灰色の塔、灯る赤(1)
――施設の瓦礫の片隅、夜の冷たい風が吹き抜けていく。
彩葉はぼんやりと、まだ熱を帯びた瓦礫の上に腰かけ、指先で小さなパステルの光を弄んでいた。
---
「……作られた試験体、か。」
声に出してみても、風があっさりと持っていってしまう。
自分の核に触れたはずなのに、どこか心に穴が空いたように感じる。
---
そのとき。
「おーい。」
無遠慮で間の抜けた声が、唐突に彩葉の肩に落ちた。
振り向くと、烈がどこからか缶ジュースを二つ持ってひょいっと隣に腰を下ろしていた。
---
「……烈?」
「夜風に当たんのもええけど、冷えるぞ。」
烈は自分の分の缶をプシュッと開けて、彩葉の前にもう一本を差し出す。
「ほれ。」
---
彩葉は受け取ったまま、プルタブを引かずにじっと見ていた。
烈は炭酸を一口飲んでから、ぽつりと夜空を見上げた。
---
「……昔な。俺、幼い頃に、火事起こしたんや。」
---
彩葉の指がぴくりと動く。
烈の目は夜空の一点を見つめていた。
---
「赤の家系でな……火を操る適性は家の誇りやった。
でも本当は、その火を抑える術を学んで、
家を守る役目を継ぐはずやった。」
烈の声が、普段の豪快さとは違って静かだった。
---
「でも俺にはそれができへんかった。
火を止められんで……大事な人を焼いてしもうた。」
缶の縁を指でコツコツ叩きながら、烈は少しだけ口元を歪めた。
---
「それからずっと、俺は火に振り回されて、
力でねじ伏せることしかできんままやった。」
彩葉は静かに缶を両手で包み込む。
烈の声がほんの少しだけ柔らかくなる。
---
「でもな、あん時お前が、
“私が隣にいるから大丈夫だよ”って言うたやろ。」
彩葉がはっと顔を上げる。
烈はいつもの豪快な笑みじゃなくて、どこか子供みたいに照れくさそうに笑った。
---
「俺はあれで救われたんやで。
俺の火を、抑えられんでもええって思えた。」
烈は炭酸をぐいっと飲み干して、彩葉の方を真っ直ぐ見る。
---
「お前は誰かのために作られたかもしれへん。
せやけど今は俺の、大事な仲間や。」
彩葉の肩に、大きな手がぽん、と置かれた。
---
「今度は俺を頼れ。火のことなら俺が何とかしたる。」
---
堪えきれなくなったように、彩葉は小さく頭を下げて、烈の胸元に額をそっと埋めた。
烈は慌てたように笑って、けれど優しく彩葉の背中をぽんぽんと叩いた。
---
少し離れた瓦礫の影で、湊がそれを見ていた。
缶コーヒーを持つ手が、わずかに力を込めて震える。
---
「……烈のやつ……。」
言葉を切りながらも、湊は彩葉が小さく笑ったのを見て、どこか複雑に目を細めた。
夜風がまた、彩葉の頬を撫でて過ぎていった――。




