⑦ふたりの逃避行(※腐女子目線)
「そんなわけで、ミッチーに改めて(穂乃果を)紹介したいんだけど……」
「う~ん、いや、それは構わないんだけどね?」
翌日のお昼休み。
ミッチーにそう告げたところ、彼は何故か思案顔だ。
思案顔──が様になるのって羨ましい。
流石にイケメンといったところだ。
僕が思い悩んだところで『なにを難しい顔してるんだコイツ、大してなんにも考えてないクセに』などと思われるだろう。むしろそれならまだいい方で、大抵の場合は気付かれもしないに違いない。
しかし、ひとたびミッチーが難しい顔をすると、それだけで注目の的。
ミッチーと仲良くなりたい男子は、僕がなにか粗相をしたと思い『こんなヤツほっといて俺らと遊びに行こーぜ!』と言うチャンスかどうかを見極めんとソワソワしだし、腐女子の皆様は『やっぱり難しい恋をしているのね!』という妄想を滾らせている……ような気がする。
「……一度ちゃんとデートした方がいいんじゃないかな?」
ミッチーが真剣な瞳で僕を見詰めそんなことを言うもんだから、腐女子の皆様がザワつく。
いやおそらくコレは『僕とミッチーが』じゃありませんけど?!
つーか小声で話してるのに、聞こえてたの?!
しかも話の前後がわかってないようなところがまた凄い……妄想上都合のいい部分だけ拾っているのだ!
恐るべし、腐女子イヤー!!
周囲の誤解を解きたいけれど、もしちゃんと話が聞こえたら聞こえたで今度は男子が『ええー? あの陰キャモブに彼女(仮)がいるのかよ? どんなブサイクか見に行ってやろうぜー』等と盛り上がり、実際に見に行ったら超絶美少女で『なん…だと……!?』からの、『あんな冴えない男の彼女になるくらいだ、俺にもワンチャンあるに違いない』勢が、それこそ羽虫の如く湧くことは想像に難くない。
彼等は言ったら悪いが僕よりはマシなだけの雑魚に過ぎないが、なんならそこでちょっとした話題になり、興味を持った俺様イケメンが現れたりしたらもう大変。『そんな奴やめて俺にしとけ(壁ドン)』な流れのフラグが立つことは必至であり、危険極まりない。
何故なら、穂乃果はまごうかたなきツンデレ美少女。
俺様イケメンのターゲットとなりがちな『おもしれー女』タイプのド真ん中なのだから。
「やっぱりこの話はちょっと場所を移そう!」
「あ、ああそうだね。 ごめんタケくん」
僕らは席を立ち、教室を出た。
ミッチーはどうやら『穂乃果の話題を、皆に聞かれる場所で話したくない』という僕の意図の根幹を文字通りに受け取ったようだ。それが若干申し訳ない。
何故申し訳ないかというと、腐女子の皆様がこの行動をも腐った感じに変換しているからである。
おそらく今も『ふたりの逃避行』みたいに言われていること請け合い。
なんでも隙あらば腐らせ美味しくする……そんな彼女達を僕は『発酵の美食家』と呼ぶことにした。
心の中で。