第十話 ミナ覚醒!?蚕嫌い克服と、初めての絹糸への挑戦
朝のマーヴェル村では、元気な子どもたちの声が響き渡っていた。
「うわー、また葉っぱがなくなってる!」
蚕棚の前でミナ姉ちゃんが声を上げた。
蚕たちは三齢幼虫に育ち、昨日よりさらに大きくなっている。
食べ終えた桑の葉の茎が残り、脱皮した皮が棚の隅に積もっていた。
「よし、集合!今日も葉っぱをいっぱい取りにいくぞ!」
タク兄の号令で子ども支援隊が集まった。
兄姉格のライル(12歳)、メイナ(10歳)を先頭に、下は5歳の子どもまで。
「南の山のふもとに行こう!」
グレン兄ちゃんも袋を担いでついていく。叔父さんとの約束で、午前中だけ手伝って、午後からは家の仕事に戻るらしい。少しでも手伝ってくれるのが嬉しい。いつもありがとう、グレン兄ちゃん。
「いってきま〜す!」
みんな元気に駆け出していった。
その背中を見送り、私はミナ姉ちゃんと一緒に養蚕小屋へ向かった。
「じゃあ、ミナ姉ちゃんは掃除と餌やりお願い!」
「う、うん……」
蚕が苦手だったミナ姉ちゃんは、緊張した顔で棚に手を伸ばす。
「……ひゃっ!」
「びっくりした?この子たち、体がひんやりしてるんだよ」
「寒がりなのかな……」
ミナ姉ちゃんは、震えながらも落ち葉と皮を取り除いた。
「ふにゃふにゃしてる。前より怖くないかも……」
「怖くない?」
「よく見たら、リィナが赤ちゃんだった頃の顔に似てる」
私は吹き出した。
「それ、褒めてる?」
「た、多分!」
おしゃべりをしながら二人で手分けして掃除を終える。新しい桑の葉を棚に並べると、蚕たちはさっそくむしゃむしゃと食べ始めた。
「一生懸命食べてるね、この子たち」
「うん。私たちと一緒に成長してるんだよ」
ミナ姉ちゃんが蚕に優しい目を向けた。
(ミナ姉ちゃん、少しずつ変わってきてる)
その成長が、何だかちょっぴり嬉しかった。
蚕たちのお世話がひと段落した頃、一足先に年少組を連れて戻ってきていた兄姉格のライル兄ちゃんとメイナ姉ちゃんが養蚕小屋に顔を出した。
ちょうどいいかと思って、三人にとある提案をすることにした。
「今日は繭の準備をしよう!」
「繭って?」ミナ姉ちゃんが首をかしげた。
「蚕が大きくなると、自分の体から糸を出してお家を作るの。それが繭」
「へえ……」
「繭を作る時に『繭枠』って道具があると、きれいな形になるんだ。枝を丸く曲げて輪にして、蚕が登れるようにするの」
私は地面に図を描いてみんなに説明した。
「へ〜ん、リィナは物知りだな。了解!俺、父さんの木工手伝ってるから得意だよ」
「私も手伝う!」とライル兄ちゃん、メイナ姉ちゃんがそれぞれ頷く。
「う……私も……」ミナ姉ちゃんがつぶやいた。
そこに、ちょうど戻ってきたグレン兄ちゃんが枝を拾ってサクサクっと試作品を作ってくれた。
「こうか?」
「うん、ばっちり!流石、グレン兄ちゃん!ありがとう」
「それじゃ、俺はここまで。午後は家の手伝いだからな」
グレンは笑って手を振り、颯爽と帰っていった。
(ガイルおじさんとの約束、ちゃんと守ってるんだな)
***
昼食後。
「リィナ、午後どうする?」
「……疲れた。ちょっと昼寝する」
体が重い。午前中がんばったせいで、3歳の体力はもう限界。
でも、その前に。
「ミナ姉ちゃん、一緒に繭枠を作ってみよう!」
「わ、私が?」
「うん。作り方覚えてみんなに教えて!」
震える手でミナ姉ちゃんは枝を取り、私と一緒に輪を作った。
そこに、ちょうどやってきたライルとメイナも参加する。
不格好だけど、ミナ姉ちゃん初の繭枠が完成。
「できた……!」
「すごい!」
私は思わず拍手した。
「これ、私の蚕用の繭枠!」
ミナ姉ちゃんは誇らしげに胸を張った。
私はそれを見届けると、瞼がどんどん重くなり、母さんの膝で目を閉じた。
「みんな、ありがとう……きっと素敵な繭になる」
「さあ、みんな!残りの繭枠作り始めるよ!」
ミナ姉ちゃんとメイナ姉ちゃんが班長役になり、昼食から戻ってきたみんなと一緒に作業を進めた。
タク兄とライルが枝を集め、下の子たちも手伝う。
リィナが寝てる間も、支援隊は立派に仕事を続けてくれていた。
そして、夕方。
「リィナ、おきて!」
ミナ姉ちゃんの声で目を覚ますと、完成した繭枠がずらり。
「私たちで、こんなに作ったんだよ!」
支援隊の子どもたちも笑顔で胸を張る。
「すごい……!」
一人では少ししかできないけれど、みんなでやるとあっという間!
目の前に広がる光景に、胸が熱くなった。