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8話 アイテムボックス

「どうしてって言われても……ただ覚えただけだけど」


 次元魔法は確かに習得が難しい魔法だ。でも異空間収納(アイテムボックス)は魔力さえあれば、売っているスクロールを使って誰でも習得することができる。そこまで驚く魔法でもないだろう。


「……もしかして、どこかのギルドに所属しているポーターだったんですか? それなら冒険者ランクが低いのも納得できます」


「いや、違うけど」


 そう答えると、フィナは考え込むように俯き、「だとすると……まさか、何も考えずに習得したとか? 異常な観察眼を持っているのに? そんなはずは……」とか呟いていた。


「別に、そんな驚くことじゃないと思うが……?」


 不思議そうにそう聞くと、


亜空間収納(アイテムボックス)は習得こそ簡単だが、使用に膨大な魔力を消費する。それだけで魔力欠乏症になってしまうほどにな。覚えているだけで常に魔力を消費するし、普通の冒険者であれば絶対に習得しない。だから専属のポーターか魔力量がかなり多い魔法使いくらいしか習得していないんだが……まさか、知らなかったのか?」


 護衛の仮面女が呆れた様子で言った。いや初耳なんだが。そんなこと露店のオッサンは言ってなかったぞ。なぜか大幅安になっていて売るときにオッサンの笑顔が引きつっていたけどまさかね……。


 視線を向けると、フィナは気まずそうにふいっと顔を逸らす。話を聞いていた冒険者たちの方を振り向くも、気の毒そうに顔を逸らされる。レティだけはよく分かってなくて「師匠凄い!」ってキラキラした眼で見ていた。


「ま、まあ他の魔法が使えなくても、亜空間収納(アイテムボックス)を使えるなら容量次第で重宝されますし……強く生きてください」


 フィナはかわいそうなものを見る眼でこちらを見てくる。いや、他の魔法も普通に使えるんだけど。


「別に他の魔法も使え――」


「そ、それよりこのお菓子、あの『シャルテット』の高級お菓子じゃないですか! 発売後すぐに品切れするほど人気なのに、よく手に入れられましたね!」


 俺が他の魔法も使えると言おうとすると、露骨に話題を変えるフィナ。


「あー、実は知り合いが勤めててな。定期的に送られてくるんだよ。あんまり甘いの好きじゃないからもういらないって言ったんだけどな」


「なるほど……羨ましいです。王城――じゃなくて、有名な貴族でもなかなか手に入らないんですよ。ほんと、いいなぁ……」


 フィナは、うさぎを形どった飴細工のお菓子をうっとりと眺め、嘆息した。


「そんなに欲しいなら、他にもいっぱいあるぞ? 夕食もご馳走になったし、やるよ。感想も聞かせて欲しいし」


 そのままだと眺めるまま一向に食べそうになかったので、他にも亜空間収納(アイテムボックスから取り出し、手渡す。


 フィナは目をキラキラとさせ、「あ、ありがとうございます! 大事にします!」と喜んでくれた。いや食べてね?


「…………じー」


 夕食のお返しもしたし、これで貸し借りなしだなと満足していると、周りから視線を感じた。


 振り返ってみると、物欲しそうにしているレティの姿。勇者パーティーの二人もチラチラと見ていて気になっているようだ。


 俺は新しいお菓子を取り出し、


「……いるか?」


 と差し出す。


 レティはぱぁぁっと花が咲くような満面の笑顔になり、お菓子に飛びついた。

 勇者パーティーの二人も「しょ、しょうがないから貰ってあげる」「……ありがと」と喜んでくれた様子。


 せっかくだしと他の冒険者にも配ると、なんかめちゃくちゃ感謝された。「こんな旨いお菓子食べたことないぞ!」「口の中に入れた瞬間溶けて消える……これが『本物』か……!」とかなんとか言っていた。


「あ、お前もいる? おいしいぞ?」


 みんなが高級お菓子に舌鼓を打つ中、一人だけ――カインだけ食べていなかったので、目の前まで行って渡した。


「……うるさい」


 しかし、カインはうつむいたまま項垂れるだけでこちらを見ようともしない。さっき喧嘩したからふてくされてるのだろう。フィナが灸をすえてくれたし、俺としては水に流したいんだが……。


「いらなかったら捨ててもいいからさ、ここ置いとくわ」


 俺はカインの傍にお菓子を置き、「食べたら感想よろしく」とだけ言って立ち去る。


 月に何回か送られてくるお菓子を処分できて俺もハッピー、みんなも嬉しくてハッピーで最高の結果になった。


 シャルからの手紙に「感想教えてね!」と書かれてたから、これでみんなに感想を聞けば任務完了である。そういえば「感想は手紙じゃなくて口頭で教えて! 遊びに来て!」と書いてあったけど、めんどくさいから手紙でいいや。たぶん大丈夫でしょ。


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