⑤メカクレ系ギャルゲー主人公
「彼女……」
「ほっ、穂乃果?!」
ミッチーもビックリしているが、僕の方がビックリだ。
なんでそんな嘘を吐く……?!
しかし、この場でそれを問いただそうものなら、穂乃果の性格上ムキになり、頑なに嘘を吐き通そうとするのは目に見えている。
なんなら更なる嘘を重ねて、カオスになること請け合い。
「友達来てるからちょっと今日は帰って!」
「ちゃんと紹介してよ!」
「今日は時間ないからまた! ねっ?!」
「……わかった、絶対だからね!?」
そんなわけで、『嘘には言及せずに無理矢理追い返す』一択。
──パタン。
「……ふう」
「…………タケくん、彼女いたんだ?」
少しの沈黙のあと、ミッチーが遠慮気味に尋ねる。
「いやいやいやいや」
「え?」
僕は勿論、即座に否定した。
「あんな可愛い子が僕の彼女なわけないでしょ……ただの幼馴染だよ」
「ええ??」
穂乃果との関係を詳しく説明すると、ミッチーは納得いったようないかないような微妙な表情を湛えながらも、黙って聞いてくれた。
「──そんなわけで、穂乃果の存在はトップシークレットなんだ」
「う~ん、でもあの子、タケくんのこと好きなんじゃない? さっきも『彼女』って言ってたし……」
「まさか……有り得ないよ」
やめてやめて、そういうの。
『美少女ギャルが陰キャに優しい』よりないわ~。
僕は眼鏡キャラだけど『眼鏡をとったらアラ美形』みたいな隠れスキルどころか『眼鏡=本体』と言っていいくらいに、顔の印象のおよそ八割を眼鏡に頼る程のモブ眼鏡だ。
しかしながらオシャレな眼鏡に変えたところで、誰もその変化に気付いてくれない自信がある。
印象の八割は眼鏡だが、醸すオーラがステルス級にモブなのだ。
「そんなモブ眼鏡の僕が美少女幼馴染から好かれるなんて、メカクレ系主人公のギャルゲーくらいしか有り得ないよ!!」
「スゴいたとえ」
それでもまだ納得いかない、とでも言うかのように小首を傾げたあと、 ミッチーはいい感じにまとめてくれた。
「つまりタケくんは……美少女幼馴染の穂乃果ちゃんが変な男に引っ掛からないように、タケくんの他に僕という男子の友人を作って免疫をつけさせよう、と……そういう感じ?」
「──」
違 う 。
「そうそうそう!! ソレだよ!! ミッチーなら、信頼できるから!!」
だが、非常に都合が良いので乗っからせて頂く……!
(『友人からの恋』……悪くない!!)
「しかも優しくてイケメン! 穂乃果の男子への免疫だけでなく基準値も上がってまさに理想的!!」
ミッチーは「やめてよ~、持ち上げてもなにも出ないよ~」などとイケメンのくせに可愛らしく頬を染める。
イケメン恐るべし……ノーマルの僕ですらちょっとときめく可愛さ。
もし同じことを僕がやろうものなら、『このオタク社交辞令を真に受けて照れてやがるぜチョロすぎ草』である。
「でもわかった、いいよ。 ただ……」
「ん?」
「とりあえず、『タケくんの彼女』っていうのは否定しないでおこうよ。 僕は『タケくんの彼女だと思ってる体』で、あの子に接するから、タケくんもそうして?」
「それは……」
──ミッチーの前では、僕は穂乃果と付き合っているフリをしなきゃいけないってこと?
「いや無」
「ほら、その方が彼女も僕と友達になりやすいと思うし」
「うぐ……それは確かに……」
『いや無理、ハードルが棒高跳びくらい無理』と言おうとした僕の言葉は、ミッチーの説得力溢れる言葉に飲み込まれた。
こうして僕はミッチーと穂乃果という素敵カップルを作る為に、何故か『穂乃果と付き合ってる』風を装わなければならなくなってしまった。
……頭がパンクしそうだ。




