色還しのパステルコア(2)
薄暗い地下通路の入口。
錆びたハッチを烈が蹴り開けた瞬間、背後の影から何かがふわりと舞い降りる。
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「……遅い。」
湊が即座に振り返ると、そこにはフードをかぶった夜凪が、まるで最初からいたように立っていた。
烈が目をむく。
「お、お前! いつの間に背後おったんや黒猫ォ!」
夜凪は烈を一瞥して、ひょいと彩葉の横に並ぶ。
「彩葉、ここは俺も知ってる。
“色核”は中央制御室の奥。道案内する。」
湊が呆れた声を漏らす。
「……いつから監視してた……。」
夜凪は無言で小さく肩をすくめただけだった。
彩葉はくすっと笑う。
「……ありがとう、夜凪くん。」
烈が小声で湊に寄りながらぶつぶつ。
「……やっぱこいつストーカーやろ……。」
湊がため息をつきながら小さく同意した。
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一行は夜凪を先頭に、ブランクの研究施設の奥へと足を踏み入れていった。
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薄暗い地下通路の先、朽ちかけた鉄扉を押し開けると、奪われた色素を保管するタンクが無数に並んでいる。
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「……こりゃ……全部“色”なんか……」
烈が呆れたように低く息を吐く。
湊は手元の端末で通路図を確認する。
「色素の抽出装置、保管庫……。
最深部にコアがあるはずだ。」
夜凪は何も言わず、影のように背後の通気口を監視している。
彩葉はタンクの中の、淡く光る液体を見つめていた。
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「……こんなに……人の色が……」
隣で理斗が、小さな携帯型の分析装置をかざす。
「やっぱりだ……これ、普通の色素じゃない。
“誰かの記憶”みたいな波形が混じってる。」
湊が目を細めた。
「……記憶……?」
理斗は彩葉の肩を軽く叩いた。
「なあ彩葉。ちょっと、これ触ってみて。」
「え?」
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理斗は金属タンクのバルブを少しだけ開き、透き通った液体を彩葉の筆先にすくわせる。
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彩葉がそっと筆先を光らせると、パステルの色が液体に吸い込まれていった。
一瞬で、タンクの液が虹色の残光を帯び、うっすらと声のようなものが施設の壁に木霊する。
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――「お母さん……まだ帰ってこないの?」
――「綺麗だね、この色……。」
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烈が肩を揺らす。
「声……!? これ、人の記憶か……!?」
夜凪が低く呟く。
「……ブランクは“色”だけじゃない。
感情ごと抜いてる。」
湊が理斗に睨みを向ける。
「おい……彩葉に何させてる……!」
理斗は筆を覗き込み、真剣な目をした。
「見ろ。彩葉のパステルだけが、
他の属性と混じって“記憶”を還してるんだ。」
彩葉は筆を握る指先がわずかに震えた。
「……何で、私だけ……?」
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理斗が淡々と告げる。
「君のパステル、色素と記憶を“結合”する特異点になってる。
それがブランクにとっては一番の脅威になるんだろうな。」
湊が険しい声を落とす。
「……つまり、彩葉の存在が……」
烈が拳を握る。
「ブランクにとっちゃ、全部バレたらマズいわけか!」
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彩葉はそっとタンクの色素を戻し、筆を見つめた。
「……私、何なんだろうね……。」
理斗は不意に笑った。
「それを探すために、ここに来たんだろ?」
烈が背中を叩く。
「せやせや! 何でも来いや! 俺らが全部付き合うわ!」
夜凪が壁の奥に視線を向けた。
「……来る。」
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奥の隔壁が開き、白い防護服の兵士がずらりと現れた。
その奥には、研究棟の中央に埋め込まれた巨大な“色の核”が淡く脈動していた――。
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彩葉は筆を握り直し、仲間たちを見渡した。
「……私が何者か、知るために――ここ、壊そう。」
湊と烈が同時に笑う。
「おうッ!」
理斗が小さく笑って、自作の多属性パレットを握りしめる。
「解析ついでに――派手に暴れようか。」
夜凪の影が、兵士の隙間にすっと溶けた。
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白い光と色の奔流が、奪われた記憶の奥で交錯し始めていた――。




