表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/86

第十八話 観察記録と村の未来計画

裏庭の桑畑では、若葉が風に揺れていた。


「おはよう!」

ミナ姉ちゃんとメイナ姉ちゃん、それにグレン兄ちゃんが蚕棚の前に集まっている。


「支援隊、集合!」

タク兄の掛け声で、下の子組がわらわらと集まってきた。

 

「昨日から書き始めた記録帳、今日はミナがまとめてくれるって」

メイナ姉ちゃんが嬉しそうに言った。

「ええ!グレン兄ちゃんが作ってくれた《観察帳》で、今日も絵と印を付けるよ」

 

支援隊の前に置かれた帳面は、粗い手漉き紙を木の表紙で綴じたもの。

パスカさんが「市場向けの品質記録に必要だ」と都市から持ち込んでくれた特別な帳簿だ。


「グレン兄ちゃん、文字も絵も教えてくれてありがとう!」

ミナ姉ちゃんがぺこりと頭を下げる。


「いいって。俺も木工の修行で図面を描くし、読み書きは大事だからな。

でも、今回教えたのは基本的なものだけだから、これからも勉強は続けてくれよ」

「うん、わかった!」

 

「それじゃ、今日の観察を始めよう!」

 

蚕棚の中では、小さな蚕たちが桑の葉をもりもり食べていた。


先日、脱皮不全で数匹失った。

みんな悲しんだ。

けれど、まだ生きてる子達はたくさんいる。

この子達のためにも、何が悪かったのか、どうすれば元気に育つのか、

きちんと記録をつけて改善していくことを、みんなで決めた。


ミナ姉ちゃんとメイナ姉ちゃんが蚕の様子を丁寧に記録していく。

 

「この子たち、よく食べてるわ」

「大きさも昨日よりずっと大きいね!」

「葉っぱの減り方も計っておこう。繭までどのくらい食べるか把握しないと」


ふたりが観察を進めている隣で、 グレン兄ちゃんも蚕棚の湿度と温度を確認する。

すると、何かに気づいたように、ふと思案顔で言った。


「そろそろ次の桑畑の計画を進めた方がいいな」

 

「え?」

ミナ姉ちゃんと私は顔を見合わせた。

 

「小屋横の畑は、もう桑でいっぱいだろ。パスカさんの話だと、秋市場に向けて、あと二倍は葉っぱが要るって」


ちょうど桑畑からやって来た父さんが続ける。


「ああ、そのことだが、ガイルとも相談してな。

村の共同畑か使われていない空き地に、新しい桑畑を作るつもりだ」

 

「わあ、第二圃場!」

 

「でも、村の土地のことは勝手に決められないよね」

ミナ姉ちゃんが心配そうに言う。


「ああ、その通りだ。

 実はさっき、ちょうど村長の爺さんところに行って話を通したところだ」

「え、もう!?」

「明日、寄合で正式に話し合うことになってる」

「さすが父さん!」

「仕事、早っ!」

 

「それに……」と父さんは桑畑の若木を見渡した。

「野生の山桑も、このままじゃ足りなくなる。

だから、支援隊の兄姉組と一緒に、第二回の山桑移植も進めないとな」

 

「第二回!?」

「そうだ。今回は遠征組が山から若木を掘ってくる計画だ」

「ライル兄たちが言ってたやつだね!」

 

タク兄が力強くうなずいた。

「もう打ち合わせ済みさ。兄姉組は遠征、下の子組は苗床と小屋周りの世話。支援隊、春の第二作戦開始だ!」

「「おー!!」」

子どもたちの元気な声が空に響いた。


 

***

 

夕方。支援隊の兄姉組は、山から若木を三本持ち帰った。


「今回は根がしっかりしてるやつを選んだぜ!」

ライル兄ちゃんが誇らしげに言う。


「いい木だ。これなら夏までに根付くだろう」

ガイルおじさんが頷いた。


「明日の寄合でOKが出たら、早速移植に取り掛かろう」

「「おー!」」 


「うまく根付くといいね」

 

私は桑苗の隣に立って、両手を合わせた。

(どうか、元気に育ってね。みんなの希望の木なんだから)


 

***


 

夜。

囲炉裏のそばで、父さんとガイルおじさんの低い話し声。


「セイラン、正式契約の秋市場まで、あと半年を切ったな」

「ああ。村の寄合にも話を通すんだ。もう後戻りできないとこまで来ちまった」

 

「不安か?」

「……正直、怖い。だが、それ以上に楽しみだ」

父さんは微笑んだ。


「俺たち大人が、未来を怖がってどうする。挑戦するのを、子どもたちにだけ任せちゃいけねえ」

「そうだな」


ガイルおじさんが酒の瓶を手に取った。

「よし、なら、祝杯といくか?」

「いいな!」

「乾杯!」

「新しい挑戦と村の未来に!」

 


***



眠りに落ちるわずかな瞬間、父さん達の笑い合う声が聞こえた気がした。


(私たちの挑戦は、もう始まってる)

(秋市場まで、がんばるんだ!)

そう、決意を新たにしたところで、もう1度眠りに落ちた。


夜空には、春の星がきらきらと光っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