エピローグ 上
戦いが終わり、世界は静かに色を取り戻した。
無彩の塔が崩壊してから数日後――
塔の残骸の片付けを手伝ったり、解放された人々の色彩のケアをしたり。
彩葉と仲間たちは相変わらず一緒に行動していた。
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だが。
「……また烈と理斗……」
湊は街外れの小さなカフェの窓際で、向かいのテーブルで賑やかにおしゃべりする二人を睨んだ。
烈は相変わらず大声で笑い、理斗は平然とタブレットで彩葉のことを話題にしている。
(……どうやってふたりきりになるんだ……)
湊は手元のカップをカタカタと鳴らす。
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そんな湊の背後で、ふいにコートの裾が揺れた。
「……あ?」
気配を感じて振り向くと、黒いフードをかぶった夜凪が彩葉の隣に、いつの間にか立っていた。
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「……夜凪?」
烈も理斗も一瞬、声を止めた。
彩葉がぽかんと見上げると、夜凪は低く囁くように言った。
「なあ、彩葉。前から言おうと思ってた。」
ふっと、夜凪が彩葉の耳元に顔を寄せる。
「――お前の能力、ずっと狙ってたんだよな。」
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「っ……!」
湊の中で何かがプツンと切れた。
「やめろ。」
湊が立ち上がる音に、烈と理斗が目を丸くした。
夜凪は薄い笑みを浮かべたまま彩葉の髪に触れそうに手を伸ばす。
湊の声が低く、けれどはっきりと響いた。
「彩葉は……俺の、大事な人だから。」
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カフェの空気が固まった。
夜凪の手が止まる。
「……あ?」
珍しく、夜凪の目が丸くなる。
烈が口を開けてフリーズし、理斗が楽しそうにニヤついた。
彩葉だけが、わずかに赤くなった頬で、ぽかんと湊を見つめる。
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「な……何言って……」
湊の耳まで赤い。
つい言ってしまった。取り繕えない。
「……そ、そいつに近づくな。彩葉は……俺のだから……!」
夜凪がふっと笑って手を引いた。
「……そうか。そりゃ悪かったな。」
まるで用は済んだと言わんばかりにひらりと窓際に座り直す。
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烈が堪えきれずに肩を揺らして笑い始めた。
「湊……言うたな……言うたで今……!」
理斗がカップを持ちながら悪戯っぽく言う。
「おめでとう、告白だな。」
「ちがっ……いや……違わないけど……」
湊は顔を真っ赤にして視線を逸らした。
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彩葉がそっと湊の袖をつまんで、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう。湊。」
その一言に、湊はますます俯くしかなかった。
カフェの窓の外、街は今日も、色を取り戻したまま輝いている。




