第十三話 量産への挑戦!繭と糸と、村の未来
「おはよう!」
今日も支援隊の子どもたちが元気に集まった。
作業台には、昨日まとめておいた繭の山が並んでいる。
最初の糸取りに成功。今日は糸の量産に挑戦だ。
「まずは、昨日と同じようにやってみよう」
リィナの指示で、ミナ姉ちゃんとメイナ姉ちゃんが繭を鍋に入れる。
タク兄とライル兄ちゃんが糸を探し、慎重に引き始めた。
「……ぷつん」
「また切れた!」
「もう一回!」
子どもたちは失敗してもめげない。
「慌てなくていいよ」
リィナが励ます。
「昨日と違うのは仲間がたくさんいるってこと。
うまくいかなくても、誰かが次で成功してくれる」
午前中は失敗と成功を繰り返しながら、
三本、四本と細い糸を引き出すことに成功した。
「だんだんコツがつかめてきた!」
タク兄が満面の笑みでガッツポーズ。
「でもさ、切れた糸ってどうするの?」
ミナ姉ちゃんがふとした様子で呟く。
メイナや他の子たちも「たしかに」と頷く。
私は笑って答えた。
「短い糸を集めて作った糸をつむぎ糸って言うんだって。
長い糸ほど立派じゃないけど、ちゃんと布に使えるらしいよ」
「おおー!」
子どもたちが目を輝かせた。
「失敗しても大丈夫だね!」
メイナが嬉しそうに言った。
「うん。だから失敗してもへっちゃら。ちゃんと使い道があるからね。
でも糸は大切なものだから、丁寧に扱ってね」
「わかった!」
みんながにっこり笑い合った。
***
午後。
「さて、午後からは撚り糸作りだよ!」
リィナの掛け声に、ミナとメイナが目を瞬かせた。
「撚るって?」
「引いた糸をねじって、強い一本の糸にするんだよ」
「道具は使うの?」
「ううん、今日は足に糸を結んで手で撚ってみよう。
どこかで、そんなやり方を聞いた気がするんだ」
(本当は前世の知識。でも、そんなこと言ったらみんなに不審がられちゃう)
子どもたちは興味津々で、リィナの足元に集まった。
細い糸の端を足の指に結び、もう一方を両手で持ってゆっくり撚っていく。
「見て、できた!」
見様見真似で先に始めていたミナ姉ちゃんが、完成した撚り糸を掲げた。
「さすが、ミナ姉ちゃん!」
「器用だもんね!」
子どもたちの歓声があがる。
***
夕方。
糸取りと撚り糸作りを終えた支援隊の子どもたちが並んだ。
「今日の成果!」
ミナ姉ちゃんとメイナが撚り糸の束を掲げる。
「すごい、こんなにたくさん!」
様子を見に来ていた母さんと父さんも、目を丸くした。
そのとき、表の通りから足音が聞こえた。
「リィナ、誰か来たよ」
ミナ姉ちゃんが裏庭に向かって声をかけた。
現れたのはガイルおじさん、グレン、そしてもうひとりの男性。
(あれ?どこかで見たような顔……)
男性の方がにこりと笑った。
「覚えてるかな?前に市場で、桑の葉と蚕の話をしたんだけど」
「……あ!市場で会った人!」
私は思い出した。
「そうそう、覚えててくれたか。俺はパスカ。カルスタのリヴェル織物商会で買付をしてる。
実はこの村の出身でな、年に何度か帰ってきてるんだ。
今日はガイルさんのとこに織機の部品を注文しに来たら、そこの坊やから面白い糸を作ってる子がいるって聞いてな。
ひょっとしてお嬢ちゃんのことかと思って、急で悪いが寄らせてもらった」
「糸……!」
リィナは少し緊張しながら、今日みんなで作った撚り糸の束を差し出した。
「ちょうど今日完成したんです!見てもらえますか?」
パスカはそれを受け取ると、指先でそっと撫でた。
「ふむ……」
しばらく黙って糸を見つめる。
(ど、どうかな……)
ドキドキしながら、リィナはパスカの顔を見上げた。
「これは、なかなか……」
パスカが口を開いたところで――。
「リィナ、もう夕ごはんの時間だよ。みんなも遅くなる前にそろそろ帰りなさい」
母さんの声がした。
(あっ、もうこんな時間!)
「お話の続きは、また明日でもいい?」
リィナが尋ねると、パスカは笑って頷いた。
「もちろん。お嬢ちゃんも疲れてるみたいだしな。
急に来て悪かったね。明日の朝また出直すよ」と帰っていった。
その夜。
母さんと父さんが囲炉裏端で話していた。
「今日ガイルさんと一緒に来た商人、いったい何の用だったのかしら?」
「明日の朝また出直してくるって言ってたな」
「リィナに何か話があるみたいだったけど、大丈夫かしら?」
「わからんが、ガイルの知り合いみたいだったしな。おかしな奴ではないだろうが…心配だし、俺も明日の朝立ち会うことにするか」
「そうしてくれる?子ども達だけじゃ心配だし、それに…」
「どうした?」
「最近、あの子……また急に大人びた気がして不安なのよ」
「ああ、そういえば、桑や蚕の知識も、まるで何年も経験した職人みたいだったな」
「このまま続けさせて大丈夫かしら?」
「……そう心配するな。リィナは、きっと未来の何かを見てるんだ。やりたいだけ、やらせてみよう」
父さんが優しく笑った。
***
ベッドの上。
ミナ姉ちゃんと2人、今日出来上がったばかりの糸束を見つめニヤニヤしていた。
「キレイな糸だねー」
「うん!これ本当に私たちが作ったんだよね?」
「本当だよ!」
「私たち、スゴイね!」
「うん!スゴイスゴイ」
「「ふふ」」
2人で糸束をぎゅっと握りしめ、そのまま眠りに落ちていった。