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 入学式を終え、教室へ戻った私達に担任から寮の部屋割リストが配られた。

 こ、これは・・・・・・。

 まさかヨハネス・ケイトナーと同室になるとは。

 名前の順で2名ずつというシンプルな部屋割になんの疑問もないのだが、相手はいずれカメリア王国一の剣士となる攻略対象ヨハネス・ケイトナーだ。3年もの間、私が女性であることを隠し通せるか?いや、もう決めたことだ。私は絶対やり遂げて見せる!


「やぁヨハネス。僕たち同室だな、改めてよろしく。」

「あぁ、よろしく。これから一緒に向かうか。」

「そうだな、早く部屋見ておきたいし。」


 そうして自分たちの部屋のある寮へと向かった。




「おい・・・・・・この荷物の量はなんだ。」


 部屋につくなりそう言ってヨハネスが部屋に運ばれていた荷物を睨む。


「何って、僕の私物だけど。」


 部屋には魔術の本や剣、弓矢などの武器、の他にも可愛らしいアクセサリーやぬいぐるみ、お茶菓子などで溢れていた。ちなみに後者が9割だ。


「じゃあこれはなんだ。」


 すごい剣幕でヨハネスが睨む。左手でくまのぬいぐるみの首根っこを掴んで。


「可愛いだろう?僕はこの学園で最愛の人と結ばれることが夢なんだ。このくまのぬいぐるみが似合う可憐な少女に僕は恋をするかも知れないと思ったら、いてもたってもいられなくて。このくまをひと目見た瞬間、いずれ出会う可憐な少女にこのくまをプレゼントしてあげたい、そう思ったのさ。」


 そう、この学園に持ってきた悪役令嬢への貢物はこれでも厳選に厳選を重ねた一級品ばかりだ。絶対に喜んでもらえると確信を持って言える悪役令嬢攻略のための必須アイテムだ。


「いらねぇだろ、どう考えても。じゃまだ、部屋を片付けるぞ。」


かちんと来てヨハネスを睨むと、顔をしかめられた。


「聞き捨てならないセリフだな。それは僕が最愛の人と巡り会えないと嘲っているのか、それともレディーへの贈り物を馬鹿にするのかどうなんだ。」

「まだ出会ってもいねぇ相手のために選んだプレゼントなんて持っておいたって仕方がねえだろうが。お前はその最愛の人とやらが現れたとき、自分の理想を押し付けるのか。」


 ぐっと言葉に詰まる。

 ヨハネスは知らないが、ルーシェは贈り物を選ぶとき乙女ゲームで登場した悪役令嬢たちのことを思い浮かべていた。でも、そのイメージもゲームによって作られたもので、実際本人に直接会ってみると違うのかも知れなかった。だから、ヨハネスが言うことは正しくそのとおりだ。しかし、ここは譲れない。ルーシェには悪役令嬢の恋の矛先を自分に向けて、嫉妬から暴走し破滅する運命から彼女たちを守るという使命があるのだ。


「いやだ。僕のプレゼントは捨てさせない。そう簡単に諦めてたまるもんか!」


そうは言っても、ヨハネスを納得させるための理屈などなにも持ち合わせていないルーシェはひとまず劣勢を悟ってこの場から逃げた。後ろから呼び止める声が聞こえるが気にしない。今日はもうこの話が出ないように夜が来るまで身を潜めるに限る。




 夜、寮の明かりが消えてきたのを見計らって自室に忍び込む。荷物はそのままにしてくれたらしい。二段ベットの下の方の布団が膨らんでいるところを見ると、どうやらヨハネスはそちらを寝床に選んだ事がわかった。静かにシャワー室へ向かおうとすると、声をかけられ思わずギクリと肩が震えた。


「おい、どこ行ってたんだ。」

「森に、その、特訓を。」


 しどろもどろに答えると、それ以上追求されることはなく、ルーシェは少しほっとしてシャワー室に逃げ込んだ。



 寝支度を整えて戻ると、ヨハネスはもう眠っていた。そっと寝顔を盗み見るとやはり男前だなと思う。ダークブラウンの髪に吸い込まれそうな色合いのヘーゼルアイ。がっしりと鍛え上げられた肉体は、ここ数年ルーシェがほしいと思っても手に入らなかったもので、隣に立つと見上げてしまうほどの身長も頼もしさを感じさせる。

 さすが乙女ゲームの攻略対象だな。乙女の夢を煮込んで詰めたようなイケメン。私はこれからこんな奴らを相手に恋のライバルをやらなくてはならないのか。思わずため息が出る。

 乙女ゲーム「マジカルに恋して」には、四人の攻略対象に四人の悪役令嬢がいる。来年入学するヒロインは四人の攻略対象のうち一人をメインに攻略していくことになる。ルートが分岐した先で攻略対象ごとに悪役令嬢がいて、嫉妬にのまれた悪役令嬢が暴走しヒロインの命を脅かす。様々な経緯はあれど、そのストーリーの最後に悪役令嬢は必ず命を落とすのだ。

 かくいう私も悪役令嬢。ヒロインがミシェル先生ルートに進めば、私は恋に狂って得意の闇魔法で魔物を召喚しまくりヒロイン惨殺を計画するのかも知れない。乙女ゲームのルーシェ・クラウンはそうして自分も魔物によって死ぬこととなったのだから。

 そう簡単に死んでやるものか、と前世の記憶を思い出した私は7歳の時から毎日特訓し、これでも体を鍛えている。このすやすや眠る筋肉ダルマとは雲泥の差だが、腹筋だってちゃんとある。ちょっと肉が付きづらいだけだ。うん、私は何も悪くない。寝よう。

 どうか誰も命を落とすことがありませんように。

 静かに二段ベットを登りながら、窓の外に広がる星の瞬く深い紺の空を見て、私は覚悟を決めた。

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