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君に紡ぐ言葉  作者:
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第一章 ~藤~ 出会い

それは藤にとって、いつもと何ら変わらない放課後の事だった。4年生から始まる部活動に、藤と近所に住む幼馴染の卓人は揃って陸上部を選んだ。

まだ始まってから2ヶ月しか経っていないせいか、部活を終えるといつも足が重く感じる。この日も気だるくなった足で、卓人と家へ帰る途中だった。

正門を抜け、学校を囲むフェンス沿いに進んで行くと、フェンスが途切れた所に体育館がある。体育館の入口には、もう一人の幼馴染でいつも藤や卓人と一緒にいる義和が立っていた。

「藤~!卓~!」

藤達を見掛けると、義和は笑顔で手を振った。いつもならここで、

「またな~!」

と、手を振り返し帰って行くのだが、今日は今3人が夢中になっているゲームの攻略法を義和に教わりたくて、2人は入口に居る義和に近寄った。

義和は地元の少年バレー団に入っていて、週に5回この体育館でバレーをしている。週に5回も18時から21時までのハードな練習をしているにも関わらず、義和は藤や卓人よりもゲームの進みが早い。藤がやっとの思いで1つの場面をクリアした頃には、義和は3つ位先に進んでいるのだ。藤や卓人はそれをいつも不思議に思っていたが、義和は色々な攻略法も感心する程知っていたので、2人には良き師匠だった。

「あのゲームさ、クリア出来ない所あるんだよ。どうやってやればいいのか教えて」

藤が言うと、義和は体育館の前にある駐車場に目をやって、

「まだ月島来ないから、入って来いよ」

そう言って2人に手招きすると、体育館の中へ入って行く。

(月島?)

それが誰の事なのか分からなかったが、2人は義和の後を追って体育館の中へ入った。

壇上の前には二本の支柱に支えられた白いネットが掛かっていて、上級生達がその回りで黄色と青のラインが入ったバレーボールで遊んでいる。いつもの体育館なのに、違う所へ来た様な感じがして、2人は隅の方をコッソリと歩いた。義和が壇上の上へ腰掛けたので、藤と卓人も同じ様に腰掛け、投げ出した足を揺らした。

「クリア出来ないのってどこ?」

「ベータが出て来る所。あのボスってどうやって倒したらいいの?」

「あれは普通の攻撃じゃ効かないんだ。火の玉吐くだろ?あの後、少しの間だけバリアが消えるから・・・」

義和が丁寧に説明してくれるのを2人で真剣に聞いている内に、体育館で遊んでいた上級生が、

「こんばんは!」

と、大きな声で挨拶をし出した。余りにも大きな声で挨拶をするので、藤と卓人は何事かと辺りを見渡す。

「やべっ!月島だ!」

義和がそう言って慌てて壇上から飛び降りると、藤は入口からゆっくり男の人が歩いて来るのに気が付いた。

白いジャージに濃紺のTシャツ。遠目からでも分かる背丈の高さは、近付くにつれ巨人の様に見えた。鋭い目が上級生達を見回して、少しだけ頷く様に頭を下げる男を、藤はジッと見つめる。格好良い顔をしているのに、よく焼けた浅黒い肌、ガッシリとした体格が威圧感を出していて、藤はその男を怖いと思った。義和が ’月島’ と呼んだその人は、藤達が居る壇上まで来ると、見慣れない顔の2人に目を向け、藤は月島の目元にある小さな傷を見つけて益々怖さを感じた。

「こんばんは・・・」

ぎこちなく藤と卓人が頭を下げると、月島は怖い顔をクシャと崩して笑顔を見せる。

「おう、こんばんは。義和、友達か?」

「近所の幼馴染!・・・です」

義和はいつもの調子で答えて、アッと思ったのか敬語を付け足した。

「ふ~ん、4年生か。入るか、バレー?」

バレーをやりに来たと思われて、藤は首を大きく横に振る。

運動は嫌いじゃないが、バレーをやった事もない藤は、月島の言葉に尻込みしてしまったのだ。

「少しやってみる?」

義和は2人を見ながらそう言ってニヤリと笑う。

「うん、やる!」

乗り気な卓人の言葉に、藤はギョッとして卓人を見た。卓人はスポーツなら何でも出来た。走れば誰よりも早いし、ボール投げも4年生の中で一番だ。藤はこの時、卓人は義和が出来るなら自分も出来るに違いないと思ったのだと思った。

