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14話 赤髪の勇者②

『――ルーカス小隊長。我が騎士団の騎士、更に勇者として君には期待している。無事、依頼を遂行してくれたまえ』


『はい、お任せ下さい』


 場面は切り替わり、騎士団長と思われる男に激励を受けている光景が映った。


 士気が高いのか、少年の目はやる気に満ちあふれていて、何があっても期待に応えてみせるという気概がうかがえる。


 だが、それだけじゃなかった。

 少年にとっては何より――


『ヘンリー、行こう』


『うん、兄さん』


 馬車に横になったヘンリーに声をかける。

 それと同時に御者が馬を操り、動き出す。


 俺は少年の手に持っていた依頼書を見て、なんでこんなにやる気があるのかを理解した。

 間違いなく、少年にとってこの依頼は何用よりも重要なことだった。


 受けた依頼はある村の護衛任務。

 それだけなら、特に喜ぶこともない

 しかし、この依頼は"霊草"が群生しているとされる大迷宮の、近くの村での護衛依頼だった。


 依頼内容は"霊草"の採取期間、雇い主である貴族の護衛をするというもの。


 ということは……上手くいけば、その貴族から霊魂酒を貰える可能性がある。それでなくとも少し割安に売って貰えるかもしれない。


 少年はそう思っていたに違いない。

 だから、立つことも難しくなってしまった弟を連れだして目的の場所へと向かったのだ。


 だが――


『……分かりました。では依頼が完了した暁には――』


 依頼主に断られてしまい、少年は落胆した。

 なんでも、霊魂酒はこの場には持ってきていないという。


 それでも、依頼完了後には取り寄せて報奨として与えると言われ、少年は持ち直す。その代わりとして、本来受け取るはずだった報奨金は消えてしまったようだが。


 依頼主の荷車に山のように積み上がった霊草。

 まるまると肥え太った貴族の男。

 下品に笑っている、採取依頼を受けたであろう冒険者たち。


『…………?』


 少年はそれを見て、わずかに疑問を抱いたのか、眉をひそめた。


 なぜか――"霊草"を採取するためであろう冒険者が、昼頃にも関わらずまだ出発していない。


 加えて、彼ら彼女らは素行も悪かった。

 騎士として依頼を受けてやってきた少年たちに対して、軽い調子で下世話に声をかけてくる。少年を含めた騎士団の騎士たちが顔を歪めるのも当然といえた。


 が、次の瞬間には騎士、勇者としての顔に切り替え、少年は段取りの説明を聞き始めた。







 映像にノイズが走り、場面が切り替わる。


 少年は村から少し離れた場所に配置されたようで、襲い来る魔物を特にケガをすることなく、淡々と討伐していた。


『なんだ、この多さは? それに――』


 少年は魔物を見て、疑問を抱く。


 そう思ったのも無理はない。

 魔物の量が多いのに加え、リヴルヒイロの近くに生息している魔物の中でも血気盛んで凶暴な魔物が多い。想定していた事態と違う為、困惑しているようだった。


 だが、何よりも少年に疑問を抱かせたのはおそらく――魔物たちが、村に吸い寄せられるかのように少年を無視して侵入しようとしていたことだろう。


 幸い、騎士団から派遣された他の騎士と村の《結界》のおかげで防げては居るようだが、いつ崩壊してもおかしくなかった。少年の近くに多くの獣の骸が転がっていることからも、少年がいなければ数分と保たず侵入されていただろう。


