色を還す、パステルの刃(7)
砕けた保管庫の中心から、霧に溶けた“色”が柔らかく舞い上がった。
壁の隙間から差し込む外灯の光が、舞う色の粒を虹のように照らす。
---
遠くで、誰かのかすれた声がした。
「……あ……見える……」
無彩パークの奥に倒れていた人々が、ひとり、またひとりと目を開ける。
幼い子どもの頬に、血の気が戻る。
老人の髪に、本来の黒と白の混じりが戻る。
奪われていた“色”が、息を吹き返したように人々の体に染み渡っていった。
---
彩葉は、最後のひとつの核をそっと掌に載せると、
小さく目を閉じて息を吐いた。
---
「……還してあげるね。」
パステルの光が、核の表面を優しく包む。
虹の粒がひときわ淡く揺れて――
核はふっと溶けて消えた。
---
「……助かった……のか……?」
男が、彩葉を見て、弱々しく頭を下げた。
「ありがとう……ブランクの奴らが……全部、色を……」
烈が腰に手を当てて胸を張る。
「感謝はええけどな! 俺ら、まだまだ行くからな!」
湊が烈の首を軽く引っぱたいて止めた。
「少し黙ってろ。今は静かにしておけ。」
---
助けられた人々は、誰かが涙をこぼし、誰かが笑い声をあげ、思い思いに自分の色を確かめていた。
その中心で、彩葉の筆先がまだかすかに光っている。
湊が気づいて近づいた。
「彩葉……お前の“パステル”……少し色が濃い。」
彩葉は、
一瞬だけ、筆を隠すように握りしめた。
「……うん、ちょっとだけね。」
烈がにやっと笑う。
「何やそれ、珍しいやんか。」
湊は訝しむように、彩葉の手元を見つめたまま、
何かを言いかけて口をつぐむ。
---
夜凪はそんな三人をちらりと見やり、無言で人々の間を抜けて行こうとした。
彩葉が気づいて、小さく手を振る。
「夜凪、どこ行くの?」
夜凪は足を止めずに言った。
「……色の残骸を拾うだけだ。」
霧の奥、夜凪の影がふっと溶けた。
---
パステルの残光が、彩葉の指先で静かに揺れた。
---
烈が彩葉の背中をどん、と叩いた。
「とりあえず! 腹減った! 飯や飯!」
湊がため息をつく。
「……お前は少しは余韻というものを味わえ。」
彩葉は二人のやり取りに小さく笑って、
夜空を見上げた。
パステルの色が、ひときわ柔らかく光っていた。