「卓ちゃん、帰ろうよ?遅くなるとお母さんに怒られるよ」

藤は体育館の時計に目をやりながら言ったが、既にやる気になっている卓人は、壇上を飛び降りて義和の隣に並んでいる。

「ハハ、遅くなるといけないから少しだけな。面白いと思ったらまた来ればいいから」

月島がそう言って笑う。月島の笑顔は一見した雰囲気を大きく変える程人懐こくて、藤は乗り気な訳ではなかったが、先程よりも月島が怖い人ではなくなっていた。


月島は壇上の近くに置いてあるカゴからボールを1つ取ると、藤達を体育館の隅に立たせた。月島を前にして、左から藤、真ん中に卓人、右に義和の順で並ぶと、

「まずは俺が投げたボールを腕で返してみな。義和、いいお手本見せろよ?」

月島はニヤリと笑って、義和にボールを放った。義和は膝を落とし両腕を真っ直ぐに伸ばすと、放られたボールが腕の内側中央に来る様に合わせながらボールを当てた。ボールは義和の腕から月島の少し右寄りに飛び、月島が長い腕を伸ばしてそれを受け止める。

「お前、ちゃんと俺の所に返せよ」

月島はそう言って笑ったが、藤は綺麗な姿勢でボールを返した義和が格好良く見えた。

「次、お前な」

月島が卓人に声を掛け、先程と同じ様にボールを放る。ボールは義和を真似て形を作っていた卓人の腕の中で向きを変え、明後日の方へと飛んで行った。いつも徒競走で卓人に勝てない義和がそれを面白そうに笑うと、

「出来なくて当たり前なんだからな。やった事ないんだろ?」

月島が義和をジロリと睨み、卓人に声を掛けた。藤は次が自分の番だと思うと緊張して来た。

(卓ちゃんだって出来ないのに・・・)

心の準備も整わない内に、

「次、行くぞ?」

と、月島の声がしてボールが飛んで来たので、藤は慌てて義和の形を真似て腕を伸ばす。腕にボールが当たった瞬間、藤の胸に懐かしい既視感が広がった。

(俺、この感じ知ってる?)

ボールは弧を描き、月島の手元へと戻った。余りにも綺麗に返ったので、義和も卓人も驚いた様に藤を見る。だが、一番驚いたのは藤だ。一度もやった事のないバレー。なのに、体はその感覚を知っている。

「お前、名前は?」

月島の声に、藤はハッとして月島を見た。

「乾・・・藤です・・」

「バレーやった事あるのか?」

「ないです」

藤が即答すると、月島は面白いものを見つけた子供の様にニヤリと笑う。

「藤、今度は少し強めにいくぞ?」

月島はそう言うと、右手で軽めに打ち込んで来た。腕に当たるジンとした痛みと、自分の体なのに自分の体ではない様な感覚に藤は戸惑ったが、それでも胸に広がる熱くなる懐かしさ。藤の受けたボールがまた綺麗に月島に返ると、月島も嬉しそうに笑った。

「今度はどうかな?」

月島が強めに打ち込んだボールに、義和の

「無理だ!」

と、いう声を共に、藤はボールの強い勢いを腕と膝で吸収するとまた綺麗に月島にボールを返した。

(俺、知ってる・・この感じ・・・)