 そのまま夕刻まで少年が奮闘し、魔物の姿がほぼ見えなくなった頃――


『――ゆ、勇者様!』


 村民の女性が息を荒げた様子でやってきた。少年は何があったのか耳を傾ける。


 そして、告げられた内容を聞いて目を見開いた。


『大変です! お連れの、弟様の容態が――』





『ヘンリー! しっかりしろ……ヘンリー!!』


 場面が変わり、少年がヘンリーに必死に声をかけている映像が流れる。


『兄さん? そこにいるの? ごめん、よく聞こえないや……』


 ヘンリーはベッドに横になったまま、兄を探すようにわずかに指を持ち上げて彷徨わせる。もう目を開くことすら困難になり、耳も遠くなっていた。


『お願いします。一騎士として不躾な願いではありますが、一刻も早く霊魂酒を――』


『うむ。だが手元になくてな。国から取り寄せるゆえ、待つがよいぞ』


 依頼主の答えに少年は若干安心したように顔を弛緩させる。


 だが、ヘンリーが一刻を争う事態なのは変わらない。いま、息が途絶えてもおかしくないのだ。


 国から急いで持ってきて貰うにしても、早くても数時間。その為に、少しでも延命させる処置を取る必要があった。


『続けてご無礼を申し上げます……"霊草"を少量ゆずっては頂けないでしょうか?』


 謝礼はいたします、と少年は続けた。


 霊草には一時的にだが霊病の進行を僅かなあいだ抑える効果がある。


 それを思っての行動だったのだろう。

 数刻前にあったあの山盛りの霊草を少しでも使わせて貰えれば、数時間の延命は可能だと。


 しかし。


『……それがな。もう、送ってしまったのだ』


『なッ――』


 無情な答えが返ってきて、少年は絶句する。


 最悪の事態だった。

 いまこの瞬間にも、弟の命は消えかけている。それなのに、数時間耐えなければならない。弟はすでに苦痛で荒い息を吐き……もがき苦しんでいるのにも、関わらず。


『くっ……冒険者殿、村の方々――勇者として……騎士としてお願いする! 霊草を探すのを手伝って貰えないだろうか! どうかお力を貸して頂きたい!』


 少年は周りに必死に叫んだ。

 騎士としての外聞や勇者としての体裁を放り捨て、頭を下げて助けを乞い願った。


『……分かった、騎士様。任せてくれ』


 必死の願いが通じたのか……村の人々、仲間の騎士、そして、"霊草"の採取方法を知っている冒険者たちが、少年の力になってくれると言ってくれた。


『感謝する……!』


 少年は感謝を示すように頭を下げ続ける。


『ヘンリー、あと少しだけ耐えてくれ』


『……うん』


 これで弟が助かるはずだ、と少年は安堵の息を吐いた。



 ◇



 視界が切り替わる。

 鬱蒼と生い茂る森の中を進む少年の姿が映った。


 少年は剣で邪魔な木々を切り落とし、道を切り開いていく。


 だが、少年の歩くスピードはとても早いとは言いがたかった。


 理由は一目瞭然だ。


『大丈夫だ、すぐに見つかる。すぐに――』


『…………う、ん』


 背中に背負ったヘンリーに声をかけ続けながら、少年は止まることなく探し続ける。


『――! どうだ、見つかったか!? …………分かった。連絡、感謝する』


 通信の魔導具を取り、少し話したあとに落胆する少年。


 手分けして探すことにしたのだろう。

 霊草が群生しているとされる"霊樹の庭"は広い。固まって探すよりも、各自に通信機を渡して探すことを選んだらしい。


 身体を動かすことすらできなくなったヘンリーを背負っているのも、採取してから村に戻るのでは遅く、リスクを承知で連れてきたと見える。

 もしくは、いまにも息が絶えそうなヘンリーに声をかけ続けるためだったのかもしれない。


『なぜ、見つからない……!? 情報は合っているはずだ。冒険者からの連絡も……一体何をしている!?』


 苦々しく顔を歪めて、少年は通信機を睨む。


