第十二話 謎の攻撃者と緑の光
ついに待ちに待った特別実習の日。通常授業が終わると私たちは第三実習棟に向かった。
「今日からいよいよ特別実習ね」
エレナが楽しそうに呟く。
「うん。緊張するけど、楽しみ!」
私も期待に胸を膨らませていた。
第三実習棟は普段使われることの少ない建物で、高度な魔法実習専用の設備が整っている。広々とした実習室に入ると、既に数名の生徒が集まっていた。
「あら、平民の皆さんもいらしたのね」
セシリアが嫌味たっぷりに声をかけてくる。でも、もう慣れた。
「こんにちは、セシリア嬢」
私は丁寧に挨拶を返した。
「皆さん、お疲れさまです」
魔導士長が入室し、続いてフィールド教授とセラ先生も現れた。
「本日の特別実習を担当する魔導士長のアルベルト・グリムワルドです。この実習は優秀な希望者を対象に、各自の特殊な能力を更に伸ばすことを目的とします。不真面目な者、不適切な言動を行う者がいたら速やかに帰っていただきますので、そのつもりで」
魔導士長が黒板に実習内容を書き出す。
「本日は、高度な魔力制御訓練、個人の適性に応じた専門技術の習得、魔力の応用技術研究、そして各自の潜在能力の開発を行います」
「高度な魔法を扱いますので、安全には十分注意してください」
セラ先生が厳しい表情で付け加えた。
「僕はリィナの近くで実習を受けます」
ルークが手を挙げて申し出る。
「では、始めましょう」
最初は魔力制御訓練から始まった。
グレン兄ちゃんからもらった腕輪の効果で、私の魔力はとても安定している。複雑な魔力の操作も、他の生徒が苦戦する中、私は比較的スムーズにこなすことができた。
「素晴らしい。制御は問題なさそうですね。次は腕輪に頼らずに同じようにできるか、やってみてください」
生徒達の間を巡回指導するフィールド教授の指示で、腕輪を外してもう一度同じことをやってみる。
最初は苦労したけれど、徐々に魔力が安定してきたのが自分でもわかった。
「制御の感覚が掴めてきたようですね」
教授が満足したように頷いた。
「これが噂の魔道具ですか?少し拝見しても?」
魔導士長もやって来て、感心したように私の腕輪を見つめる。
「はい、どうぞ」
「なるほど。高品質な魔力媒体に精緻な付与。製作者は卒業生のフェルナー君だそうですね?」
「そうです。この髪飾りもフェルナーさんの作品で、物理防御と通信機能が付与されているそうです」
「二重付与か!素晴らしい!大切になさい」
「はい!」
続いて、各自の個別能力開発に移った。
私は付与魔法の持続時間を延長する技術に取り組み、ルークは武器への魔力付与技術、エレナは魔力探知技術の向上、セシリアは装飾魔法の精密化を学んでいた。
「マーヴェル嬢の付与魔法は非常に安定していますね。持続時間も通常の倍以上です」
魔導士長が私の成果を褒めてくれる。
「このまま精進してください」
と言い残し、次の生徒へと向かったその瞬間。
「あっ、すみません!」
私の近くで魔法器具が転がった。
私は慌てて付与を中断し、転がってきた器具に手を伸ばす。
「きゃ!制御が...!」
別の上級生が魔力を暴走させた。
騒然とする実験室。
「皆さん、落ち着いて!」
セラ先生がすぐに異常に気づき、手に持った魔道具で暴走した魔力を制御した。
「実習を続けます。皆さん、注意深く行ってください」
魔導士長が冷静に指示を出すが、実習室内のざわつきはなかなか治まらない。
と、突然、背後で窓がガラリと音を立てて開き、複数の黒い影が素早く侵入した。顔は布で覆われ、正体は分からない。
「何者だ!」
部屋の隅で控えていた騎士たちが抜刀して立ち向かう。
セラ先生も同じように抜刀して私を守る位置に移動しようとするが、魔力暴走の対処をしていたため、初動が遅れる。
その隙を狙うかのように、侵入者は素早く手を振りかざし、炎のような、しかし見たことのない不可解なエネルギーを私に向けて放った。それは魔法器具を使わない、未知の攻撃だった。