どう動けばいいのか自分でも分かる。一度目は ’あれ?知ってる感じ?’ と疑問形だったが、今は確かな感覚があった。

「藤、すげぇ!」

義和と卓人が横から興奮して藤に声を掛けたが、自分でも何が何だか分からない感覚に藤はどう反応していいのか分からなかった。

「おーい、栄!」

月島が上級生の方を向いて大きな声で呼ぶと、栄という6年生が急いで走って来る。

「ちょっとこの2人見てやって」

月島は義和と卓人をその6年生に任せると、藤を手招きして2人から離れた所へ連れて行った。

「家の人の誰かがバレーやってた?」

「やってない・・・です。お母さんがビデオを観る事はあるけど・・やってはないと思います」

藤は正直に答えた。体は確かにボールの感覚も感触も知っているが、母がバレーを教えてくれた事はない。

「お父さんは?」

「お父さんは居ません」

藤の言葉に、月島が少し ’しまった’ という顔を見せた。

物心ついた時には ’父親’ という存在は既に居なかったし、母と2人の生活で寂しいと感じた事もなかった藤は、月島の質問にも特段何かを感じる事はなかったが、このいけない事を聞いたという空気はあまり好きではなかった。

「ちょっと、これやってみて」

月島はネットの張ってある所へ藤を連れて行くと、ネットから少し離れてアタックの仕方を自分でやってみせる。

「1で1歩目、2で2歩目、ここでもう手を後ろにやって溜める、3で3歩目、手を振り上げるイメージで跳ぶ」

藤は月島の真似をしながら、助走のステップを踏む。

「よし、出来なくてもいいからやってみな」

月島に促され、藤はネットから少し離れて教わった通りに助走に入った。

突如、藤の脳裏に浮かぶ男の人の後ろ姿。

まるですぐ近くに居るかの様なリアルな現象に驚いて藤は助走の足を止めた。急に足を止めた藤を、月島も不思議そうに見ていたが、藤は深呼吸するともう一度ネットから離れて助走に入る。

1・2・・・アタックのステップを踏む前に見える誰かの姿を追う様に藤はその人と同じ動きでネット近くを跳んだ。

「・・・・・・・」

月島が何も言わないので、藤は自分が全然ダメだったのか、上手く出来たのか分からなくて月島の言葉をジッと待つ。

「藤・・・藤崎藤・・・か?」

月島から出た言葉に、藤の心臓がドクンと大きく跳ねた。

月島が藤を見つめたまま何かを言いかけると、藤はそれを聞くのを拒むかの様に怯えた顔を見せ、

「俺、もう帰らないと!」

と言って、壇上の上にあるランドセルを手に取ると、全速力で体育館から出て行った。

「藤!」

後ろから月島の呼ぶ声が聞こえたが、藤はその足を止めようとはしなかった。

(どうしよう、お母さんに怒られる!俺、やっちゃいけない事やっちゃった)

藤は何度も転びそうになりながら、家までの道をひらすら走った。


家が見える所まで来ると、藤は安心したのと同時に足が重くなるのを感じる。

今日あった事を母である秋に話さなければならない。

藤は秋がどんな反応をみせるのかが怖くて、わざと時間を掛けてゆっくりと歩いた。玄関の前まで来ると、いつもの玄関の扉がとても大きな物に感じて、藤は扉に掛けた手を一度下ろすと深呼吸をした。扉に手を掛け思い切って開けると、フワッとカレーのいい匂いが鼻先を掠める。大好きなカレーだったが、今日ばかりは心が踊らなかった。

「・・・ただいま」

出来る事なら気付いて欲しくなくて、藤は消え入りそうな小さな声を出す。

「おかえり~」

小さな声なのに秋が返事を返したので、藤は諦めた様にノロノロと歩きながらキッチンに入った。キッチンに入って来た藤の顔を見ると、秋は鍋を掻き混ぜていた手を止め、藤に笑い掛ける。

「どうした?卓ちゃんと喧嘩でもした?」

秋の笑顔と優しい声に、藤は黙って首を振った。

「ごめんなさい・・・」

「あらあら、どうした?」

藤の深刻そうな顔に、秋は藤を抱き寄せ小さな背中を撫でる。

「俺、今日やっちゃいけない事した・・・」

「やっちゃいけない事って?」

「バレーボールやったら、先生みたいな人が・・俺の事 ’藤崎’ って呼んだ」

秋の背中を撫でていた手が止まると、藤は体を固くして目をギュッと閉じた。

(怒られる!)

