プロローグ
読み方
発言者 「」普通の会話
発言者 ()心の声、システムメッセージ
発言者 <>呪文
『』キーワード
魔人が治める国、クリシェラル王国の王城では、王女ミリア、15歳の誕生パーティーが開かれていた。この国では15歳で成人とみなす為、パーティーは彼女の成人式も兼ねていた。すでに主役の挨拶は終わり、各自歓談を行う時間になっていた。貴族たちはそれぞれ親睦を深める為に酒を飲みつつ話し込んでいた。
パーティー会場にはテラスがあり、その場所に二人の男女が立っていた。二人は向かいあって立ち、会話をしていた。
女性の名前はミリア・クリシェラル。このパーティーの主役だった。赤い目と黒い髪、黒髪は腰までまっすぐに伸ばし黒い絹の様だった。純白のドレスを身にまとい。その姿は夜の女神の様だった。ただし、彼女は人間ではなく魔人だった。その証に額には1本の角が生えていた。
男性の名前はアラン・シェード。この国の騎士だった。彼は人間で黒目黒髪のどこにでも居そうな中年だった。歳は30歳だが、見た目は20代に見えた。髪型はショートボブで、服は黒いタキシードを着ていた。
ミリア (この日の為に用意したドレス。ちゃんとウエディングドレスの様に見えてるかな?私からのメッセージ、アランに届いてるかな?)
ミリア 「どう?このドレス綺麗でしょ」
ミリア (まるで、ウェディングドレスの様でしょ?)
アラン (まるで、ウェディングドレスのようだな……。ミリア様が言って欲しそうな言葉は分かる。だが……)
アラン 「良く似合っていますよ。とても綺麗です」
アラン (ミリア様は美しくなられた。私の様な男では釣り合わない。幼き頃の約束で彼女を縛ってはいけない。ウエディングドレスの様な純白のドレスを選んだのは、たまたまだろう。おごってはいけない。私は殺しが得意なだけの騎士で、彼女の様な素敵な女性を幸せに出来るような男ではない)
ミリア (あ、何か悩んで、勝手に結論出した顔だ……。そんなのお見通しなんだから……)
ミリア 「以前、私はあなたに告白をしました。あなたのお嫁さんにしてくださいと、覚えていますか?」
アラン 「そういう事もありましたね」
ミリア 「その時、あなたが何を言ったのか、覚えていますか?」
アラン 「忘れました」
アラン (これで、嫌われるのなら、それでいい)
ミリア 「嘘つき、忘れたのなら、なんで今でも独身なんですか?今まで縁談は数えきれないぐらいに持ち込まれていたでしょう?」
アラン 「私は殺すしか能がない人間です。血塗られた手で誰を幸せに出来るでしょう」
ミリア 「違います。あなたは殺す事で多くの民を救いました。暴君であったオールエンド帝国のバネロを討った。私の父上と母上が勇者に殺されることを防ぎ、オールエンド帝国で虐げられていた民を救いました。それは、あなたが強かったからです」
アラン 「私は、咎人です。誰かを殺して得られる幸福などあってはならないのです」
ミリア 「それは、自分の利益の為にそうした者は、そうだと思います。ですが、あなたは違います。勇者を降した時も、バロネを討った時も、あなたは何も望まなかった。私は知っています。あなたは民の為に、その手を汚したのだと……。だから、お願いです。どうか、私と結婚してくれませんか?」
ミリアは懇願するようにアランの目を見た。
アラン 「私は、30のおっさんです。あなたに相応しくない」
ミリア 「私のお願いをこれ以上拒絶するのは、侮辱だと思いませんか?」
ミリアの目には涙がうかんでいた。ミリアはスカートの裾を握りしめて、涙をこらえて訴えていた。
アラン (ここまで、私を想ってくれているのか……)
アラン 「分かりました。約束でしたし、お受けいたします」
ミリア (ここまで女の子に言わせておいて、そのセリフは無いでしょう!)
ミリア 「ダメです。やり直しです。その言い方だと、約束だから仕方なく結婚するように聞こえます。私の事を愛していますか?」
アラン (そうだな、言い方が悪かった)
アラン 「愛しております。あなたの笑顔を守る事が私の生きる理由です。これからも、あなたをお守りします。そして、この世の誰よりも幸せにします。ですから、私と結婚してください」
ミリア 「分かりました。喜んで、お受けいたします」
ミリアは嬉しそうに笑って応えた。
ミリア 「さあ、行きましょう。お父様に許しを得なければなりません」
アラン 「そうですね。その時は、私から陛下にお伝えします」
ミリア 「頼みますね」
アラン 「陛下は許してくださるでしょうか?」
ミリア 「さあ、どうでしょう?」
アラン 「ミリア様はお人が悪いですね」
ミリア 「あなたがいけないんですよ。約束を忘れたふりをするし、私を好きなのに結婚できないって言うんですもの。私が、どれだけ傷ついたか、どれだけ勇気がいったと思っているんですか?私が苦しんだ分、あなたも苦しむべきです」
アラン 「手厳しいですね。ですが、良いでしょう。陛下が反対されたら、一生懸命説得いたします。あなたが、そうしてくれたように……」
ミリア 「お願いしますね。未来の旦那様」
そう言ってミリアはアランの手を取って自分の父親の元へ向かった。これは、ミリアとアランが幸せな結婚をするまでの物語。