仮面卿
読み方
発言者 「」普通の会話
発言者 ()心の声、システムメッセージ
発言者 <>呪文
『』キーワード
魔王城の包囲網を脱出したマリーはミリアを連れて、約束の地『マークスの町』にたどり着いた。この町は、オールエンド帝国とクリシェラル王国の国境から反対方向にある寂れた町だった。辺境という言葉がぴったりの町には魔族と亜人が多く、人間の姿は無かった。マリーは宿に泊まり、約束の日を待っていた。
ミリア 「ねぇ、マリー。お父様とお母様はいつ来るの?」
マリー 「ミリア様。明日になればきっと会えます。それまで、我慢できますか?」
ミリア 「うん。我慢する。明日が楽しみ」
マリー (魔王城が陥落してから1カ月、明日が約束の日だけど、セト様かイリア様が来てくださればミリア様もまだ救われる)
マークスの町には公園があり、公園の中には噴水があった。この場所が、セトが定めた約束の場所だった。魔王城から逃げ、この場所に集合し再起を計る予定だった。
約束の日、マリーはミリアを連れて噴水前で待っていた。噴水前には、マリーとミリア以外にも人が居た。だが、そこにはセトもイリアも六魔公の姿も無かった。そんな時、マリーとミリアに一人の男が近づいてきた。その男は顔の上半分を仮面で隠していた。その仮面はピエロの仮面だった。右目から大粒の涙が落ちているピエロの仮面だった。
服装は、道化というよりは貴族の様な格好だった。白いタキシードに赤いマントを身につけていた。武器の類は持っていなかった。仮面の男は、ミリアの前まで移動するとひざまずいて話しかけた。
仮面卿 「初めまして、私は仮面卿と申します。あなたの父上の依頼で、あなたの願いを叶えるために馳せ参じました」
マリー 「ミリア様!お気を付けください。私はこの者を知りません」
マリーは突然現れた正体不明の仮面の男を不審に思った。マリーは護身用の短剣を抜き放ち、ミリアと仮面卿の間に立ちふさがった。
仮面卿 「そうですね。ただで信じろとは言いません。忠誠の証をお見せしましょう」
仮面卿 <リクエスト、コントラクト、マイン、ソウル、ゼロ、オビィーディエンス>
仮面卿 「ミリア様、絶対の服従を誓います。よろしければアプルーブルとおっしゃって下さい」
マリー 「正気か貴様!自ら奴隷となるというのか?」
仮面卿 「そうしなければ信用できないでしょう?」
マリー 「なぜ、そこまでする?」
仮面卿 「セト陛下には、返しきれない恩があるのです。それこそ、この命を捧げても返しきれないほどの恩です。その陛下からミリア様を頼むと言われました。訳あって正体を明かす事は出来ませんが、隷属の契約を持って信頼していただけませんか?」
マリー 「そこまでするのであれば信用しましょう。ミリア様、仮面卿の言うとおりに」
ミリア <アプルーブル>
ミリアが承認すると、仮面卿の首に首輪の様な魔方陣が浮かび上がり、光を放って漆黒の首輪になった。
仮面卿 「契約は成立しました。これで、私はミリア様を傷つけることが出来なくなり、命令には絶対逆らえなくなりました」
マリー 「では、ミリア様。仮面卿に御命令をお願いします。正体を明かせと……」
ミリア 「そなたの正体を明かして欲しい」
仮面卿 「その命令には従えません。私は呪いを受けています」
マリー 「馬鹿な、どんな呪いだ」
仮面卿 「ある条件を満たさない限り、私は、私の正体を話す事が出来ないのです」
マリー 「その条件とはなんだ?」
仮面卿 「それも話す事が出来ません」
マリー 「その呪い。隷属の契約に縛られないのか?」
