色還しのパステルコア(1)
薄曇りの旅先の宿。
彩葉たちは、次の行き先に備えて温泉宿の一室に泊まっていた。
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「……ふぅ……生き返る……」
浴場から上がった彩葉は、いつもの無造作なお団子ヘアを下ろし、まだ湯気の残る頬を赤くして部屋に戻ってくる。
「みんな、外の自販機で何か飲み物買ってくるね。」
そう言って、のほほんと浴衣姿で出ていく彩葉。
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残されたのは――
部屋の奥でノートPCを開いて座り込む、白衣の金城 理斗。
烈は布団を叩きながら寝床を作り、湊は湯上がりの髪をタオルで拭いている。
理斗はふと手を止めて、独りごとのように呟いた。
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「……きっと、この“パステル”の秘密は……
本人が寝てる時の体温とか、汗とか……
あるいは湯気の成分とか……!」
烈が怪訝そうに眉をひそめる。
「……おい、金城。何ブツブツ言うてんねん。」
理斗は白衣のポケットから小型のスキャナーを取り出し、にやりと笑った。
「いやー? ちょっと観察っていうか、
お風呂上がりとか、寝てる時とか――
一番“素の状態”を確認しといた方が解析進むでしょ?」
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烈と湊の背筋に電流が走った。
「……え?」
理斗は当たり前の顔で立ち上がる。
「だからちょっと、風呂上がりの残り湯とか、
布団に入って寝息とか、採取して――」
湊が盛大にタオルを床に落とした。
「は――――――!? お前何言って……っ!」
烈が布団叩きを握りしめる。
「おいオタク!!お前、何考えとんねん!!」
理斗は無防備に首をかしげる。
「え? 他意はないって。
ただの科学的好奇心だし。彩葉本人に直接害はないし。」
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湊が顔を真っ赤にして、理斗の胸ぐらを掴んだ。
「……それでもやっていいことと悪いことがあるだろうッ……!」
理斗は引きつった笑いを浮かべて手を上げる。
「いやいや、ほんとに他意はないから!
むしろ俺は彩葉の能力が特別だって証明したいだけで――」
「他意がなくても変態だろうがァァァ!!」
烈が布団叩きで理斗の頭をぺしんと叩く。
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湊の顔は真っ赤のまま、息も荒い。
「……彩葉さんが何も知らずに寝てる横で、
何を採取する気なんだお前は……っ!!」
烈も烈で頷く。
「彩葉に何かしたら、赤と青でボコボコやぞコラァ!!」
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バタバタと廊下の方で戸が開く音。
「ただいまー。あれ? 何してるの?」
湯上がりの彩葉が、冷たいラムネを手に戻ってきた。
烈と湊は慌てて理斗を羽交い締めにして隠しながら、何事もなかったように笑った。
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「な、何でもない! なあ湊!」
「う、うん! 何でもない……!」
彩葉は首をかしげたまま、ラムネをぐいっと飲んだ。
「……?」
理斗だけが小声でぼやいた。
「……何で、純粋な科学が怒られんだろ……」
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こうして、彩葉のパステルの謎を巡る“非合法観察計画”は、仲間内の全力阻止によって儚く潰されたのだった――。




