還彩の塔 混色暴走の夜明け(3)
塔の最奥、砕けた炉心が完全に崩壊すると同時に、空を覆っていた白い霧が、ゆっくりと夜風に溶けていった。
無彩の塔の周囲に広がる街並み――
窓を閉ざしていた家々、色を失った壁、灰色に覆われていた花壇。
そこに、小さく、小さく、まるで朝日が滲むように色が戻り始めた。
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「……見てみぃ。戻っとる……!」
烈が誰にともなく呟いた。
夜凪が立ち止まり、振り返った街を無言で見つめる。
彩葉の手を握る湊の肩越しに、理斗が笑みを浮かべて言った。
「人間の色素だけじゃない……
街も、花も……生き物全部が取り戻してる。」
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遠く、街角の路地裏で。
いつも無表情で歩いていた老人が、自分の手の甲に色が戻っているのを見て、静かに泣き崩れていた。
子供たちの頬に赤みが差し、花売りの少年のカゴが、かすれた色の花で満ちていく。
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奪われた色が、誰のものでもない色として還っていく。
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烈が彩葉の背中をどんと叩く。
「お前のおかげや、彩葉。」
彩葉は、ふと夜空を仰いだ。
塔の瓦礫越しに、夜明けの光が射している。
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「……これで全部、終わりかな……」
小さな声で彩葉が呟いた。
「……奪った色は返した。ブランクも、残党だけになったし……
……これから、私は……」
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どこか寂しそうに言葉を落としたその時――
「――終わりちゃう。」
烈がにやっと笑って、彩葉の右手をぐいっと掴んだ。
「ここからやろ。お前がやっと、誰のためでもなく生きれる番や。」
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夜凪も、気怠そうに手を伸ばし、彩葉の左手をそっと取る。
「……まだ残党の掃除もあるしな。」
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理斗は彩葉の肩に片手を置き、タブレットをポンと叩いた。
「データも全部壊れたわけじゃない。
まだ解析したい謎も山ほどある。お前の色も……まだ全部見たい。」
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最後に、湊が彩葉の前に立った。
ゆっくりと手を伸ばし、彼女の手を包む。
「……お前がどこにいてもいい。けど俺は……お前と一緒にいる。」
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彩葉は、しばらく黙ったまま、5人はぎゅっと手を取り重ねあった。
声にならない笑みが、夜明けの風に溶けていった。
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(……色は還った。これからは、自分のために――。)
小さく、小さく息を吐いて、彩葉は言った。
「……じゃあ……これからも、一緒に……。」
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塔の瓦礫を越えて、夜明けの光が世界を照らす。
色を取り戻した人々の声が、遠くで笑い声に変わっていく。
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奪われた色の物語は終わった。
ここからは、誰のものでもない色で描く物語――
仲間と共に、まだ見ぬ色を探して歩いていく。




