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17話 魔導図書館

 用事を終えて馬小屋に戻り、まだ寝ていたラフィネとレティを叩き起こしてから、俺たちは魔導図書館へと向かった。


 魔導図書館は特殊な方法で入る必要があるので、許可証を持った魔導機関の職員も一緒だ。


 本来ならアルディが来るはずだったんだけども、何やら急遽、魔導機関のお偉いさん同士での話し合いが入ってしまったんだとか。


 そんなこんなで俺たちはいま、魔導図書館の中にいた。


「……初めて来た。すごい」


「い、いったい何冊あるんでしょう……」


「おおー、本がうごいてる!」


 はしゃぎまくるラフィネたち。初めて見た光景に興奮しているのか、落ち着き無く辺りを見回している。


 見渡す限り本だらけ。四方八方でかい本棚がいくつも立ち並び、魔導書が生き物のように宙に浮かんでいる。目を凝らせば、本棚の中の本も勝手に動いて何やら遊んでいるような動きをしているのがわかる。


 魔導図書館の別名は――"意志を持った図書館"。


 その名の通り、本の一つ一つに意志が宿っていて、まるで生き物のように動き出す。驚きなのが、魔導書でもない何の変哲のなかった本でも、この図書館に来れば意志を持って動き出すということだ。


 その原理は、この空間全体を包み込む特殊な魔力によるもの。

 外界と隔絶された空間――異界であるここは、作り出した術者の魔法式により明確なルールを持って管理されている。

 守らないものは図書館を守る自動人形の"守護者"によって攻撃され、魔導図書館を退出するまで延々と追い掛け回される。ちなみにめっちゃ強い。


 俺も昔、数回だけ来たことがある。

 その時はまあ、正規の手段を使わず入ったからもちろん攻撃されまくった。むしろ喜んだ俺が守護者をぶっ壊しすぎて、そのうち出てこなくなって館長を名乗る変な女が苦情を入れに来たりした。たぶん5000体くらいだった気がする。


 さらに、その蔵書数はなんと数え切れないほどあるという。

 この世のあるとあらゆる本が集まる場所、と言われているのも納得できるほどに、色んなジャンルの本が蔵書されている。一般的な魔法の指南書から、最上級魔法、帝級魔法まで。


「……こ、こんな……え、え――」

「……おい」


 更に、少し過激でアダルトな内容の本まで揃えているというレパートリーの多さだ。黙って隅で読んでいたイヴの目が釘付けになってしまうほど。もちろん取り上げたよ?


 とまあ、こんな感じで本なら何でもある。それゆえに、情報を集めるには持って来いの場所だ。ここに無いなら多分他にもないと思う。


「じゃあ事前に言っておいた通り、まずはアルディからの依頼を終わらせる。いいか?」


 俺は空に浮いた本に飛び移ろうとしたレティの頭を掴んで止めながら、そう言った。


「依頼は指定された本を捜すことだ。制限時間は今日の夕刻まで。このリストにある本のなかから、できる限り見つけて欲しいらしい」


 言って、ヤバい本ばかりが列挙されたリストを掲げる。


 これが今回、魔導図書館に入るための条件だった。魔導図書館は一般公開されているとはいえ、それはごく一部の区画のみ。いま俺たちがいる、重要度が高い場所へは限られた人物しか入ることができないのだ。


 今回、俺はてっきりアルディが申請できると思っていたのだができなかったらしく、それより上の魔導機関のお偉いさん(めっちゃ偉い人らしい)にアルディがお願いをして、『じゃあ本を捜してきてくれればいいよ』という条件で許可を貰ってくれた。


