灰色の塔、灯る赤(2)
――施設を抜けた翌朝。
まだ冷たい朝の空気の中、彩葉たちは小さな商店の軒先で昼飯用のパンを紙袋に詰め込んでいた。
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烈が両手に大袋を抱え、鼻歌まじりで歩いている。
「ふはは! このカレーパンとピザパンは俺の分やからな!
湊! お前の分は……あれ? なんやったっけ?」
湊は手にしたサンドイッチをむすっと見つめながら、烈を冷たく睨んだ。
「……別に。何でもいい。」
烈がケラケラ笑う。
「おいおい機嫌悪ぅないか? 昨日から拗ねとんのか?」
「拗ねてない。」
「めっちゃ拗ねとる!」
烈がニヤニヤして覗き込むと、湊はサンドイッチの袋をぐしゃりと握りしめた。
「……うるさい……。」
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一方、少し離れて歩く理斗は手にした端末を小さくタップし続けている。
「……ふむ……昨日の色素サンプル……
還元パターンがやっぱり通常のパレットとは……。
いやしかし……分離のタイミングで……」
誰も聞いていないのにブツブツ言いながら彩葉の後をついてくる。
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彩葉は小さなパンを頬張りつつ、二人の様子に気づくと、くすっと笑った。
「……湊、ツナパン食べる? 烈にはあげない。」
湊が一瞬だけ彩葉を見て、わずかに赤くなった耳を隠すように俯く。
「……いる。」
烈が不満げに叫ぶ。
「おい彩葉ァ! 俺も欲しい!」
「烈はカレーパン2つあるでしょ。」
「そやけどっ!」
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そんな小さな賑やかさを背に、一行は次の目的地――
ブランクの補給拠点だと噂される古い倉庫街に辿り着いた。
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暗い廃倉庫の中、うす暗いライトの下で装甲兵とドローンの群れが待ち構えていた。
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「来るぞ!」
湊が真剣な声を張る。
烈はパンの袋を壁際に置き、大筆を肩に担いだ。
「腹ごしらえの後は運動やな!」
夜凪が影のように現れて彩葉の横に立つ。
理斗は端末を背負い直し、黄色の光を纏わせる。
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彩葉が息を整え、筆を構える。
「……いこう。」
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赤、青、緑、黄、黒――
5色の軌跡が交差し、ブランクの補給兵たちを一気に制圧していった。
烈の赤は倉庫の壁を焦がし、湊の青が敵の動きを封じ、夜凪の黒が死角を切り裂き、理斗の黄が敵の防御を破壊した。
最後に、彩葉の淡いパステルが残骸に触れると、囚われていた“色”が再び蝶のように舞い戻った。
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「助かった……!」
壁際に縛られていた人々が、震える声で礼を言った。
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その中の一人――
ブランクの元技術者だという中年の男が、恐る恐る口を開く。
「……奴らの“本拠”を知りたいなら……
東区にある、“無彩の塔”を探すんだ……!
そこに全ての核が集まってる……!」
烈が大声で笑った。
「よっしゃ!! 次の目的地、決定やな!!」
湊が冷たく呟いた。
「……また厄介そうだ……。」
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彩葉は蝶のように舞う光を見上げ、そっと呟いた。
「……行こう。全部、還すために。」
その肩を、烈が豪快に叩いた。
湊は小さく肩をすくめ、理斗はすでに塔の情報を端末に叩き込んでいる。
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小さなパンの袋が、誰かの手で大事に拾われた。
彩葉の隣にひょっこり立った夜凪が、黙ってパンを渡してきた。
彩葉が笑った。
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――そして一行は、ついに“無彩の塔”へと向かう。




