①幸運すぎる僕の秘密
──僕には秘密がある。
「武くん、おっはよ~!」
「ミッチー」
僕はラノベの男子向け恋愛小説が好きだ。
だが、コレは秘密ではない。
高校までは自らがオタクであることを隠していた僕だったが、イケメン文武両道おまけに金持ちというハイスペックオタクの、ミッチーこと金光くんと出会ってからは隠す必要がなくなった。
ミッチーに近付きたくてラノベを読み、ラノベ好きになった人が多くいるからだ。
お陰でコソコソしなくて済むようになった。
「これ読んで!!」
「わぁ! これ明日発売の新刊?!」
「レーベル買いしてるせいか、一日早く届いたんだよ。 明日語り合おうぜ!」
レーベル買いとか、セレブ。
そして嫌味も惜しげも無く貸してくれる優しさ。
決して国民的アニメに出てくる金持ちのような、『ひけらかすだけひけらかして、貸さない』みたいな真似はしない。
彼は純粋に、僕とラノベの内容について早く語り合いたいのだ。
なんて爽やかオタクだ。
しかもイケメン。
笑顔が眩しい……その笑顔、プライスレス。
本人は『金光』という名がいかにも金持ちっぽくて気に入らないらしい。
そんなこと言うの性格の悪い小学生くらいだと思うが、実際、性格の悪い小学生みたいなやつは結構いる。
実際、僕の名前は『茂木 武』だが『略してモブ』などと影で言われている。
だが、否定はしない。
そう、僕にはなにも秀でた所がない。
成績は辛うじて上の下だが、それも運動ができないからその分頑張って上の下。
どちらかというと小柄で、小柄だがピリリと辛いなどということもなく、大人しく目立たない存在であると言える。
まさに群衆──完全に名が体を表している。
そんな僕が人より優れているのは、ひとえに運だと思う。
ミッチーとの出会いも然り。
親は穏やかな性格で、金持ちではないが堅実で『お金の心配はするな、私立の大学でも構わないから好きなことをしなさい』などと言ってくれる。
親ガチャで言うなら完全に勝者。
大人しい僕は軽度のイジメにはあったこともあるが、酷い暴力や搾取、また悪の道へ引き摺りこまれるといったこともなく、概ね順調に日々を過ごしている。
しかしこの程度の運の良さで、人より優れていると言っているわけではない。
僕の『運の良さ』を体現しているといっていい人物がいる。
……それこそが僕の秘密なのである。
「おかえり~。 穂乃果ちゃん、来てるわよ」
家に帰ると、早速秘密が待ち受けていた。
お隣の榊 穂乃果。
僕の超絶ハイスペック幼馴染である。