 なので周りは俺たち以外、見える範囲には誰も居ない。ほぼ貸し切りである。


「見て貰ったとおり、ヤバい本ばかりだ。それに加えて、魔導図書館の本は動き回る。この数のなか探すのはそうとう難しい」


 探知魔法を使ったとしても、魔力も無い本から探し出すのは至難の業。ある学者が魔法を使わず目視だけで目的の本を捜そうとして、数年かかったという逸話もある。


 だから、もし探そうとするなら探知魔法を習得した魔導士が何十人も必要だ。お金もかかるし、時間もかかる。とてもじゃないが俺には出せる金じゃない。する気もない。


「……で、ここからが本題なんだが」


 と、説明をしたあとに、俺はそう切り出して。


「四人でまとまって動くのもアレだし、別行動に――」

「嫌です!」「やだ」「いやだ!」


 秒速で拒否された。おおぉい。


「いやいや、まてまてまて。こっちの方が合理的なんだって。ほら、よく考えてみ? それぞれ別れて探した方が早く終わるだろ?」


「そうだけど、おかしい。何か裏がありそう」


「うっ」


「それに、別に全部を見つける必要はないんですよね? むしろ一つも見つからなくてもいい、とアルディさんからお聞きしましたが」


「ぐぐぐ……」


 穴をつかれ、狼狽する俺。集まる疑いの視線。


 くそ、まさかアルディから聞いていたとは。実はこの依頼が形だけのものだとバレてしまったじゃないか。ちくしょう。


 ……こうなってしまった以上、仕方ない。プランCだ。


「……じゃあ、勝負ってのはどうだ。それぞれ別れて、一番多く本を見つけれたやつが一番少なかったやつに命令をしていい。どう――」

「やります」「やる」「やるぞ!」


秒速で許可された。目がすっごいやる気に燃えてる。


「その、お願いすることは何でもいいんですか?」


「あ、ああ。まあでも常識の範囲内でな」


 答えると、「何でも、ジレイ様に何でも――」「レイと一緒にデート、そのあと一緒に――」「ししょーをパーティーに――」と、それぞれが俺に命令する前提で話していた。俺が負けること確定で話すな。


「探す手段としては、基本的には何をしても構わないが……ラフィネ」


「はい? 何ですか?」


「千里眼は禁止だ。分かったな」


 言うと、ラフィネはコクリと頷く。


「……分かりました。ずるいですからね」


「そうじゃない。霊草のときに使ってから、まだ魔力が回復してないだろ」


 俺の言葉に、ラフィネは少し驚いたように目を丸くして。


「……はい。ありがとうございます」


 と、嬉しそうな顔で優しく微笑んだ。


 よし、これでいい。千里眼は繊細な魔力操作で疲れるのもそうだが、何よりも魔力を多く使う。いくら魔力が多いラフィネとはいえ、高頻度の行使は身体への負担が大きい。ぶっ倒れられても困るからな。


「……ずるい」


 俺が満足していると、なぜかイヴがわずかに頬を膨らませてそう言って来た。はあ?


 ずるいって、むしろずるくなくなると思うんだが……。


 ふふんと自慢げにドヤ顔するラフィネとなぜか悔しがるイヴ。よく分からん。


「ふふ……ジレイ様と二人きりになる権利を貰うのは私です!」


「うるさい。勝つのはわたし。レイと大人のデートする」


「わたしも頑張るぞ! 魔王をししょーと倒すために! おおー!」


 それぞれ、やる気は万全のようだ。わちゃわちゃと楽しそうである。


「……よし」


 俺が負けるのを前提で話しているのはさておき、これで別行動ができるようになった。本来の目的のために動くことができるな。


 その後、俺たちは集合場所と時間だけを決めて、散らばるように別れた。


 ラフィネたちはリストの本を捜すために、探知魔法を使ったりしてせわしなく動いている。

 が、俺は探すことはせず、ある場所に向かって足を進めていた。


「俺が負ける? くく……そんな訳ないだろうに」


 ラフィネたちは勝つ気満々で話していたが、そもそも論、俺が何の対策もせずにあんな事を口走ったと思うだろうか? この天才の俺が??


 否、そんなわけない。もちろん、俺は勝つつもりしかない。


 悪い笑みを浮かべて歩き続けること数分、目的の場所に到着した。


 それは、魔導図書館の広い階層を繋ぐ螺旋階段。ここを上がっていけば別の階層に出ることができる。


 ラフィネたちも知っているだろう。事前に説明をしたし。それが俺の罠だとも知らずにな。


 俺はそのまま、螺旋階段……別名"無限階段"を上がり――


 ――は、しなかった。


 逆に、上がる階段の反対側、何もない床だけの空間へ足を進めた。


 ここは1階。下る階段は無く、そこは何の変哲も無い床。だが、俺は知っている――"この先"があることに。


 しゃがみ、床に手をつく。そして、わずかに魔力を込める。


 すると。


 ギギギ……と鳴る音と共に、床がズレ始める。カラクリが動きだしたのだ。


「くくく……」


 開いた床の先、出現した下へ降りる階段をくだりながら、俺はニヤリと口を歪ませる。


 俺に勝つ? 甘い甘い、俺がそう簡単に勝たせるわけがないだろうに。


 俺はそのまま下っていく。勝利の確信を持って、確かな足取りで。


「――ああ、君かね。ずいぶんと久しい」


 目的の場所についた俺に、椅子に腰掛けていたその人物は振り返り、声をかけた。


 長い金髪を後ろにまとめ、ふわっと一つに束ねている髪型に、紫色の瞳。


 服装は真っ白な白衣。だが、その小さな体躯にはサイズが合っておらず、だぼっとゆるく着ているせいで、手が裾で完全に隠れてしまっている。


 顔には特徴的なモノクルを装着していて、手には貫禄のある老紳士が持ってそうなキセルでぷかぷと煙を噴かしている。どう見ても似合ってない。


 俺が考えたのは簡単だ。このクソ広い図書館内で探すなんてことをするよりも、この場所を誰よりも深く知っていて、どの本の場所も分かる人物に聞いた方が手っ取り早い。


 つまり――


「まあ、ゆっくりしていきたまえ。ずっと居てくれても構わないがね?」


 館長を名乗る、この変な女――フランチェスカに聞けばいい、ということである。

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