プロローグ 絹の女神の記憶
今日から連載をスタート!
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(あれ……冷たい)
全身がふわりと宙に浮いた気がした。
重さも痛みも、何も感じない。
気がつくと、私は無数の白い糸が舞う空間に立っていた。
糸は風もないのにゆらゆらと揺れ、光を受けて七色にきらめいている。
(ここは……どこ? 私、たしか――)
考えようとするたび、頭が霞んでうまく思い出せない。
だが、なぜか懐かしい。
桑の葉の香り。蚕のぬくもり。繭を繰る手の感覚。
(養蚕……私は、それに関わっていた?)
「おまえの糸は、まだ途切れてはいない」
突然、透き通るような声が響いた。
振り向くと、白い絹のローブをまとった女性が立っていた。
銀の髪に、優しげな琥珀の瞳。
神秘的な存在感を放つその人は、ほほえんでいた。
「あなたは……?」
「私は西陵。かつて糸を紡ぎ、民を守った女神だ。
おまえの魂を、ずっと見ていた」
(女神……? いや、そんな――)
「困難を乗り越え、知恵と勇気で未来を織った者よ。
おまえをこのまま終わらせはしない。
白い糸が私の足元から伸び、やがて手首に優しく絡みついた。
「この糸は、縛るためのものではない。
人を守り、繋ぎ、未来を織るための糸だ。
おまえはそれを知っているはずだ」
胸の奥が熱くなった。
思い出せないのに、何か大切な誓いをした記憶だけが残っている。
(そうだ……私は……)
「さあ、行きなさい」
女神が微笑む。
糸の光が広がり、私を包み込む。
「おまえの想いが、知恵が、人を動かし、より良い未来を織り成すだろう――」
次の瞬間、私は眩い光の中に吸い込まれた。
そして――新たな世界で、マーヴェル家の次女として目覚めた。