 木々の間から覗く空は暗く、日は既に落ちかけている。このままだと夜行性の魔物、猛獣にも襲われるリスクが高まる。時間は少しも残されていない。



 視界が切り替わる。


『ヘンリー。あと、少しだからな。俺が……すぐに見つけてやる』


『………………う……ん』


 完全に日が落ち、夜の帳が下りた森の中。


 少年は諦めることなく、探し続けていた。


 左手でヘンリーを支え、右手で剣を振っているせいだろう。極度の疲労で右手が震えている。騎士団の鎧は擦りキズだらけになり、荒く息を吐き出していた。


『ぐッ……邪魔、だッ!』


 魔獣から襲いかかられ、弟を守りながら剣で切り捨てる。手に滲んだ汗で剣を滑り落とし、拾おうとしてツタに足を取られ、地面に倒れ込む。


 その姿は、もはや限界だった。


 だが、それでも少年は立ち上がる。

 肩で息をしながら。

 一歩、また一歩と、足を踏み出す。


 少年は周囲に目を凝らして霊草を探し続ける。弟に声をかけ続けながら、自身の身体なんて一切気にすることなく。


 そのまま数分ほど経っただろうか。

 背中で揺られていたヘンリーが、口を開いた。


『……に、いさん』


『なんだ、ヘンリー』


 少年は木々を切り倒しながら返答する。


『ありがと、ね』


『……急に、どうした』


『いつも、迷惑かけてる、から……お礼、言わなきゃって……思って』


『迷惑なわけないだろう。気にするな』


『はは……ほんと、兄さんは……すごいや』


『当たり前だ。まあ……実をいうとだ。手のかかる弟だと思ってはいる』


『……ごめん』


『冗談だ』


 少年は軽く笑う。


『本当、お前はいつも謝ってばかりだな。騎士として、心を強く保てと言っているだろう。軽々しく頭を下げるんじゃない』


『う、ごめん』


『謝るな、と言ってるだろう』


 あはは……とヘンリーは苦笑して。


『兄さん』


『……なんだ?』


『兄さん……は、僕の自慢の……兄さん、だよ』


 ヘンリーは背負われたまま言葉を発し続ける。


『かっこよくて……いつも、僕を助けてくれる。自慢の……兄さん』


『……』


 少年は答えず、前だけを向いて探し続けた。


『でも……一番、好きな……兄さんは、違うんだ』


『分かった。もう喋らなくていい』


 少年を無視して、ヘンリーは言葉を吐き出す。


『小さいときのこと……覚え、てる?』


『ああ、お前はいつも泣いていた。父上によく叱られていたな』


『うん。僕は……さ、弱かった、から』


『お前は弱くなんてない。現に、魔法は俺よりも上手かった』


『……ありがと。でも、そうじゃ、ないんだ』


『続きは後で聞く。もう喋るんじゃない』


 少年は話を断ち切る。

 しかし、ヘンリーは口を閉じることなく。


『むかし、街の女の子が、いじめられてた、とき……兄さんは、助けたよね』


『喋るな、ヘンリー』


『あの、ときの兄さん……すごく、かっこ……よかったよ。"俺は騎士になるんだー!"って、僕たちより、大きい子に刃向かっ……ちゃうん、だもん』


『喋るなと言っている』


『だけど……僕は、何もできなかった。怖くて、臆病に……見てるだけ、だった』


『ヘンリー!』


 少年は怒号を上げる。

 ヘンリーは目を閉じたまま、喋り続ける。


『そんな兄さんが……僕の、自慢なんだ。かっこ、よくて……誰かを、助ける兄さんが……僕の、目標なんだ』


 弱々しい声で、ヘンリーは言葉を吐き出す。

 途切れ途切れに、だが確かに何かを伝えようと、言葉を絞り出していた。


『だから、さ……兄さんは、誰かを――』


 言いながら、急に声が途切れた。


『……ヘンリー?』


 少年は問いかける。

 ここで初めて、少年は一心不乱に探していた手を止めて、ヘンリーの方に顔を向けた。


『……おい、何を眠っている。起きるんだ』


 ヘンリーを地面に下ろし、少年は声をかけ続ける。しかし目を閉じたまま動かない。


