根暗な僕とお節介な美少女
行き詰まったので少し気分転換に書きました。
題名が前の作品と似ているのは気のせいです。
よろしくお願いします。
「はぁ、きっと僕がいなくなっても誰も悲しまないよね」
呟いた言葉は誰かに届くことなく、晴天の空へと飲み込まれていく。
高校生、大人になって振り返ってみれば皆、あの頃の、懐かしき青春時代に戻りたいと言う。何がいいんだと僕は思う。僕はきっと大人になっても懐かしむことはないと思う。
何故ならこんなの僕にとっては地獄だから。
僕の両親だってそうだ。お父さんとお母さんは家の近所の
幼なじみだったそうだ。だから、2人は高校生の時は
こーだったねーっとか、あの頃君と付き合うのにどれだけ
苦労したか、とか2人で結論青春だったよねーとか仲睦まじく話している。
中学の頃はきっと高校生になったらと思ってたけど......
そういえば小学生の時も中学生になったらなんて同じこと
思ってたような気がする。
高校生に少なからずの淡い期待をしていた僕は、環境が
変われば自分を変えることができるかもなんて思って地元
から遠い高校を受験した。
でもきっと僕は環境のせいにしてただけで環境が変わっても僕の本質が変わるわけではない。
頑張ろうと思っても女子と喋ろうとすると何喋っていいか
分からなくなって、しまいには黙ってしまう。
元々頭がいいわけでもなく、特に理数が苦手なこともあり
授業中に当てられた最後だ。
終始、黙ってしまい、振り出した言葉は、
「わ、わかりません...」
その言葉すら先生に届くことはなく、
「先生ー、根暗くん。わからないみたいですー」
「ね、根島です...」
隣の席の子がそう代弁してくれると、クラスでは笑いが
起きる。
入学して早1ヶ月。僕の名前は本名である根島陸という名前は忘れられ、というか呼ばれたことはあっただろうか。
気づけば根暗くん、地味男、前髪がパッツンで身長も男子にしては低いことから座敷童子、ついには勉強のできない
ガリ勉なんて、本人の知らないところでレパートリーだけは豊富になっていた。
なんなら最後のはもはや悪口だ。
表向きにいじめられることはなかった。
けれども、
「根暗くーん、今日の掃除当番変わってよー」
「お、え、でも」
「ありがとうー!じゃあよろしくねー!」
そう言ってちりとりに雑巾、ホウキが僕の足元に投げられる。
掃除当番はその日の日直がするはずだったのに、気づけば僕の放課後の日課になっていた。
それだけではない。体育のペアを組む時だ。
「おーい、みんな今日は2人1組で体力テストするぞー」
そもそもが男子15人と言う奇数だ。1人余るのは当然といえば当然。そしてその余が僕になるのも必然だった。
「余ったのは、、、ねく、根島か。よし、なら先生と組むか」
先生、根島です。根暗って言いかけましたよね。
いや、そしてまたこれがまたきつい。この先生はデリカシーというものを合わせ持ってなく、元々運動が得意ではない僕が体力テストの説明に使われる。
長座体前屈だって25センチ、幅跳びは1メール20センチ、
上体おこしは14回、反復横跳びは30回と、平均以下をたたき出し、遂にはお前はもう少し頑張れとありがたくない激励
まで先生からもらってしまって、みんなからは平均以下の
根暗くんなんていうあだ名のレベルアップまで食らってしまった。
別に高校デビューしたかったわけではなく普通に過ごしたかっただけなのに気づけば僕はクラスに1人はいる、馬鹿に
する、いや見下せる人、そしてなんでも押し付けれる位置
づけになってしまった。
そして最後に、この1ヶ月で3回ほどの告白を受けた。
それだけを聞くと、なんだ、結局顔はいいのかよとか今までのフリかよなんて思われてしまうかもしれない。でもどうか安心して欲しい。全てが罰ゲームによるものだ。
そしてそれを僕は罰ゲームだとは気づかないままに全て拒否してしまった。
素直に告白されたなんては思ってなかったけど、女子に
いきなり好きと言われてただでさえ女子と喋ると緊張して
しまう僕がまともに答えられるはずない。
「あ、あのすみません。あなたのこと知らないので」
という拒否から始まり、
罰ゲームで断れるのも嫌な人たちはしつこく、
「1日だけ!お願いだから1日だけデートしよ」
と言われたら、
「す、すみません。タイプじゃないんです」
と知らない間に相手のメンタルはズタボロになったみたいで、余りのことに告白してきた相手はガン泣き。周りの取り巻きからは女の子を泣かせるのは最低だ、偽の告白につけ
