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農家の娘、異世界で国家改革始めます ―糸で国を変えた少女―  作者: ふくまる
第2章 - 絹の女神 -

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第十五話 再会と新たなプロジェクト


「素晴らしい成果ですね」


魔導士長が満足そうに実験記録を眺めている。


あの誕生日から四ヶ月。私の個別指導は着々と成果を上げていた。


「特別な木の特殊性にリィナ嬢の魔力が密接に関係していること、その葉を食べて育った蚕の吐く糸とリィナ嬢の魔力は極めて高い親和性を持ち、魔法の付与が可能であることが科学的に証明されました」


机の上には、この数ヶ月間の実験データがきちんと整理されて置かれている。


「先生、親和性が高いのは私の魔力だけなのでしょうか?」

「その点については、現在内々に検証を進めていますが、今の所の報告では、製品化されたもの、つまりリィナシルク製品であれば、他者の魔力でも付与が可能のようです」

「本当ですか!?「つまり、リィナシルクは魔力媒体としても商品化できるってことですか!?」

「はは、マーヴェル嬢、商人みたいな顔つきになっていますよ」

「あ…失礼しました」

「ですが、魔力媒体としても機能するというのは正解です。ただし...」

「ただし?」

「私も含め、今のところ実証実験に参加した者の付与効果は、あなたほどの持続力はありませんでした」

「そうなんですか」

「現在は、魔石などの媒体と比べて、どの程度の持続力が見込めるのかを検証しています」

「そうなんですね!そのデータが揃ったら、是非私にも見せて下さい」

「いいでしょう。ただし...」


魔導士長の表情が急に厳しくなった。


「この研究結果は、国家機密として厳重に秘匿する必要がありますので、口外はしないで下さい」

「国家機密?」

「はい。仮に、現在流通している魔石と同様の持続時間が見込めるとなれば、半世紀以上見つからなかった新たな魔力媒体が発見されたということになります。しかも、安価で生産可能な…です。この意味がわかりますか?」

「…いえ」

「もしこの情報が諸外国や敵対勢力に知られれば、マーヴェル嬢の価値がさらに高まり、より危険な状況に陥る可能性があります。そしてそれは、あなたのご実家、マーヴェル村のシルク産業にも言えることです」