’お父さんの名前を人に教えてはいけない’

これは藤が今よりももっと小さい時から、繰り返し秋から言われていた事だ。理由は藤にも分からない。聞いても秋は何も答えてくれなかったが、母の泣き出しそうな、寂しそうな顔に、藤は幼いながらも’聞いてはいけない事なんだ’ と思っていた。

藤崎 雪

父の名前だ。

藤が知っている父は、この名前だけだった。写真も、ビデオも、父に関する物は一切残されて居なかったので、藤は父の顔すら知らない。

父の事を知りたい気持ちがない訳ではないが既に居ない人の事を聞いても生活が変わる訳でもなく、むしろ母の悲しそうな顔を見る方が嫌だったので、これまでの藤にとって父は薄い存在だった。

「藤?」

怒られると思っていた藤を秋は優しく呼ぶ。秋は藤の体を離すと、両肩に手を置いて藤の顔を覗き込んだ。

「藤はお母さんとの約束を守ろうとしてくれたんだねぇ」

秋の言葉に、藤が目を開けて秋を見ると、秋がいつもと変わらない優しい顔で笑ったので、藤は大きく頷いた。

「何があったのか詳しく話してくれる?」

藤は今日の出来事の一部始終をなるべく詳しく話して聞かせる。藤から全て聞き終わると、秋は涙ぐみながら飛び切りの笑顔を見せた。

「藤はすごいね!お父さんが藤にバレーを教えたのって、藤が赤ちゃんの時から3才までしかなかったんだよ?藤、覚えてたんだねぇ!」

秋が嬉しさを隠さずに藤の頭を撫でると、藤はパッと顔を輝かせた。

「お父さん、バレーやってたの!?」

今まで知らなかった父の片鱗に、藤は興奮する。あの残像、頭に浮かぶ男の人が父だと分かると、胸一杯に嬉しい気持ちが溢れた。

「うん。お父さんね、バレーがとっても上手だったの」

「そうだったんだ・・お父さんだったんだ」

写真も見た事のない父が、自分の記憶の中にいた事が嬉しくて、藤は目を瞑ってその姿を思い返す。

「ね、藤・・・」

秋がもう一度藤の両肩に手を置いた。

「その・・コーチ・・その人、確かに ’藤崎’ って言ったんだよね?」

「うん・・ごめんなさい・・お父さんの名前は絶対に教えちゃダメって約束したのに・・・」

藤が申し訳なさそうに言うと、秋がフフッと笑う。

「藤はちゃんと約束守ってくれたよ?藤が教えた訳じゃないでしょ?」

秋の優しい言葉とその笑顔に、藤は心底ホッとした。

「よし!お腹すいたね!ご飯にしようか?」

秋が膝をポンっと叩いて立ち上がると、安心したからか藤のお腹がグーっと音を鳴らし、藤と秋は顔を見合わせて笑った。


藤と秋が夕食を終えた丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。

「は~い」

秋が玄関に行くのを横目で見ながら、藤は冷蔵庫の中を物色する。

「藤~!お前、手提げ忘れてったぞ~!」

玄関から聞こえる卓人の声に、藤は卓人を置いて帰った事を思い出し、慌てて玄関へ向かった。

玄関には藤の手提げを持った卓人と、その横に月島が並んで立っていた。

(月島さん??何で?)

