還彩の塔 混色暴走の夜明け(1)
巨大な炉心室は、無彩の渦が塔全体を覆うように脈打っていた。
ブランクの幹部が、黒い外套をはためかせ、嘲るように笑う。
「ふふ……滑稽だな。
君たちがいくら足掻こうと、色はすべて“ひとつ”に統合される!」
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幹部の背後の炉心から溢れた無彩が、怪物のように腕を形作り、湊たちを薙ぎ払おうと振り下ろし、烈たちに襲いかかろうとしていた。
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「くっそが――! 邪魔やッ!!」
烈の拳が炎を纏い、真紅の火柱となって幹部の無彩の腕を焼く。
轟音と共に、黒い渦の一部が溶け落ちる。
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「烈! 止めは俺だ――!」
湊が烈の肩を蹴って飛び出す。
外した眼鏡が腰に揺れ、氷の蒼が眩しく弾けた。
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「――砕け散れ。」
湊の指先から伸びた氷の刃が、幹部の肩口を斬り裂く。
無彩の防壁が軋み、幹部の悲鳴が塔に反響する。
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その隙に、夜凪が影を駆けた。
低く構えたナイフが、無彩の渦の根元を狙う。
「……眠っとけ。」
影の軌跡が黒を裂き、幹部の膝がわずかに崩れる。
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すかさず、理斗がタブレットを閉じて腰のパレットを構えた。
黄の光が粒子のように滲み、夜凪の闇に混ざる。
「光と影の相殺――」
パァン――!
爆ぜた光弾が幹部の側頭をかすめ、黒い霧が一瞬だけ散った。
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烈が息を切らして笑った。
「どうや湊! 削ったったで!」
湊も氷の剣を構え直し、短く応えた。
「ああ――ここからだ。」
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黒い渦はまだ蠢く。
幹部が憎々しげに叫ぶ。
「小賢しいッ……無彩は無限だ……!」
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烈の炎。
湊の氷。
夜凪の影と理斗の光。
みんなの色が、確かに幹部を追い詰めていく。
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その背を――彩葉は見ていた。
(みんなが……繋いでくれた。)
炉心の前、白い光を纏ったパレットを握りしめて。
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(私だけの……色……)
記憶が呼び覚まされる。
誰かに作られた試験体、淡い“半端な色”。
だけど――
みんなと混ぜたから、ここまで来られた。
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(――行かなきゃ。)
彩葉の目がすっと閉じられた。
次の瞬間。
空気が震えた。
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「――《混色暴走》――」
低く、かすれた声が炉心室に響いた。
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パステルの光が、鮮やかな“純色”に戻っていく。
赤、青、緑、黄、黒――
五色が一気に彩葉の体を包み、滲んだ光が眩しく弾けた。
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「彩葉ァァァ――!!」
烈の叫びが届く頃には、彩葉はひとりで前に立っていた。
幹部が声を荒げる。
「無駄だ! 色は――!」
言葉の途中で、五色の光が幹部を貫いた。
氷の槍、炎の刃、風の渦、雷の閃光、影の針。
全ての属性が重なり、幹部の無彩を切り裂く。
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「――返して。」
彩葉の声が届く。
「みんなの色を……全部、返して……!!」
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轟音が塔を揺らした。
幹部の悲鳴が無彩に呑まれ、炉心が砕け、黒い渦が白い光に飲み込まれていく。
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烈と夜凪と理斗が、吹き飛ばされないように必死に壁に手をつく。
湊だけが彩葉に駆け寄った。
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「彩葉ッ!!」
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全てが静かになったとき、彩葉の膝が崩れた。
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湊がその体を抱き止める。
彩葉の瞳は揺らぎ、色が混じったまま、焦点が合わない。
「……湊……」
小さく笑った。
「……色……戻せた……?」
湊は彩葉を抱きしめたまま、小さく何度も頷いた。
「戻った……だからもう、無理するな……」
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烈が駆け寄り、夜凪が小さく目を伏せた。
理斗が駆け込んできて、データを必死に確認している。
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彩葉のまつ毛が小さく震え、湊の肩に額を預けた。
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「……湊……」
「……ああ。」
「……ありがと……」
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湊の頬に、一滴だけ涙が落ちた。
奪われた色が、いま、全部戻った――




