それが自分の背中にぶっ刺さっている現実に、背筋がゾワリと粟立った。


「生存率一割未満のヒューマロットにのみ許可される施術だが……まあ、生き残れてよかったな。今後とも企業のために励め」

「……あ、はい。がんばります」


口を突いて出たのは、社畜として染み付いた「イエスマン」の返答だった。


生存率一割。

九割は死ぬ手術を、俺は知らないうちに受けていたらしい。

普通ならパニックで泣き喚くところだが、なぜか心は凪いでいた。

これが、さっき博士が言っていた「感情制御」というやつの仕業なのだろう。


「意識が戻ったなら自室で待機しろ。二十四時間の労働免除だ。その後は治安維持部隊の小隊長として勤務してもらう」

「……小隊長?」

「復唱しろ」


有無を言わせぬ圧に、俺は慌てて姿勢を正した。


「二十四時間休憩して、そのあと……治安維持部隊の小隊長、します」

「よろしい。解散」


博士はそう言うと、視線を俺から外し、空中に浮かぶディスプレイを触りながら作業を始めている。

色々聞きたいことはあったけど、もう質問する空気じゃない。

仕方なく俺はおぼつかない足取りで、その部屋を後にした。


部屋の外は、どこまでも続く無機質な白い廊下。

チリ一つ落ちていない床は鏡のように磨き上げられ、自分の「女の子の足」がペタペタと吸い付く音が、不気味なほど大きく響く。


(あれ、自室どこだ?)


戻って聞く勇気はない。

聞き返せば「欠陥品」として再手術されるような予感がした。

途方に暮れていると、今度は頭の芯を直接揺さぶるような声が聞こえた。


【自室までのルートガイドは必要ですか?】

「……なに、この声」


そんな俺の独り言に、脳内に響く声が反応した。


【A.R.E.S.付属サポートAIです。あなたの教育用DBおよびライフログを統合した仮想人格です】


教育用DBとライフログは分からんけど、語感から察するに、教科書と日記が組み合わさった感じだろうか。


「つまり、俺専用のお助けAIみたいな感じ?」

【概ね肯定します】


なるほど未来。

A.R.E.S.付属ってことはこの背骨にくっついてるものから聞こえてきているということなのでちょっと怖いけど、今はありがたい。


「じゃあ君のこと、アレスって呼んでいい?」

【識別名の設定を受理しました】

「それで、さっき言ってたルートガイドっていうのをしてくれる?」

【承知しました】


俺の視界の端に、ゲームのUIのような地図と、進むべき方向を示す半透明の矢印が表示された。

その視界はまるでゲーム画面のようだが、自分の目を触ってもVRゴーグル的なものをかけている様子はない。

どうやら視界に直接投影しているようだ。

不思議な感じはするが、便利なのでよしとしておこう。


とりあえず案内もついたことだし、俺はペタペタと歩き出した。




数分後、案内された部屋のドアには、『SFTS1005』のプレートが掛かっていた。

さっきは聞き流していたけど、博士にもこの番号で呼ばれていたし、これが俺の名前ってことなんだろう。


そう思いながらドアを開けて部屋に入る。


ドアを開けると、そこは三畳ほどの空間だった。 壁も床も真っ白で、窓はない。

狭い部屋の半分を硬そうなベッドが占領している。


「……狭っ。ネカフェの個室の方がまだ温かみがあるな」

【ヒューマロット労働者寮の標準仕様です。なお、家賃は無料です】


無料なら文句言えないか。

俺はベッドに倒れ込んだ。

シーツからは洗剤とも薬品ともつかない、清潔だが血の通わない匂いがした。




ようやく一人になれた。

考えるべきことは山積みだが、まずは状況を整理しよう。

とても信じがたい事態だが、どうやら俺は、生存率の低い手術で死にかけた拍子かなにかで、前世の記憶を思い出したらしい。


(いわゆるTS転生ってことか。しかもSFチックな未来世界)


漫画や小説ではよく見ていた状況ではあるけど、自分に起きたとなるといまだに現実感がない。


「そういや前世の俺ってどうなったんだっけ?」


えーっと確か。

友達も少なくどぶ色の青春を過ごし、流されるように就職。

惰性で漫然と楽しくもないブラック環境で社畜として過ごし。

最期に見たのは迫りくる車のヘッドライト。


(あ、やめよ。思い出すの)


俺は嫌な記憶を振り払うように首を振る。


最期に思ったことは「もっと人生を全力で楽しめばよかった」という後悔。


……ほんと、それだけだった。


世界を救えなかったとか、大切な人を守れなかったとか、そんな立派な後悔じゃない。

ただ、つまんないまま終わったなあ、っていう感想。


頑張った記憶もないし、胸張って語れる思い出もない。

楽しかった瞬間を思い出そうとしても、指で数えるほどしか出てこない。

なのに仕事だけは、毎日ちゃんと行ってたんだよな。偉いな、前世の俺。

誰も褒めてくれなかったけど。


「……ほんと、何してたんだろ」


声に出してみても、答えは返ってこない。

でもまあ、もういいや。

どうせ思い出したところで、あの人生は続かない。


今の俺は、なんの因果かSF世界に生まれ変わったんだ。しかも女の子の体で。

意味わかんないくらい、二周目は派手だ。


だったら――


(今度は、人生を全力で楽しまないとな)


大それた目標はいらない。

世界を変えるとか、歴史に名を残すとか、そういうのは向いてない。

ただ、仕事して、笑って、うまいもの食べて、友達を作って、

「あー、今日も悪くなかったな」って思えれば、それでいい。


どうせいつかはまた死ぬんだ。

だったら次は、後悔じゃなくて愚痴で終わりたい。

「あー、楽しかったけど、ちょっと疲れたわ」くらいで。


「……よし」


俺は一人、頷いた。

理由はそれで十分だ。

全力で楽しむ。

それだけ決めておけば、あとは成り行きでいい。

仕事だって全力でやるだけやってみよう。

例え社畜と呼ばれようと、走り続ければ見えてくるものもあるはずだ。

企業戦士の末裔の神髄を見せてやろうじゃないか。


「治安維持部隊ってよく分からないけど、まあ警察みたいな仕事かな」

【補足。治安維持部隊の任務は、反企業革命軍、国家陶酔主義者、反ヒューマロット過激派、暴走アンドロイド、および暴走したヒューマロットなどの制圧および粛清です】


……しゅくせい?

物騒な単語が聞こえたが、それすらも今の俺には、どこか遠い世界の出来事のように感じられた。

背骨に埋まったA.R.E.S.が、俺の不安を優しく、そして強引に吸い取っていく。


(まあ、なんとかなるか。やるだけやってみよう)


俺は重たくなった瞼を閉じた。

視界の端で、赤い文字のカウントダウンが静かに刻まれている。


《初任務まで 23:47:12》


明日、俺を待っている部下たちが、この「成長異常」の小娘を見てどんな顔をするのか。

この時の俺は、まだその光景を想像だにしていなかった。


投稿開始一週間は1日3回投稿。

あとはストック尽きるまで1日1回投稿予定です。


少しでも気に入っていただけた方は、ぜひポイント・ブックマーク・感想をお待ちしております!

あとは、好きなSFやTSの展開もぜひぜひお寄せください!

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