「え?家族やみんなにも……ですか?」

「蚕の飼育条件や生産のノウハウをご存知なんですよね?」

「あ!」

「そう言うことです」


そういえば、あの襲撃事件以来、隣国の動向はどうなっているのだろう。


「分かりました。私も気をつけます」


「そんなに暗い顔をしないで下さい。そうそう、一つ良い知らせがあります」

魔導士長が微笑む。


「八月から学院に復学できることになりました」


「本当ですか!?」

思わず声を上げてしまった。


「ただし、警備体制は大幅に強化されますがね。マーヴェル嬢も、必ず誰かと行動するなど、自身で十分気をつけるんですよ」


「はい!」


ルークやエレナに会える。それだけで十分だった。


---


八月の復学試験は、個別指導の甲斐もあって余裕で合格した。成績も一年生でトップだった。


「リィナ!」

久しぶりに学院の門をくぐると、エレナが駆け寄ってきた。


「エレナ!」

「会いたかった!元気だった?」

「うん!エレナも元気そうで良かった」


「リィナ!おかえりなさい!」

ルークも嬉しそうに挨拶してくれる。


「ルーク!あの時はありがとう。もう大丈夫?」

「はい、おかげさまで。それより、リィナは成績がトップだったそうだね。すごいな!」


「個別指導してもらったからよ。みんなはどうだった?」

「僕らは普通だったよ。でも、頑張りました」


久しぶりの友達との会話は楽しかった。


「あ...」


その時、廊下の向こうからセシリアが歩いてきた。


「マーヴェル...さん」以前なら嫌味を言われるところだが、今日の彼女はどこか様子が違った。



「セシリア嬢、お久しぶりです」

「...お元気そうで、何よりです」


そう言って、彼女は静かに通り過ぎていった。


「あれ?セシリア嬢の様子が変だったね」

エレナが首をかしげる。


「そうですね。前とは全然違いました」

ルークも同感のようだった。


確かに、以前の高慢な態度は影を潜めていた。何かあったのだろうか。


「それより、見て」

エレナが学院の入り口を指差す。


「騎士さんたちがいる」


確かに、数名の騎士が学院内に配置されていた。


「リィナの警備のためよね」

「申し訳ないです...」

「何言ってるの!私たちも守ってもらえるんだから、嬉しいわ」


エレナの明るさに救われた。


---


九月に入って間もない頃、嬉しい知らせが届いた。


「商談のため、お父様たちが王都にいらっしゃるそうです」

アリスが報告してくれる。


「本当!?」

「はい。王宮にお招きすることになりました」


久しぶりに家族に会える。胸が躍った。



約束の日、王宮の応接室で、私は四ヶ月ぶりに家族と再会した。


「リィナ!」


「父さん、母さん!」

駆け寄ってきた父さんと母さんに抱きしめられる。


「大きくなったね」母さんが涙ぐんでいる。


「タク兄、ミナ姉ちゃん、グレン兄ちゃんも!」


「元気そうで良かった」

タクマ兄が優しく頭を撫でてくれる。


「王都での生活はどう?大変じゃない?」

ミナ姉ちゃんが心配そうに聞く。


「大丈夫!とても勉強になってるよ」


「リィナが頑張ってるのは、手紙を読んで知ってたけど、元気そうな顔を見ると安心するな」

グレン兄ちゃんが嬉しそうに言う。


みんなで他愛のない話をしながら、久しぶりの家族の時間を楽しんでいた。


その時、応接室の扉が開いた。


「失礼いたします」


入ってきたのは、学院長とフィールド教授、そして魔導士長だった。


「あ、先生方?」


「グレン君がいらしていると聞いて、ぜひお会いしたくて」

学院長が嬉しそうに言う。


「学院長...お久しぶりです」

グレン兄ちゃんが立ち上がって挨拶する。


「君の魔道具技術の評判は、王都でも高いよ」

「ありがとうございます」


「それで、実は相談があるのだが...」

フィールド教授が前に出る。


「魔道製糸機の開発プロジェクトを立ち上げたいと思っているんだ」


「製糸機?」

グレン兄ちゃんが興味深そうに聞く。


「君がマーヴェル嬢に送った報告書を読ませてもらったが、素晴らしいアイデアだった」

魔導士長が資料を取り出す。


「魔道具技術を組み合わせることで、さらに効率的な製糸が可能になるはずだ」


「なるほど。確かに...面白そうですね」

グレン兄ちゃんの目が輝き始めた。


「ぜひ協力してもらいたい。学院の休暇期間中、寮に滞在してプロジェクトに専念してもらえないだろうか」

学院長の提案に、グレン兄ちゃんは少し考えてから答えた。


「そうですね。魔道製糸機が実現できれば、マーヴェルのシルク産業に必ずプラスになる。そうすれば、今抱えてる問題にも対処できるかもしれない…か。セイランさん、いいですか?」


黙って話を聞いていた父さんが慌てて返事をする。

「いいんじゃないか。グレンの好きにしたらいい」


「ねえ、グレン兄ちゃん…今抱えてる問題って、何?」私はグレン兄ちゃんの顔を見上げながら尋ねた。

「ん?ああ、今度ゆっくり説明するよ。いいですよね、セイランさん?」

「そうだな。ちょっと込み入った話になるし、任せてもいいか?グレン、すまないな」

「いえ。そんな訳で、今度ラウレンツ様も交えて時間をもらえるか?その時話す」

「うん。わかった」



「それでは、十月から三ヶ月間よろしくお願いします」

学院長が正式に依頼した。


新たなプロジェクトの始まりだった。


---


その夜、家族との夕食の時間。


「グレン兄ちゃんが王都に残ってくれるなんて、嬉しいな」

「俺も楽しみだよ。またリィナと一緒に働けるなんて」


「でも、無理しちゃダメよ。ふたり揃ってすぐ無茶するんだから」

ミナ姉ちゃんが心配そうに言う。


「大丈夫。お互いに支え合うから」

私はグレン兄ちゃんと顔を見合わせて微笑んだ。


「リィナも、体に気をつけるのよ」

母さんがそっと私の手を取り、心配そうに言う。


「うん。気をつける。母さんたちもくれぐれも気をつけてね」


「俺たちはいつでもリィナの味方だからな」

父さんが優しくぽんぽんと頭を撫でてくれた。


久しぶりの家族との時間は、あっという間に過ぎていった。

明日からまた、それぞれの場所で頑張らなければならない。


でも、久しぶりに満たされた心の温かさが、エネルギーとなって身体中を駆け巡っているような気がしていた。

これからしばらくは、グレン兄ちゃんも一緒に戦ってくれる。

きっと素晴らしいものが作れるはず。


グレン兄ちゃんの言う「問題」が何かはまだ分からないし、私自身の危険も無くなった訳ではないけれど、一緒ならきっと解決策も見つかる気がした。


うん。私、今、無敵状態だ!


久しぶりに会った家族との楽しいひと時に、この時の私はすっかりはしゃいでいた。

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