色を還す、パステルの刃(5)
無彩パークの奥は、昼間のはずなのに真夜中のように暗い。
白い霧の向こうで、ブランクが飛ばした監視ドローンが低く唸っている。
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「こっち……息潜めて……」
彩葉が小さく手を伸ばすと、烈と湊が息を呑んだ。
彼女の足音はほとんど響かない。
隣で烈が小声で漏らす。
「……相変わらず、忍者みたいやな……」
湊が苦笑する。
「お前は暴君だからな。」
烈が湊を睨む。
「なんやと!」
「声がでかい。」
湊の一言で、烈は唇を噛んで黙る。
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ドローンが一機、霧の中を音もなく滑ってきた。
湊が小声で指示する。
「彩葉、下がれ。これは俺が――」
しかし。
彩葉はすっと湊の前に出た。
ドローンのセンサーがこちらを捉えた瞬間――
バンッ!!
彩葉の手刀が一閃。
ドローンはまるで段ボールの箱みたいに地面に落ち、モーターの音を残して動かなくなった。
烈と湊が声を合わせた。
「……はや……」
彩葉は小首をかしげた。
「ん? 湊が時間かかるから、先に落としただけだよ?」
湊は目元を引きつらせる。
「……お前、もう少し遠慮を……」
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そのとき。
ガラ――ン!
金属音がした瞬間、霧の中から黒い影が飛び出した。
「……遅い。」
夜凪だった。
気配を隠したまま、背後のドローンを片っ端からナイフで叩き落としている。
烈が舌打ちする。
「出たな黒猫!」
湊が低く呟く。
「……相変わらず気配が薄い……」
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夜凪は彩葉の横をすり抜けようとした瞬間、足元の鉄板がわずかに軋んだ。
「わっ――!」
バランスを崩した夜凪を、彩葉が咄嗟に引き寄せた。
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ドンッ――!
夜凪のフードが落ちる。
白い霧の中、二人の顔がぴたりと重なる。
鼻先が触れそうな距離。
お互いの呼吸が頬をかすめて、小さく止まる。
「……っ……」
夜凪の睫毛がわずかに震えた。
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「彩葉ァァァァァァァ!!」
烈の絶叫が響く。
「どこ触ってんじゃコラ黒猫ォ!!」
烈が夜凪に飛びかかろうとするのを、湊が止めながら吠える。
「お前が行くな!俺が行く!」
「はあ!? 何言うてんねん!」
「あなた軽々しく彩葉に近づかないでもらえますか!?」
「ちょぉ湊、お前よりも俺が先行して……!」
烈と湊がバチバチ火花を散らす中、彩葉と夜凪はぴたりと視線を合わせたまま動けない。
「……どけ。」
夜凪が低く囁いた。
「……どかない。落ちるから。」
「……重い。」
「失礼。」
結局、夜凪がそっと彩葉を押し返す形で体を戻した。
一拍遅れて烈が夜凪の襟首を掴み、湊が烈の首根っこを引っ張り――
「うわあああああああああああ!!」
路地の霧の奥、無彩パークに、彩葉を巡る謎の乱闘音がこだました。
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彩葉だけが淡々とドローンの残骸を回収しながら、ぽつりと呟く。
「……はあ……なんか…面倒だな。」




