彩を還す者たちと黄の来訪者(3)
錆びた鉄骨が軋む音だけが響く、東の工場跡地。
彩葉たちは足を止め、天井の梁を見上げていた。
歪んだ鉄骨の上に、無彩の傀儡たち――
色を奪われ、感情のない瞳だけが青白く光っている。
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烈が拳を鳴らし、湊が額を押さえる。
「上にいるだけなら叩き落とすだけや。」
「待て烈。数が多い。迂闊に暴れるな。」
夜凪はすでにコンベアの影に溶けて、ナイフを構えてタイミングを伺っていた。
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その時だった。
工場奥の鉄扉が、ギイ、と軋む音を立てて開いた。
そして――
スッと現れたのは、白衣にオリジナル改造のパレットを提げた青年。
髪は軽く後ろに流し、目の奥には眠そうな光が揺れている。
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青年は手にしたペン型デバイスをカチリと回した。
「よっと……間に合ったかな?」
烈が目を丸くする。
「……誰やお前?」
青年――金城 理斗 は、ちらりと烈を流し目で見て、そのまま彩葉に視線を滑らせた。
「色染 彩葉、だったよな。
へぇ……本当に“パステル”でやってんだ。見物だな。」
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彩葉は少し警戒しつつも、問い返した。
「……誰? ブランクの人じゃないよね?」
理斗は肩をすくめて笑った。
「俺か? パレットアーティスト兼、色素研究オタクの金城理斗。
君らの噂は色々と回ってきててさ。」
烈が睨む。
「で、何しに来たんや。
見物しに来たんやったら邪魔やで!」
湊が理斗の腰にぶら下がるパレットを見て目を細めた。
「……パレットが……改造されてる……
二色以上、同時に発動できるのか……?」
理斗は湊に親指を立てる。
「さすが青の藍原くん、察しが早い。
俺は黄色と――黒、赤、青、何でも混ぜて撃てる。
ま、理論上は、だけどな。」
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彩葉は目を瞬かせた。
「色を混ぜて……?」
理斗がにやりと笑う。
「パレットってのは“単色”が原則。混ぜられるのは例外。
君みたいに“パステル”でブレンドできる奴なんて――
正直、半人前だと思ってたけど……
面白いじゃん、実際に見ると。」
烈が怒鳴りかけるのを、湊が手で押さえて制止する。
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理斗は、ポケットから小さな黄色のカートリッジを取り出すと、パレットにカチリとはめ込んだ。
無彩の傀儡が梁の上で、一斉にこちらを見下ろす。
理斗は肩をすくめる。
「ま、挨拶はこの辺にして――こいつら、片付けるぞ。」
彩葉は苦笑した。
「……見物だけじゃなくて、ちゃんと戦ってくれるんだ。」
理斗はウインクを返した。
「当然。せっかく改造したんだ、試運転ってやつだ。」
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天井の梁から、傀儡たちが音もなく飛び降りる。
彩葉は筆を構え、湊と烈が左右に散った。
夜凪は影の奥で、短く刃を鳴らした。
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「行くよ……!」
黄色の閃光が理斗の指先から弾けた瞬間――
工場跡地に、再び色の戦いの咆哮が響き渡った。




