彩を還す者たちと黄の来訪者(5)
色を取り戻した人々が、ゆっくりと立ち上がり、まだ頼りなげに彩葉たちへ感謝の視線を向けていた。
烈がドヤ顔で胸を張る。
「へっへっへ、まあな! お礼は肉でええで!」
湊が呆れたように烈の後頭部を叩く。
「今は静かにしろ。まだ残党がいるかもしれない。」
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ふと気配を感じて、彩葉が後ろを振り返る。
梁の影――
さっきまでいなかったはずの夜凪が、いつの間にかコンベアの上に座っていた。
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烈が二度見して叫ぶ。
「お前いつからおったんや黒猫ォ!!」
湊が額を押さえる。
「……やっぱり途中で消えたと思ったら……」
彩葉は筆を肩に乗せて苦笑した。
「夜凪くん……ずっといたの?」
夜凪は面倒くさそうに片目だけ開ける。
「……さっきの“色還し”……
本当に人を戻せるんだな。」
烈が怒鳴りそうになるが、夜凪はひらりと飛び降りると、霧の奥にすっと影を溶かしてしまった。
「……次も来るからな。」
湊が小さく吐き捨てる。
「……もう好きにしてろ。」
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ぽつんと残された彩葉たち。
理斗がポケットから小型のスキャナーを取り出し、さっそく彩葉の筆先に向けてカチカチとデータを読み取っている。
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「……夜凪ってやつ、面白いな。ストーカー気質あるんじゃないの?」
湊がむすっとして睨む。
「どの口が言うんだ、お前に言われたくない。」
烈が彩葉を指差して笑う。
「お前の取り巻き、増えすぎやろ!?」
彩葉はパステルのインクを手の平に受けながら、理斗を横目で見た。
「……何してるの?」
理斗は目元だけ笑って、データを指先で弾いた。
「君のパステル、ちょっと成分調べてんの。
単色じゃないのに、干渉しないで混ざってる……
普通じゃ考えられない。」
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湊が理斗の後ろから覗き込む。
「……パレットは“単色”が原則だ。
混ぜようとすれば、性質が打ち消し合って不安定になる。」
理斗が目だけ動かし、彩葉をじっと見つめた。
「でも君のパステルは“弱い”けど……
逆にそれが色素を滑らかに繋いでる。
多重属性のハーモニクス。
これ、理論上は無理なはずなんだよなぁ……。」
烈がぽりぽり頭を掻く。
「要するにどういうこっちゃ?」
理斗はスキャナーをポケットにしまい、顔を近付けて彩葉を覗き込む。
「――君自身が、何か“通常のパレットアーティストじゃない”ってことさ。」
彩葉は息を止めた。
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理斗はふっと笑い、白衣の袖を翻して工場の奥を指差す。
「この先にブランクの研究室があれば……
何かわかるかもしれない。
君の“パステル”と、ブランクが色を奪う方法の共通点。」
湊が目を細めた。
「お前……ただの色素オタクじゃないな。何が目的だ。」
理斗は肩をすくめた。
「単純さ。
俺は“全色を制御する理論”を作りたいだけさ。
――俺のパレットは、その途中経過。」
烈がにやりと笑った。
「ええやんけ! チート大歓迎や!
お前のオタク知識で片っ端から色戻したろやないか!」
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彩葉は自分の手のひらのパステルを見つめた。
淡い、弱い。
だけど確かに誰かを還せる色。
――私の色は、なんなんだろう。
筆先に光がまた、微かに揺れた。
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「……行こう。
全部わかったら、もっと色を取り戻せる。」
理斗が口元だけ笑う。
「その好奇心、嫌いじゃない。」
廃工場の奥。
ブランクの秘密に近付く足音が、金属の床を静かに震わせていた。




