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「はじめまして。魔術研究部人事部部長のミシェル・ハロルドです。普段は魔塔で魔術の研究をしているのだけれど、今年度から週一回学園の先生を務めることになりました。学園については皆の方が詳しいこともあると思うから、困ったときはよろしくね。」


 見慣れた蜂蜜色の瞳がこちらに向かってウインクする。女子生徒から黄色い歓声が上がった。頬を染め、見とれて言葉も出ない子もちらほらいる。さすが攻略対象。ちょっと愛想を振りまけば大衆が陥落する。


「では、授業を始めましょう。ルーシェ・クラウン、助手を頼みます。」


 クラスメイトの視線が一斉にこちらを向いた。特に女子からの視線が痛い。なぜだ、クッキー効果を一瞬ではねのけられた。そういえば、授業前からなにやら女子生徒たちと話しこんでいた。天然たらしはこれだからいけない。


「お断りします。」


 ミシェルと特別な関係と思われてはたまらない。あくまで先生と生徒。ほかの悪役令嬢は婚約者という強いつながりを持っているが、ルーシェはいわば師弟関係。報われない片想いの成れの果てがヒロインへの嫉妬をきっかけに破滅を呼ぶのだ。となれば、狙うは自然消滅。これから数多くの教え子や弟子と変わらない、なんてことない一人として存在感を薄めていくに限るのである。


「おや、反抗期はまだ続いているのかい?」

「先生。生徒は公平に扱うべきだと思います。助手は挙手制にするべきかと。」


 すると、あろうことかミシェルはクラスメイトをぐるりと見回して語り始めた。


「皆聞いて。私は彼が幼い頃から面倒を見てきた兄のようなものなのですが、最近とんと冷たくて困っているんです。」


 ルーシェは無反応を心がける。何を言うつもりだこの師匠は。


「私としては、この子に友達ができるのかどうかと心配でたまらないというのに。ルーシェったら連絡もなにもないし、この間なんかクラウンと呼べなんて言うんですよ。」


 ミシェルは目を伏せて儚げに微笑んだ。どこからともなくゴクリ、とつばを飲み込む音が聞こえた気がした。


「ルーシェに助手をお願いしたいのですが、いいですか?」


 教室中から、いいですわーだの、クラウン男を見せろーだのミシェルの援護射撃が加わる。とんだ茶番だ。この悪魔め。ルーシェが歯ぎしりをしてミシェルを睨むと、ミシェルは知らん顔をして、クラスに向かってありがとうと言いながら蜂蜜色の目をそれはそれは甘くとろけさせ、柔らかく微笑んだ。女子生徒の奇声があがり、男子生徒すら頬を染め息を呑む。そしてようやくこちらを見て、いけしゃあしゃあと言い放った。


「では、ルーシェ。よろしく頼みますね。」


 



「さて、実践演習に入りましょうか。」


 あのあと、いくつかの説明を受け、演習場に移動していた。ルーシェはミシェルの説明を視覚的に再現していくことに専念した。もとより長い付き合いのルーシェであるから、助手としての役割はピカイチである。


「さっき教室で6種類の魔法について学習しましたね。火・水・土・風・闇・光。その中で自分に一番馴染む魔法を強化していきます。では、強化のお手本をお見せしますね。」


 ミシェルの視線に促され、ルーシェは右の手のひらを前に掲げ水魔法を放った。手のひらから水鉄砲のように水が放たれる。


「うん。もう一段階あげて。」


 今度は蛇口の水からバシャバシャと水が溢れ出るように水を放つ。


「もう一つ上げてみようか。」


 言われるがまま、ルーシェは水の威力を上げた。森の方へ向かって滝のような水を放つ。


「もうひとつ。」


 水はさらに威力を上げ、森の方で木々が倒れた。


「そのくらいにしとこうか。はい、皆も段階的な魔力強化を意識してやってみましょう。どうぞ!」


 皆が静まりかえり、固まっていた。ミシェルは心底不思議そうに首を傾げた。


「あれ、聞こえませんでしたか?ルーシェ、皆どうしたの?」

「なんだろう?わかりません。」


 師弟揃って首を傾げる姿に、クラスメイトの絶望が深くなる。だがそこに一人、皆の思いを代弁する勇者が現れた。


「そんなことできるか!この変人師弟!」


 ドン引きしたヨハネスの怒声が演習場に響き渡ったのだった。

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