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盃と犬―始末屋編―  作者: ネクタイ
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第一話 依頼主

「たぶん、きっと、それに正解はないよ。」





築数百年の古民家に一人と一匹。

「だからぁ、今日も依頼がないって言ってるだろ!?」

「お前が取ってこないと今日の飯にもありつけないだろ!?ビラ配りでも何でもいいから受けてこい!!」

「それって結局俺がやる仕事じゃん!!いいよな、マーブルは犬だから!!」

「うるせぇ、帰ったらグルーミングしてやるから行ってこい!ルグルスト!!」

マーブル、と呼ばれた、白と黒時々茶が混じった毛並みが特徴的な犬。ルグルスト、と呼ばれた、青いジャケットに赤いネクタイが特徴的な青年。その二人が怒鳴りあいをしている。

マーブルは後ろ足でルグルストを蹴り上げるとそのまま玄関の外へ追い出した。ゴロゴロゴロと砂利が敷いてある庭に無様に転がる。

「イッテェ!こんの、牛柄チワワ野郎!帰ったら覚えてろよ!!」



「あんにゃろう。容赦なく蹴りやがった。小型犬のくせに・・・。」

ぶちぶちと文句を言いながら俺は駅前ロータリーを歩いている。

万事屋ルグル。

それが俺の仕事だった。モノ作りから護衛任務、代行業に確定申告まで何でも依頼されればこなす。マーブルとは任務の途中で出会った。今思えば最悪の出会い方だったなと失笑する。


俺達への依頼の仕方は簡単。

武蔵長城駅南口6番改札の前で、青いジャケットの男にA8サイズのメモ用紙でこう渡してほしい。


『最後のカクテル、あとはない。』



南口につくと不審そうにあたりを見回す女性が一人。

それはそれは美人な・・・。

「声かけちゃおっかなぁ♪」

「だれに?なんて?」

「そりゃぁ、あそこの不安そうなび・・・なんでここにいんだよ!マーブル!」

「お前が、そうやって仕事に支障きたすからだよ!!」

「あの・・・。」

「「ん?」」


「貴方が万事屋ルグルさんですか?」




依頼人を連れ家に帰る。

二足歩行でお茶を入れる犬が珍しいらしく、不思議そうに見ていた。

「んで、このメモ用紙渡してきたってことはなんか困りごとって事でいいのかな?」

「はい、実は・・・。」

ライムグリーンのワンピースに身を包んだ華奢な黒髪の女性。大人しそう、というのが第一印象だった。


「殺したい相手がいるんです。」


3秒の無言。

マーブルが、面倒くさそうに吐いた。

「うちは、暗殺業でも始末屋でも無いんだがな。」

「他に頼れる所がなかったんです!もう、ここで断られたら、私は・・・。」

ふむ、とマーブルと顔を見合わせる。

「詳細を聞こうか。」

「はい、殺してほしいのは私、寺脇美知子の恋人。名前は山岡廉太郎。株式会社山岡植木の代表取締役です。」

「しゃっちょさんってことか、そのまま結婚すれば玉の輿じゃないか。なんでまた。」

「それは・・・。」

美知子さんはそれでだんまりを決めてしまった。

「依頼料は多めに出させていただきます。なんとかなりませんか?」

小切手を取り出し、さらさらとゼロを重ねる。

「こ、こんなに!?」

「足りなければまだ出します。」

「おい、マーブル。」

「そうだなぁ、美知子さん。とりあえずはうちに泊まりませんか?男ばかりでむさ苦しいところだけど。」

「はい!よろしくお願いします!」



客間では、美知子さんが寝ている。

犬用ミルクを片手にマーブルが不思議そうに言った。

「あの人、オレに驚かなかったな。」

「そういえばそうだな。二足歩行の喋る犬も珍しくないんじゃないのか。」

「んなわけあるか。オレ以外で見たことねえよ。」

夜はふけていく。謎の始まりを残したままで。

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