色還しのパステルコア(4)
最奥の隔壁が軋みながら開くと、そこは暗いドーム型のホールだった。
中心には巨大な水槽のような装置が鎮座していて、内部には淡い光の粒が漂っている。
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「……あれが、“色の核”……。」
湊が低く呟く。
理斗が素早くスキャナーを操作した。
「これ……ただの色素じゃない。
生体情報が混じってる。……人の、遺伝情報……?」
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彩葉がゆっくりと歩み寄る。
光の粒が彼女の筆先に吸い寄せられるように揺れた。
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「……私、これ……知ってる気がする……。」
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水槽の奥の壁面に設置された端末が、突如、古びたログを吐き出す。
夜凪がすかさず操作すると、スクリーンにぼんやりと白黒の映像が映し出された。
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『……“パステル計画”……。
失われた感情の保存と再配布……人の心を――色で繋ぎ直す……。』
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烈が声を詰まらせる。
「……何やこれ……実験記録か……?」
湊が理斗を睨む。
「どういう意味だ……“パステル計画”って……!」
理斗は眉をひそめ、映像のデータを解析する。
「……彩葉……君のパステルは偶然じゃない。
人の感情を、色にして保存して、必要なときに“還す”ためのコアだ。
君自身が――試験体だった可能性が高い。」
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彩葉は水槽の光を見つめたまま、小さく呟く。
「……私が、誰かの心を戻すために……作られた……?」
筆先がほんのり光り、水槽の中の光の粒と共鳴する。
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夜凪が彩葉の前にすっと立つ。
「……関係ない。」
彩葉が顔を上げる。
夜凪は淡々と言い切った。
「お前が“何者か”より、
お前が“ここにいる”ことの方が大事だ。」
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烈が大きく息を吸い込み、彩葉の肩をぽんと叩く。
「せや! お前が作られたもんでもなんでもええ!
俺が“今ここにおるお前”を認めたるわ!」
湊も渋い顔をしながら、彩葉の隣に立つ。
「……ああ。お前が還すべきなのは、過去じゃなくて今だ。
……俺たちが、全部付き合う。」
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理斗が笑って肩をすくめた。
「お前ら、ほんと面倒見いいな。
でも正解だ。俺も解析は続けるけど……彩葉が誰より生きてることに変わりはない。」
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水槽の光が徐々に揺れ始める。
夜凪が振り返り、背後に気配を探った。
「……来る。ブランクの残党だ。」
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彩葉がゆっくりと筆を握り直す。
その背後には、烈の赤、湊の青、理斗の黄、
そして夜凪の黒が、静かに並んでいた。
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「……還そう。全部、取り戻して、終わらせよう。」
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最奥のドームに、再び色と光の戦いが始まろうとしていた――。