『そうか、驚かそうとしているんだな……俺はもう驚いた。だから早く、起きろ』


 少年はヘンリーの身体をわずかに揺する。

 すがるように、願うように。


『二人で、騎士になるって言っただろ。おい……おい! 起きろ……起きるんだ!!』


 森に響くほど大きな声で少年は声をかけ続ける。


 少年は気付いていた。


 でも、受け入れていなかった。現実から目を背けて、拒絶していた。


 少年の声にヘンリーは応えない。


 眠るように目を閉じたヘンリーは……


 もう、息をしていなかった。





 場面が切り替わる。


『……』


 骸を背負いながら、虚ろな眼で村に帰ってきた少年の姿が映る。


『ルーカス小隊長、申し訳ありません……魔物が活性化して、引き上げるしかなく――』


『……いい。しょうがないことだ。お前の判断は正しい』


『勇者様、お力になれず本当に――』


『いや、危険を冒して助力してくれたこと、感謝する』


 心苦しい表情で頭を下げる騎士団の仲間と村の人々。少年は感情の無い声で感謝を伝える。


 責めることなんてできなかったのだろう。


 騎士団の仲間も村の人々も、誠心誠意力を貸してくれた。結果が出なかったからといって、声を荒げて責め立てることはできるわけがない。


 感情に任せて罵詈雑言をはき散らかさない姿は、少年の優しさと聡明さが見えた。


『すまない、寝かせるのを手伝ってくれないか』


 屋内に入り、少年は手伝って貰いながらヘンリーを寝台に寝かせる。

 心配げに付き添おうとしてくれる騎士団の仲間に、一人にしてくれと言って退出して貰い、力無く椅子に腰掛けた。


『……』


 無言でヘンリーを眺める少年。

 寝ていると言われても疑いようが無いほどに、ヘンリーは静かに、安らかに目を瞑っていた。対して少年の顔は空虚で、何の感情も映っていない。


『……忘れていた。冒険者殿にも、礼を言わないと――』


 数分後、少年は立ち上がり、ふらふらと倒れそうになりながら外に出る。


 後にすればいい事だ。だが律儀に少年は冒険者に用意された貸家へと向かっていく。


『冒険者殿……助力、感謝す――』


 扉を開けて、少年は固まった。


『いつまで便所行ってんだよ! 早くこの"霊草"詰めんの手伝えって!』


『――え? 勇者さ…………あ、いや、これは――』


 しどろもどろにいい訳を始める冒険者たち。

 少年は目の前の光景が信じられないと言いたげに、大きく目を見開いていた。


 大きな皮袋にぎっしり詰まった物体――"霊草"。


 だが、それだけじゃない。

 部屋の脇に積まれている――"霊魂酒"と書かれた瓶に入った液体。


『……どういう、ことだ』


 唖然とした顔で、少年は一歩ずつ冒険者たちに歩み寄る。


『あ、これはですね、その――ぎっ!?』


 少年は口を開いた冒険者の首を片手で掴み、宙に持ち上げた。


『嘘を、ついていたのか?』

『ちょ、止めろよ! ジャクソンが死んじま』

『黙れ』


 少年は止めようとした男を殴って地面に叩きつける。


 冒険者たちは嘘をついていた。

 加えて、服装に汚れが無いことから、探してすらいないことは明白だった。


『まったく……騒がしいぞ! あの半獣人が戻ってくる前にまとめろと言って――ひっ』


 ズカズカと、太った巨体を揺らして奥の部屋から出てきた男――依頼主。


 少年は持ち上げていた男から手を離し、依頼主の元へ足を進める。


『くっ……来るな! 汚らわしい半獣人が!』


 依頼主は腰を抜かしながら、後ずさりする。構わず少年は依頼主の髪を掴み、身体を起こさせる。


『なぜ嘘をついた。答えろ』

『はっ、離せ! こんなことをして――』

『答えろ』


 殴り、黙らせる。赤い血が床に飛び散った。


『お前が"霊魂酒"を渡せば、ヘンリーが死ぬことはなかった』


