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第九話 桑の葉が足りない!?家族と「村の子どもたち」、大作戦

春の陽射しが強まってきた。


蚕たちは順調に育ち、脱皮も2回目に入った。

その成長ぶりは誇らしかったが……同時に問題も大きくなった。


「もう、桑の枝が……!」


小屋の隅で、山から取ってきた桑の葉を見つめる。

昨日までたっぷりあった枝葉が、今朝はもう半分に減っていた。


「こっちの棚も減ってる」

タク兄が疲れた顔で言う。


足元には、昨日収穫した桑の葉の残骸。


「また山に行かないと」


「俺も今日は手が空いてるから手伝う!」

快く申し出てくれるグレン兄ちゃん。本当に、いつも頼りになる……


だが、そのとき。


「グレン!」

鋭い声が響いた。


農具小屋の前に、グレンの父親――鍛冶と木工を兼業するガイルおじさんが立っていた。


「またこっちに入り浸って!」グレンが顔をこわばらせる。

「父さん……」


「いい加減にしろ。最近、家の手伝いもせずに毎日ここに来て。お陰でうちの仕事が遅れてるんだぞ!」


タク兄も思わず立ち上がる。

「すみません、俺たちが頼んで……」


「タクマは悪くない!」

グレンが遮った。


「全部俺が好きでやってる。責任は俺にある」


ガイルおじさんはため息をついた。

「それでも家の仕事を放り出す理由にはならん」


私は慌てて言った。

「ご、ごめんなさい!私が無理を言って……!」


でも、ガイルおじさんは私を見ると、ふっと目を細めた。


「おまえらだけが悪いわけじゃない。問題はな、こいつが家の仕事を放り出してるってことだ。

手が足りないなら、他所から借りればいいってのは間違ってない。」


「え?」

思わずタク兄と顔を見合わせた。


「村中がお前たちの虫騒ぎに気づいてる。迷惑だと思ってるやつもいれば、面白がってるやつもいる。

こいつにも家の仕事はあるから今まで通り貸してやることはできないが、どうせ騒ぎになってるんだ。どうせなら――」


「どうせなら?」


「村の子どもたちに手伝わせればいい。

あの桑の葉取りは虫取りと同じだろう?遊び半分でやらせれば、ちょうどいいんじゃないか?」


「……!」

私は膝を打った。

(それだ!)


***


その夜。

マーヴェル家の食卓で、家族会議が開かれた。


「村の子どもたちに手伝ってもらうって、父さんはどう思う?」


「ふむ……」

父さんが腕を組む。


「悪くはない。みんな虫取りや木登りは好きだしな。遊びがてら葉っぱ取ったり、虫を捕まえたりするくらいなら喜んでやるだろう」


「でも、いくら農閑期とはいえ、グレンみたいに家の手伝いとかもあるし。ただ働きはさせられないよ」

タク兄が真剣な顔で言う。


「それなら、糸が取れて売れたら、お礼を渡す約束にしよう!」

私が鼻息荒く提案する。


「その糸はまだできてないけどね……」

ミナ姉ちゃんが小声で突っ込んだ。


(う……)

それでも、やるしかない。


「明日早速みんなに頼んでみる!」


そう宣言した私に、母さんが苦笑した。


「リィナ、最近少し頑張りすぎよ?まだ三歳なんだから」


「大丈夫!タク兄もいるし!」


「……」

ミナ姉ちゃんはしばらく考え込み――やがて決心したように言った。

「私も行くわ。グレンにばかり世話をかけるのも悪いし、虫くらい……ちょっとくらい平気になってきたし」


タク兄も私も目を丸くする。


「え?ミナ姉ちゃんが?」

「何よその顔!」


「ハハハ」と笑い声が響いて、その日の家族会議は終了した。

そして、翌日。マーベル家の小屋の前には、タク兄とミナ姉ちゃんの呼びかけに応じた村の子どもたちが十人ほど集まっていた。


「また虫捕りか?」

「今度は何するの?」


がやがやと集まった子供達からは、期待と冷やかしが入り混じった視線が集まる。私はそんなみんなに向かって一歩前に出た。


「桑の葉取りを手伝ってほしいの!今はまだ糸を見せられないけど、うまくいったら、できた糸を売ったお金からお礼を出すよ!」


ざわっ。


「金もらえるの?」

「虫捕りはしなくていいのか?」

「桑の木に登って葉っぱを取るの?」

「俺、木登り得意!」


「面白そうだから、やってやるよ!」

「お礼なんていらねぇ!」

「でももらえるなら、もらう!」

子どもたちがわいわいと盛り上がる。


こうして、「マーベル家・こども支援隊(仮)」が誕生した。

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