欠片が告げる真実(1)
螺旋階段を進む一行の足音が、灰色の壁に小さく反響する。
無彩の塔の奥へ奥へ――
空気は冷たく、湿り気があり、階段の途中には時折、黒く焦げた痕が残っていた。
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夜凪が先頭を行き、壁の継ぎ目を指でなぞりながら進む。
理斗がタブレットを覗き込んでつぶやいた。
「……この辺、妙にデータが途切れてるな……
何か仕掛けがあるかも――」
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そのとき。
カチ――
夜凪の指先が、ほんのわずかな壁のくぼみに触れた。
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「……!」
壁がわずかに沈む。
と、同時に。
足元の石板が沈み込み、天井と壁の隙間から、金属に編まれた細い縄がしゅるしゅると伸びてきた。
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「……ッ!?」
夜凪の手首が、足首が、あっという間に絡め取られた。
「……ッ、クソ……!」
無彩兵の罠は容赦なく、夜凪の細い腰や太ももを締め上げる。
そして――
股間の辺りにまで縄がぐい、と食い込む。
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「……っ……ッ、は……!」
夜凪の喉から思わず普段の低い声とは違う、か細い声が漏れた。
顔が赤く染まる。
烈が少し後ろで唖然と口を開けた。
「お、おい黒猫……何してんねん……」
湊も目をそらしつつ小声で咳払いする。
「……声……変じゃないか……」
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夜凪は顔を真っ赤にして睨み返した。
「だ、黙れ……っ……!
いいから……早く、ほどけ……ッ!」
しゅるしゅると、縄はさらに締まっていく。
「……っ、あ、ぁ……ッ……!」
夜凪の目尻にうっすら涙が滲んだ。
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その瞬間――
ドンッ!!
轟音とともに、階段の壁が大きく抉れて吹き飛んだ。
舞い散る破片と煙の奥から、彩葉が片手に巨大な筆を構えたまま現れる。
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「――夜凪!」
夜凪の目の前に現れた彩葉の姿に、烈と湊が同時に「おぉ……」と息を呑む。
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彩葉は何も言わず、壁に絡まった罠の仕掛けを見定めると、巨大な筆で渾身の一撃を叩き込む。
バキィン――!!
壁ごと罠が砕け、縄は天井の装置ごと吹き飛んだ。
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夜凪の身体を拘束していた縄が力なく崩れ落ちる。
彩葉が片腕で夜凪を引き寄せ、倒れそうな体を軽々と抱き止めた。
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「大丈夫? 無事?」
夜凪は目を伏せたまま、真っ赤な顔で小さく吐息を漏らす。
「……見たか……? こんな……情けない……」
彩葉は夜凪の頭をぽんと叩き、男前な声で笑った。
「何言ってるの。助けるのは当たり前でしょ。」
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烈と湊が後ろでそっと目をそらした。
烈「……さすが彩葉や……」
湊「……あの黒猫が、ちょっと可愛く見えた……」
理斗だけが面白そうにタブレットを叩きながら、
「いやー記録残しときたかったな、これ。」
とぼそりと呟き、烈に肘でどつかれていた。
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螺旋階段の先――
砕けた壁の向こうに、まだ色を奪う塔の奥が、闇の中に待っている。




