一瞬の間の幾百光年 〜特殊相対性理論より〜
1光年=光が地球時間の一年で進む距離です。
距離も地球における寸法が基準です。
光の立場の時間だとまた違います。
特殊相対性理論によります。
六百光年先にある星から
光子が地球に降り注ぐ
僕の地面が太陽と反対側なら
その光が僕の視神経と反応して
巨大なペテルギウスが
遥か遠くのちっぽけな僕に認識される
目を動かせばオリオン座が
遥か遠くのちっぽけな僕の心に描かれる
巨大なペテルギウスとちっぽけな僕が
六百光年を隔てて相互作用するだなんて壮大だ
六百光年先にある星から
光子が地球に降り注ぐ
光子君、はるばるようこそ!
呼んだら光子君はキョトン顔
遥かなペテルギウスから
ここまで一秒も掛からなかったってさ
光子君の刻んできた時間は
一秒どころか精密な時計じゃないと測れない
光速の光子君の一秒もない一瞬の間に
僕の地球は六百年もが経過するだなんて壮大だ
光子の時計では、ペテルギウスから地球に一瞬で届きます。一方、地球の時計では、600年かかります。
これは、特殊相対性理論の効果で実際に起こります。
注: 実用上、私たちの感覚の通り、ペテルギウスは遥か彼方で、途方もない時間がかかる事実にはかわりありません。私たちの時計では「確かに」600年も光は走るのです。
以下、特殊相対性理論のマニアな長い注釈です。宜しければでどうぞ。
(1)本作に関わる実験/実測
ミューオンと呼ばれる電子に似てるけど、電子よりも200倍重い素粒子があります。ミューオンは、僅か2マイクロ秒で、電子と二種類のニュートリノに崩壊することが、地上の加速器などの実験からわかっています。にも関わらず、ミューオンは、宇宙線として地上に注ぎます。成層圏の高度100kmを光速3×10^8m/秒で通過するのに、0.数ミリ秒かかります。これは崩壊時間の100倍なので、宇宙からミューオンが崩壊せずに届くのが一見すると矛盾します。しかし、ミューオンが光速に近い早さで宇宙を飛んでくるので、ミューオンの時間が経過しないのです。つまり、ミューオンが宇宙からきても、光に近い高速のミューオンの視点では2マイクロ秒以内だったことになります。定量的にも特殊相対性理論と一致することが確認されています。
このシチュエーションは、本作の光子の時計では一瞬、地上の時計では600年と同じです。
(2)時間の進みが違う理由
特殊相対性理論では、光の速度は、誰からみても同じである、と考えます。
いま、地球から100光年離れた星からくる光を考えます。同時に、地上から測って、光の半分の速さでやってくる粒子Xも考えます。地上の時計で測ると、光は100年、Xは200年かかります。光の時計では、一瞬で到着します。
では、Xの時計では、200年でしょうか?残念ながら違います。地上からは、光は光速で、Xは光速の半分の速さでやってきます。ところが、Xからみると、光は光速のままです(光速の半分の速さで追いかけているのに!)。ここに、地上目線とX目線が変わる理由があります。光の半分の速さなのに、光が光速のままということは、Xの時間は地上よりも、ゆっくりになると言うことになります。何時間でどれだけの距離を進んだかが速度ですので、Xの時計がゆっくりになれば、Xから見た光は光速のままにできるというカラクリです。
ただ、X自身を原点とする座標系と静止した地上からみた互いの速さ(今は光速の半分)は同じです。Xの方が、時間の進みが遅いので距離の尺度が地上と同じだと速さが変わってしまいます。よって、Xの空間座標も縮みます。つまり、地上に対して、早い粒子は、時間がゆっくり進み、距離が縮みます。実際には、時間の進みと距離の縮みは独立ではなく互いに関係しあいます。時間と空間が分けられず、時空と呼ばれるものになります。
これ以上は、今の私には、数式がないと説明できません。ごめんなさい。光速の半分の速さで、時間と距離が15%程度変わります。つまり、Xの時計で地球までの到達時間は200年ではなく、170年です。Xの速さが光速の99%なら、15年、99.99%で1年くらい。100%で0秒ですが、おそらく特殊相対性理論以外の効果もしくは宇宙は完全な真空ではない等からゼロではないと思います。