仮面卿 「隷属の契約に違反した場合、首輪が締まり全身を激痛が襲います。ですが、それは意図的に主に逆らった場合に限ります。この呪いは私の意思ではどうしようも出来ないので、命令違反には当たりません」
マリー 「そうか、分かった。正体を明らかにするのは諦めよう。協力者は必要だ。それで、貴殿は戦えるのか?」
仮面卿 「もちろんです」
仮面卿が合流した後、マリーはセト、イリア、六魔公が現れる事を期待していた。しかし、夜になっても誰も現れなかった。
ミリア 「マリー、お父様とお母様は?」
マリー 「何か事情があって来られなかったのでしょう。今日はもう宿に戻って休みましょう」
ミリアはうつむいて泣きそうになっていた。
仮面卿 「ミリア様、泣いてはいけません。セト様とイリア様が悲しみます」
ミリア 「でも、寂しい……」
仮面卿 「大丈夫ですよ。きっと会えます」
そう言って仮面卿は優しくミリアの頭を撫でた。
ミリア 「うん」
ミリアは、仮面卿の言葉を信じた。
宿に戻り、ミリアを寝かしつけるとマリーは仮面卿を酒場に呼び出し、テーブルに座って話を始めた。
マリー 「仮面卿、貴殿は国王陛下と王妃殿下がどうなったか知っているか?」
仮面卿 「知っている。これから話す事はミリア様には伝えないでくれ」
マリー 「分かった」
マリー (そうか、ダメだったか……)
仮面卿 「セト様は勇者に討たれ、イリア様は竜人に討ち取られた」
マリー 「それは、確かな情報なのか?」
仮面卿 「残念ながら事実だ」
マリー 「六魔公はどうなった?」
仮面卿 「不死公と守護公は捕らわれ、他は逃げたようだが、追手がかかっている。ここへは来られないと思う」
マリー 「思ったよりも状況は悪いようだな……。いったいどうすれば……」
マリーは、このまま町で待つべきか、ミリアを帝国以外の国に亡命させるべきか悩んでいた。
仮面卿 「ミリア様に、どうしたいか聞こう」
マリー 「正気か?ミリア様は5歳だぞ?政治的な判断など出来るわけないだろう?」
仮面卿 「だから良いのだ。私はミリア様の願いを叶えるためだけに存在している。何を望んだとしても、全て叶えて差し上げるつもりだ」
マリー 「一番の望みはセト様とイリア様の蘇生だろう。貴殿にそれが出来ると?」
仮面卿 「出来ないな、それを望まれたら、私は神か悪魔に会いに行かねばならない」
マリー 「馬鹿げてる。それを望まれるかもしれないと分かっていて隷属の契約を結んだのか?」
仮面卿 「無論だ。私は罪を犯した。償うには、それしかないと分かったうえで契約した」
マリー 「罪?」
仮面卿 「君には関係のない事だ。とにかく、明日、ミリア様がどうしたいのか聞いてみよう」
翌朝、ミリアが朝食を終えると、仮面卿は宿の外でミリアに跪いて質問をした。
仮面卿 「ミリア様、このまま待っていてもセト様もイリア様にも会う事は叶いません。いかがいたしましょう」
ミリア 「どうして?なんでお父様とお母様は来てくれないの?」
仮面卿 「悪者がセト様から城を奪ったからです」
ミリア 「じゃあ、お城を取り返せばお父様とお母様に会える?」
仮面卿 「約束は出来ませんが、会える可能性はゼロではなくなります」
マリー (おかしい。仮面卿はミリア様に嘘を言えないはずだ……。死者を生き返らせるなんて神か悪魔にしか出来ない。つまり、神か悪魔に会う手段を持っていない限り不可能なのだ。だから、仮面卿はどちらかに会う方法を知っている事になる。そして、城を取り戻す事が神か悪魔に会う条件になっている。仮面卿は一体何者だ?何を知っている?)
ミリア 「じゃあ、お願い。お城を取り戻して」
仮面卿 「御意」