欠片が告げる真実(6)
塔の奥へ進むと、空気が変わった。
冷たく、重く、息をするだけで胸が圧迫されるようだ。
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ぐるりと天井を這う配管、壁には色を抜かれた試験体の残骸が影のように張り付いている。
理斗が歩きながらタブレットを睨み、小さく息を呑んだ。
「……これが、ブランクの“色の炉心”……中枢だ。ここを止めないと、世界の色は全部、吸われて同化される。」
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湊が冷たい声で言った。
「つまり、ここで決める。」
烈は肩をぐるぐる回しながら笑う。
「ええやん!派手にやったるわ!
今度こそ全部、燃やしたる!」
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彩葉は手の中の欠片を握りしめた。
あの記憶が頭をよぎる。
――パステルの核。
誰かの都合。色を混ぜるために作られた器。
でも。
湊が、烈が、夜凪が、理斗がいる。
“誰が作った”なんて関係ない。
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「……行こう。」
彩葉が静かに呟くと、扉の向こうから低く、不気味な笑い声が漏れてきた。
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夜凪がナイフを構え、壁に張りつく影を睨んだ。
「……来るぞ。」
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ギィ――――ン。
無彩の塔、最奥の炉心室。
低く鳴る歯車の音に混じって、彩葉の鼓動が静かに波打っていた。
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鋼鉄の扉を前に、彩葉は目を伏せる。
脳裏に浮かぶのは――
あの白い研究所の、ひび割れた天井。
血のように赤く滲む光と、焼けるように痛かった体。
冷たい廊下を裸足で駆け、どこかへ逃げようとした幼い自分。
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『――誰か……』
『誰か……誰か……』
記憶を失くし、名前さえ失くして、ただ白い霧の中をさまよった。
そして――
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雨の街角。
ボロボロの看板の下で座り込んでいた青年がいた。
乱れた黒髪に、ずり落ちそうな眼鏡。
睨むように空を見上げていた彼に、彩葉は初めて声をかけた。
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「君……何してるの?」
湊はびっくりした顔で、ゆっくり眼鏡を直した。
「……何って、色を探してるんだ。」
「色を?」
「……奪われた。俺の家族の色を、兄の緑を……
全部、ブランクに……。」
小さく笑ったその声が、震えていた。
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彩葉は差し出した。
自分の手を。
パレットの小さな欠片を。
「……私も、探してる。一緒に行こう。」
湊は黙って手を取り、小さく頷いた。
あの日、すべてが始まった。
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「湊。」
現在に戻る。
炉心室の前で、彩葉が湊を見る。
「行ける?」
湊は眼鏡を外した。
黒髪がふわりと額に落ち、瞳の奥で、氷の青がきらめいた。
「――行くさ。お前と始めた旅だからな。」
湊の指先に、蒼く研ぎ澄まされた氷の色が浮かび上がる。
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「双子の兄さんの色……」
彩葉がそっと呟く。
湊は笑わず、まっすぐ言った。
「全部奪われたわけじゃない。彩葉がくれたんだ。
俺に“もう一色”を繋いでくれた。」
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烈が拳を鳴らす。
「二人の分まで暴れてやるわ!」
夜凪はナイフを回し、背後の影に溶けて低く笑う。
「泣かせるなよ、湊。」
理斗は後方でタブレットを掲げた。
「色を混ぜる準備はいつでも。彩葉、頼んだぞ。」
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幹部が炉心の前で腕を広げた。
黒い無彩の渦が、巨兵を覆い、塔を震わせる。
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彩葉が一歩前に出て、筆を構えた。
「行こう、湊!」
「おう!」
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湊が氷の刃を解放する。
彩葉のパステルが重なり合い、薄い虹が二人の間で弾けた。
氷の刃がパステルで光を纏い、塔の中枢に向かって鋭く、真っ直ぐに飛ぶ――!
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ここからが、彩葉と湊の“約束”の戦いの始まりだ。




