④腐ったミカンは案外オイシイ
──翌朝。
「ミッチー! これありがとう、面白かったよ!!」
「でしょでしょ~?」
学校に着いた僕はミッチーに本を返しがてら、まずは和やかな導入として、いつも通りにラノベ談義から入った。
ここで重要なのは、会話に花を咲かせすぎないこと。
これはフラグなのだ。
「もうこんな時間だ~、続きを語るのはウチでにしない? もし良かったら、遊びに来てよ」
こ れ の 。
「えっいいの?!」
「うん、是非」
ミッチーは驚いていた。
ミッチーのお宅にお邪魔したことはあるが、僕が呼んだことはない。
ミッチーは友人宅に行くことに憧れがあるようなのだ。
優しいので、たまにやんわりと行きたい感を出すだけで、せがんだりはしないけれど。
「ただ……他の人には内緒にしてくれる? 僕、人を部屋に呼んだこととかないし、ミッチー以外呼びたくないし」
「言わない言わない! ええ~……嬉しいなぁ」
こっそり話しているが、一部の女子が聞き耳を立てている。
しかしそれは問題ない。
彼女らは腐っているのだ。
そして『無双系ハーレム』好きのミッチーに僕が不安を抱いていないのは、恋愛モノなら推し一択であることもさることながら、彼が実は百合モノが大好きなのを知っているからである。
彼の名言である『ハーレム主人公なんて所詮、百合コミュニティの当て馬』というのは記憶に新しい。
流石にミッチーも、はんかなラノベ好きに自らの性癖の理解までは求めておらず、そのことは秘密にしている。
僕らを眺めてキャッキャウフフの女子達を眺め、ミッチーもほくほく。
ミッチー曰く、「リアル女子は案外ドロドロしているので、外から見るのが一番安心安全で和む」とのこと。
そんなわけで、腐った皆様とはwin-winの関係にある。
……あれ?
よく考えると僕だけ損してない??
とりあえず、僕はミッチーを家に連れていくことにした。
穂乃果の可愛さに気付いてから今まで……小学生の時から絶対に友人など家に呼ばなかった。
中学から穂乃果が私立に行くことに、一番喜んだのは多分僕だろうと思う。
幸いにも穂乃果のツンデレのおかげで、小学校の頃同級生だった男子達は、よもや僕の部屋に穂乃果が来るなどとは露ほども思っていなかったようで、無理矢理押しかけられたことはない。
だが僕にとって穂乃果の存在が秘密なのは、そんなことになるのが怖いからでもある。
穂乃果のような超絶可愛い幼馴染がいるとバレたら最後、僕の部屋は不本意にも穂乃果をストーキングする輩の巣窟となり、穂乃果は男嫌いを拗らせた上、僕をまるでゴキブリでも見るかのような嫌悪に満ち満ちた瞳で見るようになるに違いない。
そんな不安とも今日でおサラバだ!
──穂乃果は案の定、今日も僕の部屋に来ていた。
「おかえ……──」
そして、ミッチーを見て固まった。
不意打ちなので驚かせてしまったが、これは想定内だ。
「こんにちは、お邪魔してます」
コミュ強ミッチーのナイスアシスト!
出会い頭イケメンスマイルでの自然、且つ爽やかな挨拶。……これにときめかない女子はいない。
(ふふふ……全ては計画通り……)
僕の眼鏡もそりゃあもう、鈍く光るというものだ。
「 ……タケくん、妹さん?」
「ううん、紹介するよミッチー。 この子は」
「──……です」
人見知りの穂乃果が、促すまでもなく自己紹介を……!
(これはイケる!!)
そう思った、瞬間だった。
「私……タケの彼女です!」
穂乃果はなんかとんでもないことを言い出していた。