(3)なぜ光速は一定と考えるか
マイケルソンとモーリーは、実験で、太陽からの光の速さは地球の自転の向きによらず一定であることを示しました。
通常、時速30kmの車から80kmで追い越す車を見ると、時速50kmに見えると考えられます。単純に、空間の原点を変更して、相対速度と相対座標に換算するやり方は、ガリレイの相対原理と呼ばれます。マイケルソンとモーリーの実験は、自転で地面が太陽に向かう時と遠ざかるとき、つまり太陽に対する速度が違っても、光速は同じで、光はガリレイの相対原理に従わないことを示しました。
(4)特殊相対性理論のあらまし
時を同じくして、電気と磁気を統一する電磁気学理論がマクスウェルとファラデーらによって構築され、ヘビサイトによって整備されました。この理論によると、光は、電気と磁気の横波、つまり、電磁波であることが示されました。静電気の力、磁石の力の定数から算出した電磁波の速さがマイケルソンとモーリーの光速の実験値とピッタリと一致しました。
ところが、電磁気学の方程式において、ガリレイに従って、座標の原点をずらすと、一貫した物理現象を表現しない(座標の取り方で答えが変わる)、難点がありました。座標系を変えたときの変換が、ガリレイ変換ではなく、時間や空間の伸び縮みがあることが、ローレンツとポアンカレによって指摘され、変換式、ローレンツ変換が完成され、座標変換しても同じ答えを得ることがができるようになりました。
一方、アインシュタインは、マイケルソン・モーリーの実験の光速度がなぜ一定かを問うのをやめ、これを原理として受け入れると、電磁気学理論だけでなく、任意の座標変換が、ローレンツ変換従うべきことを示し、特殊相対性理論として提示しました。
ここで、特殊相対性理論の「特殊」は(2)の粒子Xが等速運動をしている場合を想定されていて、加速は考慮されていないためです。
注:アインシュタインは、ローレンツ変換を自ら導いた体で論文を発表し、ローレンツとポアンカレの論文を引用しなかったため、彼らの怒りを買いました。ここでは、三人の寄与を上のように書きましたが、異論はあると思います。実際に、ローレンツも自身の変換の物理的意味を考えていましたし、ポアンカレにいたっては、アインシュタインに先んじて、特殊相対性理論と同等の数式体系をエレガントに「完成」していたようです。しかし、アインシュタインの「光速度一定の原理」は、量子力学などあとに続く未完の物理学が充すべき指針として、「課題を先取り」していた点が評価されていると思います。また、特殊相対性理論では、太陽や溶鉱炉の光スペクトルを説明できず、さらに思考を進めました。これを説明するためにプランクが提唱した光量子を実証する手段(光電効果)を考えました。アインシュタインは、初期の量子力学の立ち上げや光量子の証明にも多大な貢献をします。もちろん、ローレンツとポアンカレ、そしてマイケルソンとモーリーの苦労があってこそと思います。
訂正:2023.3.17
(2)のXの速さを変えた場合の到達時間を2倍大きく見積もっていましたので、訂正しました。話が変わるほどの訂正ではないです。同様のケアレスミスはまだあるかも知れません。
Xが光速の99%: 30年→15年
Xが光速の99.99%: 2年→ 1年
に訂正しました。
追記:2023.3.19
(2)で、静止しているのがXで動いているのが地上とすると時間が縮むのはXになり、結果が逆になる。どちらか定まらないのを双子のパラドックスという。解決するには問題設定を詳細に検討する必要がある。今、地上が静止するXに動いてるとすると地球以外の全ての星がXに向かって動くことになってしまいます。よって、Xが動いているとなります。これは、特殊相対性理論を適用する条件、ないしは、どちらかかが加速されているかの条件設定の問題です。