いきなりの月島の訪問は、藤の不安を膨らませる。藤は秋を見た。秋は玄関に届きそうな月島を驚いた様にジッと見詰めてはいたが、藤が心配した程怖がっている様子ではなかったので、藤は少しホッとする。家に大人の男の人が居ないせいなのか、秋が家でばかり仕事をしているせいなのか、秋は男の人を怖がって極力近寄らない。

「ほら、藤はおっちょこちょいだなぁ」

卓人は置いて行かれた事などまるで気にする様子もなく、藤に手提げを渡した。

「ありがと」

それを受け取ると、卓人は月島を見上げる。

「月島さん、俺もう帰っていい?」

「おう、案内してくれてありがとな。またバレーやりに来いよ」

卓人は嬉しそうに月島に頷いて見せると、手を振りながら帰って行った。卓人の姿が見えなくなるまで見送ると、月島は大きな体を秋と藤に向ける。

「突然押しかけてすみません。少年バレーを教えています月島と申します」

月島が丁寧に頭を下げ、顔を上げて秋を見た。

(月島さん、怖い顔してるからなぁ・・お母さん大丈夫かな?)

藤は秋が心配で仕方なかった。

「・・今日は藤がお世話になったそうで・・ありがとうございました」

秋はニッコリ笑って頭を下げたが、藤は秋がこんな顔で笑う時、本当に笑っている訳じゃない事を知っている。

「少し話せますか?」

月島の言葉に藤は困った。まさか

’お母さんが怖がっているので帰って下さい’

とも言えず、秋を気にしながら様子を見る。秋は男の人を絶対に家へ入れない。町内の人や、藤の担任ですら

「玄関先でよろしいですか?」

と言って、決して家へ上がらせる事はなかった。藤は月島も同じ事を言われるのだろうと思っていたが、

「ええ、どうぞ」

と、秋がそう言って月島にスリッパを差し出したので藤は心底驚いた。藤が秋と月島を交互に見ると、スリッパに足を通す月島と目が合って、月島はとても優しい瞳で藤に笑い掛ける。それに気付いた秋が

「藤、お母さん月島さんとお話があるから、お部屋に行っててくれる?」

と、二階の部屋を指差した。月島が来たのは恐らく自分の事なのに、何故仲間外れにされるのか、藤には理解出来なくて内心ムッとした。だが、秋が寂しそうに笑ったので、藤は渋々部屋の方へ向かう。2人がリビングへ入ってその扉が閉まると、藤は部屋へ行く為に昇った階段をソっと降り、リビングに近い一番下の段に座った。2人が話している声がボソボソと聞こえては来るが何を話しているのかまでは聞こえない事が藤にはもどかしかった。

(絶対俺の事なのに・・・)

しばらくはそうして中の様子を伺っていたが、2人の話が中々終わりそうにないので、藤は段々と退屈になって来た。

(部屋行こう・・)

藤は宿題を済ませると、今日義和に教わった攻略法でゲームに熱中する。そうなると、下で秋と月島が話している事などすっかり忘れてしまっていた。やっとの思いでクリアの画面を見ると、藤はベットの上で飛び上がって喜ぶ。それと同時に、下から秋の呼ぶ声が聞こえ藤はようやく月島が来ている事を思い出した。

リビングに入ると、藤は月島の正面に座りその隣に秋が座る。

「藤、月島さんがね一緒にバレーをやらないかって」

藤が驚いて月島を見ると、月島は少し微笑んで頷く。

「俺、今日ちょっとやってみただけだよ?」

「うん、そうだな。でも初めての子とは思えなかったよ。すごく上手だった。面白いって思ったらでいいんだ、一緒にやってみないか?」

月島の誘いは、自分を認めて貰えたみたいですごく嬉しかった。父がやっていたバレーボールを自分もやってみたい。何よりも、記憶の中にある父にもう一度会いたかった。藤が秋に視線を送ると、秋は優しく笑う。

「藤に任せるよ?」

「やっても・・・いいの?」

藤は秋に伺う様に尋ねた。それは今日の事が引っかかっていたからだ。秋はそんな藤に気付いたのか’あぁ’ という顔をして

「藤、大丈夫だよ」

そう言って笑顔を見せた。秋のこうした言葉もなく藤の気持ちに気付く時、藤は本気で母には超能力があるんじゃないかと思う。

「俺、バレーやりたい」

藤がそう言うと、秋はゆっくりと頷いた。

「月島さん、これから宜しくお願いします」

秋がそう言って月島に深々と頭を下げると月島は嬉しそうに笑って、そして力強く頷いた。



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