風が告げるもの
焔の匂いがまだ残る戦場を、乾いた風が渡っていった。
焦げた木材のきしむ音、砕けた兜が転がる音。生温い血潮の鉄の香りが、兵たちの鼻をついた。
その中にあって、レインズは剣を鞘に収め、しばし目を閉じた。
「まだ……終わっていない」
彼の耳には、戦いに倒れた者たちの呻き声と、遠くから運ばれる子供の泣き声が重なり、胸を締めつけるようだった。
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ティクは、瓦礫の隙間に倒れた兵を助け起こしながら、震える手で水袋を差し出した。
「飲め、まだ生きている……!」
唇に触れる冷たい水。喉を通るたび、兵の眼がわずかに光を取り戻す。
その瞬間、ティクの心臓は跳ね上がった。死と生の境目に立ち会う、その緊張と安堵が、身体を熱くさせる。
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やがて、夕暮れの空が紫に染まりはじめた。
その時、ドレクが空を仰ぎ、声を上げた。
「見ろ――鳥だ」
羽ばたきの群れが、戦火の煙を突き抜けて舞い上がる。
灰と血の匂いに満ちた大地の上で、その白い翼は異様なほど鮮やかに映えた。
レインズはその光景を見て、胸に炎のような決意を覚えた。
「この地に、必ず新しい旗を立てる。誰もが笑える国を――」
兵たちの耳に、その声はただの誓いではなく、風に乗る未来の宣言のように響いた。
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そして夜。
焚き火のまわりに集う仲間たちの顔は、煤に汚れていながらも、確かに希望に照らされていた。
焦げた肉の香り、ぱちぱちと弾ける火の粉。
静かに頬を撫でる夜風の冷たさが、逆に彼らの生を際立たせていた。
「明日からは俺たちの戦いだ」
誰かがそう呟いた時、皆の胸に熱が灯った。
オルディア建国の物語は、まだ始まりにすぎない。
しかし、確かにあの風が告げていた――。
未来は、彼らの手に委ねられたのだと。