「リィナ、下がって!」
ルークが私の前で剣を構える。
グレン兄ちゃんの髪飾りが青白く光り、透明な障壁が現れる。でも、その謎の攻撃は物理的な防御では完全に防げなかった。
エネルギーが障壁を貫通して私に向かってくる。
「うっ!」
ルークが咄嗟に私の前に立ちはだかり、謎の攻撃を直接受けた。ルークの左腕に火傷のような深い傷ができ、大量の血が流れ出した。
「ルーク!」
私は慌てて駆け寄る。
侵入者は騎士たちの追撃を振り切って、素早く窓から逃走していった。
セラ先生は私たちの側に立ち、騎士たちへ追撃の指示を出しながら、周囲の警戒を続けている。
「誰か、医務室へ行って先生を呼んできなさい」
教授が素早く上級生に指示を飛ばす。
魔導士長もルークの側まで来て、覗き込むようにして様子を伺う。
「こんなに血が流れてたらルークが死んじゃう!」
ルークの顔が青ざめ、傷からは止まることなく血が流れている。激痛で意識も朦朧としているようだった。
私は慌ててポケットからハンカチを取り出し、傷口を強く押さえた。
「お願い!止まって!!ルークを助けて!!」
その瞬間、ハンカチが淡い緑色に光った。
ルークの傷から流れる血が瞬時に止まり、見る見るうちに傷口が塞がっていく。
「え...?」
ルークの顔色が回復し、深い傷跡もほとんど残らなくなった。
「これは...治癒魔法?しかし直接付与は不可能なはず...」
魔導士長が驚愕の表情で見つめている。
「しかも、治癒魔法を扱える者は千人に一人もいないはず、マーヴェル嬢は治癒魔法の適性もあるのか……」
背後では、セラ先生が現場を詳しく調査していた。
「この攻撃方法は聞いたことがない...通常の魔法とは明らかに異なる」
床には見慣れない焦げ跡が残されていた。
「我が国の技術ではない...?」
セラ先生が考え込むような表情でじっとその跡を見ていた。
一方、教室の片隅では、一連の様子を見ていたセシリアが激しく動揺していた。
「一体何が起こったの?こんなことになるなんて、私は聞いてないわ...」
自分たちの妨害工作が思わぬ事態を招いたことに気づいているようだった。
「大丈夫?ルーク」
「ええ、おかげさまで。リィナが僕を救ってくれました」
ルークが私を見つめる目には、深い感謝の気持ちが込められていた。
「リィナはケガをしていませんか?」
「私も、ルークが庇ってくれたから大丈夫だよ...ありがとう」
医師が到着し、ルークのケガが治っていることに驚いた様子だったが、念の為ということで医務室に連れて行くことになった。
私はその背中を見送りながら考えていた。
あの攻撃は一体何だったのだろう。そして、私が無意識に使った魔法も。
「今日の実習は中断します。各自事情聴取をしますので、騎士の指示に従って別室に移動してください」
魔導士長が真剣な表情で指示を出す。
「リィナ嬢は私と共に学院長室へ行きましょう」
セラ先生が厳しい表情で促す。
「肝心な時にお守りできず、申し訳ありませんでした」
廊下に出ると、セラ先生は突然頭を下げた。
「え?やめてください、先生!先生はちゃんと守ってくれたじゃないですか」
「いえ、肝心な時にお側を離れてしまい、結果ルーク殿にケガを負わせてしまいました。護衛騎士として失格です」
「何を言ってるんですか!先生は間違ったことは一つもしていません!ルークも無事でしたし!」
「ですが…」
「そこまでにしなさい」
言い合っているうちに院長室の扉の前に着いた。中から扉が開いて、学院長が立っていた。
「お疲れのところ申し訳ありませんが、王宮へ移動します。今、侍女にもこちらに来るよう指示を出していますので、到着次第向かいましょう。陛下がお待ちです」
召喚命令だった。
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