上がるなと逆キレされる始末。
最悪だったのが、不本意ながら泣かせてしまった?女の子のことを好きな男子が割と高校カーストが高かったこと。
次の日に教室に入った瞬間、いきなり殴りかかられ、
「二度とあいつには近づくな」
と捨て台詞を吐かれ、周りからは流石と言わんばかりに僕を殴った後の彼に寄ってたかる。
その様子は拍手喝采と言わんばかりだ。
これは僕が悪いのかなんて授業中、真面目に考えもしたが
僕は自分で自分が悪い原因を導き出せなかった。
強いて言うなら生きてること自体がダメなのか。
高校生活とはカーストが命だ。一度見下されてしまえば
余程のことがない限り3年間ひたすら底辺で生きていく
しかない。
そんなことを思うと、自分の存在意義が分から無くなって
しまい、今のような情けない言葉がつい口から出てしまう。
「ねえ、今1人?」
驚いて振り返ると、ほんのり茶色がかった髪色にミディアムくらいの長さの髪を靡かせた、目は綺麗な二重と綺麗な鼻筋が特徴的な、おそらく世間で美少女と言われるような少女が僕をどうやら呼んでいるようだった。
「ぼ、僕のことですよね?ひ、1人です」
その言葉に満足してか、彼女は持ち前の美貌を十二分に
使った笑顔で、
「ならちょうどよかった。あんた私とさ、付き合わない?」
僕にそう告げた。
「え?」
「だからさ、私と付き合わないかって聞いてるの」
「だ、誰と誰がですか?」
「あーもうイライラする!だから!私はあんたに付き合おうって言ってるの!」
なんとなく理解してきた。
目の前にいる美少女はどうやら僕と男女交際をしようと
言ってきているようだった。
はぁ、また罰ゲームか。
何故だか分からないけどこれまでの罰ゲームをしていた人
たちとは彼女の雰囲気が違った気がしたが、おそらく
罰ゲームで間違い無いだろう。
僕はそう結論づけた。
「ご、ごめんなさい。き、気持ちはありがたいんですけど...え、えーとごめんなさい」
前回の失敗を活かして僕としては精一杯の最大限に丁重な
お断りしたつもりだった。
「絶対にそう言うと思った。あんたさぁ、3年間このままでいいわけ?」
彼女は唐突に僕にそう告げる。
このままでいいかって?
僕だって本当はこのままでいいなんて思ってるわけないじゃ無いか。
でもどうすることもできないじゃないか。
「うん、このままでいいなんて思ってるわけないって顔してるね!よかったよかった」
僕にはこの少女が何が言いたいかイマイチまだピンときてはいなかった。
「だからさ、私とあんたが付き合う。私顔だけは美人だからさ、私と付き合ったなんて噂が立てば底辺から抜け出せるってわけ」
「う、うん」
「ドウユーアンダースタンド?」
「で、でも君はぼ、僕のことを本当で好きってわけじゃないんですよね?」
「うん、もちろん。ウジウジしてるし、自分の意見もまともにいえないし、何考えてるかわからないし、地味だし、自信ないですって態度に出ちゃってるところとか全部嫌い、てかどうしよう好きなところないかも」
告白してきたのあなたなんですが?
そんなことを思ったが口に出せる度胸はあいにく持ち合わせてはなかった。
けれども、一つ一つが立派な悪口ではあったが、初めて面と向かってはっきり言われたからか、僕にそれらをいう彼女の表情からなのか不思議と今までほど嫌な気分はしなかった。
決して、美少女に罵倒されるという趣味はないし、ドMではないと自分では信じてる。
「じゃ、じゃあどうしてですか?」
「なんでかな?私にもわからない。こんなお節介なことしたくないんだけどさ、見ててイライラするから。あんたを揶揄ってる奴らも、あんた自身のことも」
「だから私が底辺抜け出す手伝いしてやるよ」
「え、えーと、だからつまり?」
「はぁ、本当物分かり悪いねあんた!今日から私とあんたは彼氏と彼女、つまりはカップル!わかったか!」
「は、はい!」
「よし!最初からそう言えばいいんだよ。ほら、こんなところにいつまでもいないでさっさと帰るよ!......根島!」
彼女、名前を教えてもらうのはもう少し先の話になるのだけど、柚月莉緒、彼女が高校に入って僕の名前を初めて呼んでくれた最初の1人だった。
そして、僕はどうやら無理やり強引、それも形だけではあるが、美少女と付き合う、つまりはリア充の仲間入りとなったらしい。
ここから先、僕の周りで彼女によって色んなことが起こるのだが、それはまた別の話。
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