退団 新たな出会いへ
6人で行う最後の試合。
この日は慣れ親しんだ体育館で、dragonの引退試合が行われていた。新6年生になる子供達へバトンを渡す為の試合だったが、子供達はこの6人で出来る最高のプレーを確かめる様に、楽しむ様に、手を抜く事はなかった。6人最後のプレーを見ながら、ママさんズも自然と一つに集まる。
「今日で最後なんだね・・」
美代が寂しげにしんみりと零す言葉に、
「うん・・6人が揃ってる所、ちゃんと見ておかないとね」
斗貴子も寂しそうに笑う。
「色々あったよね」
幸子が振り返る言葉に、皆の中で思い出が走馬灯の様に流れた。秋もこの濃密な2年間を振り返り、籘達の姿を目に焼き付ける。
「皆、本当に強くなったね」
秋はしみじみ言った。時には怒りながら、時には泣きながらボールを追い掛けていた少年達が、今は少し逞しくさえ見える。それでも ‘楽しい’ という顔でプレーをする姿は、6人が揃った時からずっと変わらない。
「皆、最後の別れじゃないんだから~」
琴美が少しおどけて言う言葉に、息子の勇姿を見届けているママさんズが泣きながら笑う。
「あはは、そうだよね!」
卓人の母、斗貴子。
「ちゃんと連絡頂戴よ?」
康太の母、琴美。
「どうせまたすぐ集まるくせに~」
泉の母、幸子。
「卒業式終わったら秋ん家で飲もうって言い出したの忘れたの?」
義和の母、美代。
「あはは、そうだった!」
秋達は揃って笑う。この5人にしかない絆。この先例え会える頻度が減ったとしても、この絆が変わる事はないだろう。そして、それは子供達も同じだ。秋はこの出会いをくれた丈瑠に、何度言っても足りない程の感謝を胸に抱いていた。怯えるだけだった自分に、皆がそっと手を差し伸べている事に気付かせてくれた。誰にも話せない苦しみを共有し、共に泣いてくれたあの日。自分の子供だけでなく、6人全員を自分の子供の様に可愛がってくれた。怒り、励まし合い、笑い、喜び、悲しみ、全てを共有して来たママさんズ。離れがたい想いが、秋の胸を締め付けたが、これが最後ではないという確固な絆。秋は審判をしている丈瑠を見詰める。今の様に頻繁に会える事もなくなるのが分かっているだけに、寂しい気持ちが込み上げた。春先はどこの学校もチームが一新する事から、協会も事務的な仕事が忙しくなるし、それでなくても仕事・Vでの若手の育成・そして少年バレーの指導と、丈瑠がどれだけ忙しくなるのか分かっているだけに、秋は丈瑠の前ではこの寂しさを表に出せずにいたし、出すつもりもなかった。
「中学に上がったら、対戦相手になんだな」
試合の途中、審判を向坂に代わって貰った丈瑠が、秋の隣に並んで言った。
「負けないよ?」
秋が小さく笑って丈瑠を見上げる。
「夏頃まで時間取れねぇかもしんねぇ」
「うん・・これでも協会の人間だから分かってるよ?」
秋は泣きそうになる気持ちを紛らわす様に、少しおどけた様に言う。
「電話するから」
丈瑠が秋の手を握って、皆に見えない様に体の後ろに隠す。
「遅くなるかもしんねぇけど、顔見に寄る」
「無理しないで」
笑顔でいたいのに、笑顔が作れない。
(丈瑠さんの前では泣かないって決めてたのに・・)
「泣くなよ」
「・・無理」
秋は涙を見られない様に俯いた。試合終了のホイッスルと共に放れた手の温もりは、思った以上に秋の手を冷やしていった。
その夜は、最後まで賑やかに過ぎる。ママさんズと、3人の指導者、そして子供達を連れ、打ち上げ会を近所の小料理屋で開いていた。色んな思い出話に花を咲かせながら、皆ではしゃいだ。
「暑い!ちょっと外行ってくる」
丈瑠は席を立って、店の外へ出るとポケットからタバコを一本取り出し、ゆっくりと吸い込む。
「珍しいじゃん、タバコ」
美代が酔って赤くなった顔を押さえながら、丈瑠の隣に座った。
「そういう気分なんだよ」
「寂しいんでしょ?」
美代が丈瑠を見上げて笑うと、丈瑠は力なく笑う。
「今までみたいに側に居てやれねぇからさ、秋の事頼むな」
丈瑠が真剣な顔を美代に向けると、美代も真顔で頷く。
「任された。秋が大事なのはあんただけじゃないから、安心して」
美代の力強い言葉に、丈瑠は吸い込んだ煙を吐き出して真っ直ぐに前を見詰めた。
(夏目なら大丈夫だ・・きっと秋を守ってくれる)
そう分かっているのに、丈瑠の胸の不安は消えない。
「もう一緒に住めばいいのに」
「ん・・そうしたい所だけどな」
「・・秋が怖がるから?」
美代が小さく零した言葉に、丈瑠は美代に視線を投げた。
「聞いた?」
「うん・・秋もそうなれなかった自分に落ち込んでた」
「・・そっか」
丈瑠が灰皿で火を消すと、美代がニヤリと笑う。
「流石の月島でもそんな時あるのね」
「何だそりゃ」
「私さ、学生時代のあんたをよく知ってるだけに、正直あんたが秋をあんなに大事にしてんのが意外だったんだよね」
「そうか?」
「うん・・あんたが女に優しくしてる所なんて見た事ないもん」
「ん~??」
その自覚がない丈瑠が首を捻ると、美代が笑う。
「ましてや、あんなに独占欲丸出しの月島なんて見た事もないんだけど」
美代がそう言うと、丈瑠は気まずそうに頭をかいた。
「仕方ねぇじゃん、ムカつくもんはムカつくんだよ」
丈瑠が開き直った様に言う言葉に、美代は吹き出して笑う。
「やっぱ、秋は偉大だわ・・あっはっは!」
丈瑠は腹を抱えて笑う美代を横目で睨むと
「チッ!笑ってろ!」
と、言って店の中へ戻った。




