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カメリア王国で一番といわれる教育施設アメドミカ学園を前に、新入生ルーシェ・クラウンは指定のニ時間前にやって来た。早朝の空は透き通るような水色で、桜の花が舞い降りてくるさまは絶好の入学式日和である。世界が学生の新たなステージに上がるこの瞬間を歓迎するかのようなこの風景も、ルーシェにとっては地獄の入り口にしか見えない。
「おや、こんなところで何をしているんですか。新入生くん。」
後ろから声をかけてきたのは、この学園の魔法科教諭ミシェル・ハロルド先生。前世で私がプレイしていた乙女ゲーム「マジカルに恋して」の攻略対象である。紫色のくせ毛に白衣を着ていて眼鏡キャラなのがトレードマークである。眼鏡の奥に光る蜂蜜色の瞳が優しく細められる姿に心を鷲掴みにされたプレイヤーは数知れず。かくいう私もその一人で、前世の私の最推しはミシェル先生だ。今日は入学式のため正装をしていて一段と格好良い。目の保養である。
「まったく、男子用の制服がこうも似合うとは。君の父上が嘆き悲しんでいる姿がほんと目に浮かびます。」
やれやれ、困った子だ。と言いながら頬を緩めるのは、正直心臓に悪い。勘弁してほしい。イケメンは無自覚に人を誑かすことを自覚してほしい。
「おはようございます、ミシェル先生。今日から僕のことはクラウンと呼んでください。」
「私のかわいい愛弟子が、反抗期だなんて・・・・・・ブフッ、君は本当に何を考えているんだか。」
隠しきれなかったのだろう。本格的に笑い始めたミシェル先生に、登校してきた生徒たちの視線がチラチラと突き刺さる。入学初日から目立ちたくないのだが。
「教室の場所がわからないってわけでもないのでしょう?こんなに早く登校するなんて、よっぽど楽しみにしていたのかな?」
「そんなまさか。地獄の入り口に足を一歩踏み入れるのが少し恐ろしかっただけです。」
本当は少しどころじゃない。何ならさっきまで唇は冷たかったし手足は震えていた。
「まぁまぁ、外にいたら余計に冷えてしまうよ。ルーシェ、大丈夫だよ。この学園には私もいるのだから。何かあったら私の準備室を使いなさい。何をしでかすつもりかはわかりませんが、君なら地獄のモンスターもひれ伏すんじゃないかなぁ。」
むしろ、君を見て逃げ出すかもね。あはははは、と励ましから一周回って私を馬鹿にしているんじゃないかと思う失礼さでミシェル先生はにこやかに笑った。
教室の扉を開けると、流石にまだ誰もいなかった。あれからミシェル先生に背中をバシバシ叩かれながら学園の門をくぐり抜けた私は、意を決して教室にたどり着いた。2・3年生は新入生よりも一時間早く登校時間が指定されていたようで、さっき学園前で登校してきていたのはこれから入学式へ向けて準備をする先輩方だったのだろう。早く着きすぎてしまった私は、自分の席を見つけるとすることもなく早々に眠り始めた。
「・・・・・・おい。おい起きろ、そろそろ先生が来るぞ。」
気がつくと、教室はがやがやと話し声に溢れ、若者の熱気で暖かかった。声がした方へ顔を向けると、そこには理想の男前がいた。ああ神よ。なんて心臓に悪い。攻略対象は輝きが桁違いなのだから、来るなら来るって事前通告をしてください。こいつ本当に3Dなんだな・・・・・・男前の血の気ある彫像が動いてるぞ・・・・・・と前世のオタク心が感動で打ち震えていることを知る由もない目の前の男前は、怪訝そうに私を見つめている。
「俺の顔になにかおかしなところでも?」
そこへ来て私はようやく我に返った。入学早々教室で眠りこけていた変人が、同性の顔をまじまじと見つめ固まっているなんて変人に変人を重ねている所業だ。変に誤解をされてたまるかとカッと顔面に血が上り、ガタガタッと急いで立ち上がる。
「僕の名前はルーシェ・クラウン。起こしてくれてありがとう。君はなんて優しいんだ。それにその筋肉!相当鍛えているね、僕も剣術を少しかじっているんだがどうにも筋肉は付きにくくて。君はなんて理想的なスタイルなんだ、ああ・・・素晴らしい、素晴らしい人だよ君は!初めて見た瞬間から僕は君と親しくなりたくて仕方がない!どうか僕と友だちになってくれないか?」
一息に言い切ってから、落ち着いて酸素を取り込もうとしていると、周りの空気が固まっていることに気づいた。あれ?なにか私、間違えた?
「お、俺は・・・・・・。」
ぼそぼそとなにか口にしようとしてうつむいてしまった彼を見ると、耳が赤く染まっていた。
「僕のことはクラウンと呼んでくれ。ねぇ、君の名前、教えて?」
そっと目線が合うように顔を近づけると、彼、もとい攻略対象の一人であるヨハネス・ケイトナーは顔を真っ赤にして飛び上がった。
「待て、それ以上近づくな。俺はヨハネス。ヨハネス・ケイトナーだ。」
一瞬顔をギュッと梅干しみたいにしわくちゃにした彼は、キリッとした男前の顔を取り戻して名乗りあげた。
「ふふっ、これからよろしく。ヨハネス。」
「あぁ、よろしく頼む。」




