7話 豪勢な夕食
「おおおお……すげぇ……」
目の前に並ぶ豪華な料理の数々に思わず感嘆の声を上げる。
「どうでしょう? 気に入ってもらえたらいいのですが……」
フィナはこちらを窺うように見る。いやこれ、すごいってレベルじゃないんだけど……。
走鎧鳥の肉をメインに使い、竜卵をふんだんに使ったコクのありそうなスープ。これだけでも満足なのに、ふかふかの美味しそうな出来立てパンとデザート、サラダなどのサイドメニューも付いていた。これで文句を言うやつがいたら俺は平手で殴り飛ばしてるだろう。それほどまでに凄かった。
「てか、なんでこんな豪華な料理が出せるんだ? ここ森の中だよな?」
疑問に思ったことを聞くと、「専属の料理人を連れてきてますので……」と言われた。金持ちってすごいね!
どこから材料を持ってきたんだとか他にも聞きたいことはあったが、今は目の前の食事に集中しようと
思い、無駄に装飾された華美な食器を手に取る。
まずはパンから口に運ぶ。……うまっ! ふかふかで出来立てで……とにかくうまい!(語彙力皆無)
バクバク食っていると、「普通に食べても美味しいですが、『竜卵』のスープに浸けて食べたらもっと美味しいですよ」とフィナが言ってきたので、その通りにしてみる。
「う……旨すぎる……!!」
あまりの美味しさに一瞬意識がどこかに行っていた。芳醇な香りをたてる濃厚なスープとふわふわの高級パンが絶妙に混ざり合い、俺の口の中は大変なことになっていた。
「ふふ……お口に合ったみたいでよかったです」
フィナは頬いっぱいに詰め込んで下品に食べる俺に何の注意もせず、にっこりと微笑んだ。天使かな?
「……おい、いくら何でも作法がなってなさすぎる。何だその持ち方は。食器を逆手に持つんじゃない」
さすがに見かねたのか、ほとんど喋らなかったフィナの護衛の仮面女が注意してきた。
だが、食事に集中しているのでそんなことは気にしていられない。ちらっと一瞬だけ顔を向け、すぐにバクバクと食事を再開する。仮面女の頬がヒクッと引きつり、濃厚な殺意の波動を背中に浴びせてきたが、些細な問題だ。
「あー! 師匠ずるいぞ! わたしもー! わたしも食べたい!!」
走鎧鳥のジューシーな肉を頬張っていると、夕食のために狩りに出ていた冒険者がぞろぞろと戻ってきた。レティはクソでかいイノシシ(?)みたいな魔獣を引きずっていた。なんで魔獣狩ってきてんだコイツ。しかもそれ食べれない魔獣だし。分かってるのかな?
レティは引きずっていた魔獣を放り投げ、こちらに駆け寄ってくる。
よだれをダラダラ流しながら、豪勢な食事を物欲しそうに見てくるレティ。
俺はそんなレティの目の前でゆっくりと味わうように食べ、「うまっ! あー、こんなおいしいご飯が食べられないなんてかわいそうだなぁー! 俺の分しか用意されてないもんなぁー!!」と言った。それはもう声を張り上げて叫んだ。周りの冒険者たちから濃厚な殺意を感じた。
レティはそれでもあきらめず、無理やり食べようとしてきたが、頭を掴んでぐぐぐと抑え続けていたら諦めて狩ってきたイノシシ(?)を調理しに行った。いやそれ食べれないからな。
「ふぅ……食った食った」
夕食をペロリと平らげ、満足げにお腹をぽんぽんと叩く。
いやー旨かった。こんな旨い料理食ったの久しぶりだわ。2年前くらいに食べたシャルの料理に匹敵するねこれは。始めは塩と砂糖を間違えてたシャルも、気付けば一丁前に料理できるようになったんだからすごいもんだ。俺なんも教えてないのにな。『愛の力!』とか言ってたけど、独学であそこまで上達したんだからたいしたもんだわ。
「そういえば、貰ってた菓子があったな……」
昔のことを思い出してたら、お菓子屋さんとして店を持つまでになったシャルにお菓子を貰ってたのを思い出した。夕食をご馳走して貰ったんだし、食後のおやつとしてお返ししよう。いっぱいあるし。
俺は次元魔法の異空間収納の中に入れていたお菓子を取り出し、「これ、お返し」とフィナに手渡す。
フィナはぽかんと口を開け、驚いているようだ。そりゃそうか、なんたってあの有名高級菓子店『シャルテット』のお菓子なんだから。ふふん、俺が作ったわけじゃないけど鼻が高いぞ。
「ど……ど……」
フィナはパクパクと声が出ない様子。そのあと落ち着けるように少し深呼吸し、
「どうしてッ! 次元魔法が使えるんですかッッ!?」
と言った。