第四話 約束の花
午後2時。
俺は山岡植木の事務所を訪れていた。
今日は遠征の仕事の日。トラック数台で都内のほうに向かったのを知っている俺は無断で事務所の中に入る。そして、マーブルに作るように言われた真っ白な手紙を置いてその場を後にした。
それから12時間後。
工業地帯の端に俺はいた。
「柑橘類は嫌いなんですがね。」
そこに現れたのは、ハイブランドのスーツに身を包んだ、日中の作業着姿とは全然似つかない男。山岡廉太郎がそこにいた。
「よくあの手紙でここがわかりましたね。」
「・・・あぶり出し。レモン汁の化学反応だなんて俺をバカにしているのか。」
「植木屋さんならこの程度なんてことないでしょう?」
その言葉に山岡はひどく醜い顔をした。
「誰の差し金だ?何が目的だ?」
イラつきながら話す相手を横目に俺は倉庫の方に視線を投げた。
大丈夫。
もう一度山岡の方に向くと、何も答えずガンホルダーから取り出した。
スミス&ウエッソンM10。
手になじんだそれは無言で銃口を山岡の方に向けていた。
「それで俺を殺して何になる!手紙に書いてあった『グリーンテゾーロを知っているか』の意味もお前は半分も理解してない!」
「ほう?」
逆上した山岡はそれから聞いてもいないことを語りだした。
「首領様は俺たちの神だ!倒産ぎりぎりの植木屋に手を差し伸べてくださる神様だ!他の会社も同じように救われている!あの組織なしに造園業界は成り立たない!」
「同時に見捨てられた会社も多くあるだろう?」
「見捨てられる方が悪い!」
「寺脇園。」
「!!」
そこで空気が固まる。
1,2・・・
「あいつは救いようがない女だ。」
3,4・・・
「お前を仕向けたのもあいつだろう?」
5,6・・・
「残念だったな。雑魚の依頼で命を落とすとは。」
7
「死ね。」
タァン――。
俺が地面に転がって避けるのと同時に、山岡が膝から崩れ落ちた。
致命傷ではないものの右の鎖骨あたりから血が噴き出している。
拳銃を持つ右手は震えもう撃つことは叶わないだろう。
振り向いたら、マーブルが硝煙に息を吹きかけ、美知子さんは悲しそうな表情をしていた。
愛する人の本性に言葉を失っているのだろう。
「美知子ぉ!!!!!」
「廉太郎さん。」
「このクソアマ、殺し屋なんて雇いやがって!俺がどれだけ目をかけてやったとおも・・・んぐ。」
怒鳴り散らす山岡に美知子さんはゆっくり近づくと。
そっと、キスをした。
「あなたのこと、心からお慕いしておりました。」
「でも、もう私、あなたに頼らなくていいみたい。」
美知子さんが悲しそうなまま嬉しそうに笑った。
それを見てマーブルは顎で俺に指示をして、俺は何も言わずに拳銃を美知子さんに差し出した。
「さよなら。私の植木屋さん。」