⑥魔性の幼馴染
「お邪魔します!」
その夜、夕食も終えた時間……穂乃果が家にやってきた。
勢いよく階段を上がり、僕の部屋にまっしぐら。
まっしぐらって、猫エサのCMの猫か。
きっとあれはエサを与えずに待たせているに違いない。
ウチに猫エサはないが、穂乃果がもし猫ならきっと最高に可愛いので大量に買っておくだろう。
チャ〇チュールでもシー〇でも、猫げ〇きでも。
それはまあいい……それはまあ、いいのだが……
「──え……ちょまァァァッ!!」
「は?」
あろうことか穂乃果は『パジャマでオジャマ』というキャッチーなフレーズと共にやってきたのである。(錯乱)
大きめのメンズライクな半袖Tシャツに、スポーティな……スポーティな……
「たたたたた短パンではないですか!」
「……そ、そうだけど、なに? その口調」
──そう、短パン。
穂乃果は健康的でありながらもスラリと伸びたおみ足を、惜しげも無く晒しているのである。
……そこは惜しんで!!
短パンはオサレに言うとホットパンツとか言うらしいが、誰の何をホットにする気なんだ!!
しかし、最早目が離せない僕。
だって……美しいモノが嫌いな人がいて?!
ラ〇ァは正しい!
流石に未だにお若い方にも通じるネタだけある!!(※ただし、一部は置いてけぼりと思われる)
「もうっ、改めて言われるとなんか恥ずかしいじゃない!!」
そう言いながらモジモジし出す穂乃果。
やめてやめて、Tシャツの裾を伸ばすのは!
隠すとなにも履いて無いみたいで余計アレな上に、たわわななにかが強調されてしまうではないですか!!
僕はそう心の中で叫びながら、自身が寝間着としている中学の頃のジャージを穂乃果に投げ、ベッドのタオルケットに頭を突っ込んだ。
「……履いた?」
「……うん」
短パンが幸いしてか、勢いよくやってきた穂乃果の態度は一転、しおらしいものになっていた。
「きょ、今日の嘘だけど……私、謝らないからね!」
ツンデレも、いつもよりぎこちない。
「うん、それはいいんだけど」
「え?」
「ミッチーは僕の本当に仲のいい友人だから、穂乃果にも仲良くしてほしいなって」
きっと穂乃果は僕が無理矢理『紹介しろ』とせがまれているとでも思っていたのだろう。
大きな瞳をぱちくりさせたあと、どこか疑った様子のまま、仄かに頬を紅潮させて尋ねる。
「……それは、『タケの彼女として』ってこと?」
── な ん て 破 壊 力 。
「それは……っ穂乃果がそうしたいなら」
危うく心臓が止まるところだった。
天に召される直前で『勘違い乙』『痛過ぎ大草原』などと脳内に盛大に過ぎる大量のディスり弾幕に我に返る。
息を吹き返した僕は、己の厚かましさを恥じつつ言葉を繋げた。
「……ほら、下心とか怖いだろうし!! ミッチーはそんな人じゃないけど、気持ちはわかるよ! 穂乃果はかかっ可愛いから!!」
「……」
止まりかけたせいで心音が激しい。
既に僕にとっては『可愛い』という穂乃果への形容は呼吸と同じレベル。
いつもなら噛まずに言えるそれも噛むほど、改めて感じた穂乃果の可愛さに動揺を禁じ得ぬ。
穂乃果は満更でもなさそうな表情で、それでいて不満気に口を尖らせながら、なにかを考えている。
なにその絶妙な可愛さ。
そんな口を尖らせて可愛いのなんて、世界的大人気のネズミの、やっぱり世界的に大人気な友人のアヒルか穂乃果ぐらい……と言っても過言ではない。
常日頃から心の鍛錬を積んでいる賢者の僕以外と、そんな唇を晒してこのように二人きりでいようものなら、相手の口は小学生の描く絵のタコぐらいの感じで穂乃果の唇に延びていくに違いない。
「──……なにやってんの?」
「いやなんでも」
思わず僕は、自分の口がウッカリ延びていないかを確認する為に、顔の前に手のひらを翳して上下させていた。
「……まあ、もともと紹介してもらうつもりではいたし……」
「うん!」
「その代わり、ちゃんと紹介してよね! 『僕の彼女の穂乃果です』って。 はい、言ってみて」
「──」
「ほら、早く」
……あれちょっと待って、これやっぱりハードル高くない?
その夜僕は、穂乃果が満足するまで何度も『僕の彼女の穂乃果です』と言わされた。
ちなみに、ジャージは履かせたまま帰らせた。