『ひっ……ひい――う、うるさい! そんなの――』


 少年は再度、依頼主を殴る。白い歯が宙を舞う。


『や、止めろよ! 騎士がそんなことしていいのかよ!』


『そ……そうだ! それに、お前勇者なんだろ!? 勇者がこんな事して許されると思ってんのか!』


 冒険者たちがうるさく騒ぎ立てる。少年の行いを否定し、こうあるべきだとまき散らす。


『……勇者?』


『あ、ああ! 勇者なら俺たちを守るべきだろ!』


 少年を囲み、冒険者たちは醜く権利を主張する。

 自分たちは弱い存在だからと。

 強い存在である勇者は俺たちを守るべきだと。


 ……自分たちは、少年に対して何もしなかったにも関わらず。


『わ、悪かった! 霊草でも霊魂酒でもやるから――』


『いらん。もう意味がない』


『な、なら離せ!』


 少年は乱暴に依頼主を離す。

 依頼主は逃げるように奥の部屋へ駆け込んでいく。


 ほっと息を吐いた冒険者が少年に話しかけた。


『ほんと、悪かったよ。分け前も渡すからさ、この件は内密に――――あ?』


 男の腕が宙を舞った。


 少年の剣に腕を切り落とされた男が、無い腕を見て、間抜けな顔を浮かべる。


 数秒後。絶叫が響き渡った。


 冒険者たちが悲鳴を上げ、村人と騎士が何事かと駆けつける。


『ひ、人殺し! たすけ……』

『ふざけるな』


 逃げようとした冒険者の足が切り落とされた。


『俺は何も求めなかった。なのに、なぜだ?』


 止めようとした騎士が吹き飛ばされ、壁に頭をぶつけて昏倒した。


『俺が勇者だから? それとも半獣人だからか?』


 襲いかかる冒険者たちの剣を軽くいなして手を切り飛ばし、襲いかかる魔法を剣で無効化する。


『ふざけるな、ふざけるなよ』


 少年は剣を振り、血の海ができあがっていく。


 ――やめて


 誰かが、そう叫ぶ声が聞こえた。


 ――兄さん、やめて……!


 悲痛な叫び声が、空間に響き渡った。


『殺してやる』


 だが少年は剣を振り続ける。

 声は届くこと無く、冒険者を切り捨てていく。


 この言葉が聞こえなかったのも当然だ。届くはずが無い。


 だって――これは、過去の映像だから。


『この異常者め! "悪魔"よ、あいつを止めよ!』


 醜い声が聞こえて少年は手を止める。


 わめいている依頼主の姿。

 すぐ横には――首輪と手錠を付けられている、禍々しい黒い生物。


『殺しても構わん! だから』


 ブシュッ。

 そんな音とともに依頼主の上半身が消失した。


 部屋を埋め尽くすほど大きな黒い生物――"悪魔"は、壊れた首輪と手錠……そして、ちぎった依頼主の上半身を、うっとうしそうに地面に捨てる。


 俺はそれを見て理解した。

 周囲の魔物の異常な様子は、この悪魔が引き起こしていたんだと。


 少年を見て、悪魔が顔を醜悪に歪ませた。

 少年は無言で剣を構える。


 そして、少年にも悪魔が迫って――


 ここで、俺たちの視界が反転した。 




「元の場所……か?」


 周りを見渡す。《幻想世界》に突入する前の、小剣が刺さった祭壇が視界に映る。

 

 抜け出せた……と見ていいだろう。


 これが悪魔が見せたかった映像。ある赤髪の勇者の、過去の映像。


 なんでこの映像を見せてきたのか。その理由はすぐに分かった。誰が、これを見せたのかも。


 途端、黒い魔力が発生して渦を巻き、形を形成していく。

 ラフィネたちは地を蹴って距離を取り、戦闘態勢を取った。


 だけど、俺は動かなかった。必要ないと分かっていたから。


 黒い魔力が形成した、大きな黒い生物。その物体は禍々しい顔を歪めて大きな牙を覗かせる。


 それは、数秒前に見た醜悪な姿とまったく同じで――

 

 少年を襲った、"悪魔"の姿をしていた。

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